魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第14話 アザレアの工房 4

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 そんな2人の話も聞いてアザレアはひとつ頷いた。というのも、こと物理的なやり取りに関してフェンリスは、ウロボロスやカルマたちでさえ到達できない領域にいる。具体的には光の速さですら体現できるくらいだ。ならば、速く、という要求は一体どこまで求められているものか、どうして想像できるだろう。それなのにアバウトにしか来ないのだからはっきり言ってお手上げ状態もいいところだった。その点、2人の指摘は数値で示されているため目標がわかりやすくなり、アザレアでも想像できるようになったのだ。

「参考にさせて貰おう。ただ、これ以上となると弾丸にも細工しなくてはならないかな。うーん、そうなってくると……すまない、フェンリス。現状の試作品たちではそこまでいかないと思う」
「そっか……そうだよね。ごめんね、説明がへたくそで」
「いいや、使用者の意図を汲み取れない僕に責任がある。気にしないでくれ」

 言いながらアザレアは微笑んだ。不快な思いをさせないようにと、そんな優しさが溢れていた。フェンリスも笑顔でこれに応じ、この件は終わりとなるはずだった。
 だがカルマは気付いていた。その微笑みの奥に隠された辛さに。アザレアは対リリス戦用の切り札を開発している。しかも一度使えば無くなってしまうのだろうから、念のために予備も用意する必要がある。その上で村の復興、フェンリスの武器まで開発、改良するのだとすればその苦労は計り知れないと。

「……アザレアよ、ワシは少し工房を自由に見て回っても良いかのう?」
「あぁ、好きにしてくれていいよ」

 思うことがあり、カルマはその場を去って工房の上の方へと消えて行ったのだった。
 それを見送り、ウロボロスはとあることを思い出して手を叩く。

「そうでした、大変に重要なことを忘れていました。アザレア、中々に立派なお風呂を作ってくれてありがとうございます」
「もう見たのかい? どうだった、湯加減は?」
「全体的に大変良かったと思います。ただ強いて言えば、もっとこう……滝のようなお湯が欲しい気もしましたね」
「ふむふむ、滝か」

 アザレアは顎に手を当てながら考え込む。滝のようなお湯とは、つまり、高いところからある程度の勢いを持って流れて来る給湯方法だろう。そんなものの何が良いのか。外気に触れる時間が増えるため、計算に計算を重ねた最適な温度から下がってしまう。しかも飛沫が飛んであちこち水浸しになってしまう。それに対して良い所は何かひとつでもあるのか、と。
 考えて、考えて、それでも効率優先のアザレアは良さを見付けられなかった。だがそんな時、フェンリスがニコニコ顔でこんなことを言う。

「ウロボロスが好きならいいと思うな、私」

 言われてアザレアはこれ以上の理由は無いと確信できる程に納得した。あの温泉はウロボロスを癒すことを一番の目的として作られたものだ。その目的を果たすためならば、彼女の要望は細かいことを気にせずに叶えてあげるべきである。そんな当たり前のことを、効率、被害などから見落としてしまうとは何と情けないことかと、彼は自分に呆れもした。

「そうだね、まったくその通りだ」
「ワガママを言って申し訳ありません。難しいのなら結構ですし、時間がかかるようなら無理にとは言いません」
「いや、僕の技術向上のためにもやらせて貰うよ。色々と面白い発見もありそうだしね」

 なんてもっともらしい理由を付けるのをアザレアは忘れない。こうでもしなくては、ウロボロスは遠慮してしまう性格だからだ。
 彼は気付いている。先日倒れてから多少休むようになったのだろうが、それでもまだ十分に休んでいないのだろうと。顔色、目の下の隈、覇気。そういったものが出会った時よりも明らかに悪い。何とかしなくてはと思いながらも、アイテム製作以外で力になれることはそう多くはなく、歯がゆい思いを覚えていた。

「もしもお風呂ができたら皆で入ろうね、ウロボロス!」
「えぇ、楽しみですね」

 しかし今は少なくとも笑顔を浮かべている。それならここはこれでいいだろう。とにかく今は温泉の改造も急いで実施し、何か別の方法を考えてどんどん実行していこう。アザレアはそう決意したのだった。
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