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第1章 偽りの騎士
第14話 アザレアの工房 3
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そんな世紀の大発明のアイテムを、ウロボロスはまじまじと観察する。横からカルマも覗き込み、共にステータスチェックを行う。結果、抱いた感想はどちらも同じだった。お互いに顔を見合わせて頷き合うと、代表してウロボロスが口にする。
「見たところ十分な性能に仕上がっていますね。これで完成ですか?」
「いいや、まだまだ。この程度で満足されては困るね」
アザレアはそう言うが、これだけの性能があればゲーム内の貨幣価値が変わってしまいかねない程の巨額の価格で取引されるだろう。なにせ先に述べた通り、詠唱やキャストタイミング、溜めといった明らかな弱点を排除してしまう代物なのだから。
「ではどこまで昇華するつもりなのじゃ?」
カルマの疑問はもっともだ。ここは既に頂点と言っていい。更に上を目指すとなると、もはやどんな方向性になるのか彼女には全く想像が付かなかったのだ。
それに対し、ウロボロスはとある可能性をポツリと呟く。
「……考えられるとすれば、いえ、これはもうキリのない願望と言うべきでしょうが、完全なる隠匿でしょうか」
「これは人聞きの悪い。絶対に認知されないと言って欲しいね」
だが、ほぼウロボロスの言う通りであった。アザレアはグリーフシードを使用したことを認識できないという、凶悪としか言いようのない効果を付与しようとしているのである。
なぜ凶悪なのか。それは、魔法やスキル、武器、アイテム、いや、もう通常攻撃から踏み出した足の一歩まで、その全ての動作は種類を問わず基本的に認識されるものだ。カルマのエンドレス・ワルツ、異空間へと身を投げるスキルだって、その発動だけはどうしても隠せない。何事もその行為の始まりは絶対に秘密にできないのだ。それを隠そうなどと、隠匿以外に何と言えばいいものか。
しかし、卑怯とは2人とも思っていない。そのような固定観念を払拭してようやく勝ち目の見えてくる相手なのだから。
「ふふ、そうですね。少々言葉が過ぎたかもしれません。リリス様と戦うようなことがあれば、そのくらいのハンデが無くては困りますからね」
「えぇ、それにこれは魔王様から特に大切だと言われている要素。欠かすことなどできないのさ」
「……むぅ、なるほどのう」
カルマもまたリリスを脅威と思っており、真っすぐぶつかっても勝てないだろうと思っていた。だが、だからといってここまでするとは考えたこともなく、ただただ驚き、そして舌を巻いた。ただ、同時に気がかりな事が無い訳でもなかった。アイテムはアイテムだ。基本的に一度使えば無くなってしまうため、使用を前提とする時点ではっきり言えば勿体ない。しかし、もしもそんな性能のグリーフシードが出来上がればこの上ない切り札になるのは明白で、出し惜しみなどしている余裕なんて無いのだが。
「ふふ、頼もしい限りで安心しました。本当ならここでお暇させて頂こうかと思っていたのですが、ところで……あれは何ですか?」
ウロボロスは工房の隅にある一角を指さした。そこは明かに広いスペースが取られており、ともするとサッカーや野球ができそうなくらいである。
「あぁ、折角だし見学するかい? 今は試し撃ちの最中さ」
「試し撃ち……あぁ、なるほど」
ウロボロスはその説明だけで合点がいった。そして邪魔しては悪いかなとも思ったのだが、彼女の時間の浪費を嫌ったはずのアザレアが勧めたように、その様子を見に行こうと彼女自身もまた決める。
カルマは理解が追い付かないもののその後を追った。
これだけの騒音のためだろうか、集中しているためか、はたまた信頼している人たちの接近だからか。そこで試し撃ちをしている人物は全く気付いた素振りも見せず黙々と的に向かって攻撃を続ける。
「うーん……まだ遅いかも」
その人物とはフェンリスだった。手にしていたのはピストルの武器であり、宝箱の形をしたアイテムボックスへと丁寧に返すと、もう一つのボックスから別の銃を取り出して構える。そして発砲し、また首を捻ってから3人の方を向いた。
「ねぇ、ウロボロス。もっと速い方がいいよね?」
速いか速くないかと聞かれれば、盾持ちのウロボロスからすれば速い方だと答えるレベルではある。だが銃は魔法と違い、その特性上、放ってからのコントロールが効かない。敵に見切られたら終わりなのだ。
「えぇ、そうですね。せめて現状の3倍は必要でしょう」
だからこそ、速い方であるとウロボロスが答えることは絶対にない。下手な優しさや曖昧な評価は不要。戦闘に関して妥協は厳禁。命のやり取りであることも勿論だが、それ以上に、オラクル・ナイツに敗北などあってはならないのだから。
そんな心遣いは露知らず、純粋に強さのみを追い求めるフェンリスは「そうだよねぇ」と口にしてからアザレアに問いかける。
「うーん、アザレア。もっと速くできないの? これじゃあ止まって見えちゃうよ」
「これはまた面白い冗談だね」
ウロボロスは速い方だと思ったようだが、アザレアは違う。ラピッド・アイ、高速で移動する物を目で追うための魔法無くしては全く見えていないのだ。自身の能力だけでは、的の様子から推察することしかできないくらいに。
「冗談なんかじゃないって。カルマもそう思うでしょ?」
「うむ、そうじゃのう。ウロボロスの言う通り、今の3倍あって初めて機能するかもしれぬ」
カルマはというと、このままの状態でも辛うじて見えていた。一切の魔法、スキル、アイテムを使用することなく避けることもできるだろう。しかし戦闘時となると高速戦闘にも対応できるようにしてしまう。もっと速くなくては話にならない。
「見たところ十分な性能に仕上がっていますね。これで完成ですか?」
「いいや、まだまだ。この程度で満足されては困るね」
アザレアはそう言うが、これだけの性能があればゲーム内の貨幣価値が変わってしまいかねない程の巨額の価格で取引されるだろう。なにせ先に述べた通り、詠唱やキャストタイミング、溜めといった明らかな弱点を排除してしまう代物なのだから。
「ではどこまで昇華するつもりなのじゃ?」
カルマの疑問はもっともだ。ここは既に頂点と言っていい。更に上を目指すとなると、もはやどんな方向性になるのか彼女には全く想像が付かなかったのだ。
それに対し、ウロボロスはとある可能性をポツリと呟く。
「……考えられるとすれば、いえ、これはもうキリのない願望と言うべきでしょうが、完全なる隠匿でしょうか」
「これは人聞きの悪い。絶対に認知されないと言って欲しいね」
だが、ほぼウロボロスの言う通りであった。アザレアはグリーフシードを使用したことを認識できないという、凶悪としか言いようのない効果を付与しようとしているのである。
なぜ凶悪なのか。それは、魔法やスキル、武器、アイテム、いや、もう通常攻撃から踏み出した足の一歩まで、その全ての動作は種類を問わず基本的に認識されるものだ。カルマのエンドレス・ワルツ、異空間へと身を投げるスキルだって、その発動だけはどうしても隠せない。何事もその行為の始まりは絶対に秘密にできないのだ。それを隠そうなどと、隠匿以外に何と言えばいいものか。
しかし、卑怯とは2人とも思っていない。そのような固定観念を払拭してようやく勝ち目の見えてくる相手なのだから。
「ふふ、そうですね。少々言葉が過ぎたかもしれません。リリス様と戦うようなことがあれば、そのくらいのハンデが無くては困りますからね」
「えぇ、それにこれは魔王様から特に大切だと言われている要素。欠かすことなどできないのさ」
「……むぅ、なるほどのう」
カルマもまたリリスを脅威と思っており、真っすぐぶつかっても勝てないだろうと思っていた。だが、だからといってここまでするとは考えたこともなく、ただただ驚き、そして舌を巻いた。ただ、同時に気がかりな事が無い訳でもなかった。アイテムはアイテムだ。基本的に一度使えば無くなってしまうため、使用を前提とする時点ではっきり言えば勿体ない。しかし、もしもそんな性能のグリーフシードが出来上がればこの上ない切り札になるのは明白で、出し惜しみなどしている余裕なんて無いのだが。
「ふふ、頼もしい限りで安心しました。本当ならここでお暇させて頂こうかと思っていたのですが、ところで……あれは何ですか?」
ウロボロスは工房の隅にある一角を指さした。そこは明かに広いスペースが取られており、ともするとサッカーや野球ができそうなくらいである。
「あぁ、折角だし見学するかい? 今は試し撃ちの最中さ」
「試し撃ち……あぁ、なるほど」
ウロボロスはその説明だけで合点がいった。そして邪魔しては悪いかなとも思ったのだが、彼女の時間の浪費を嫌ったはずのアザレアが勧めたように、その様子を見に行こうと彼女自身もまた決める。
カルマは理解が追い付かないもののその後を追った。
これだけの騒音のためだろうか、集中しているためか、はたまた信頼している人たちの接近だからか。そこで試し撃ちをしている人物は全く気付いた素振りも見せず黙々と的に向かって攻撃を続ける。
「うーん……まだ遅いかも」
その人物とはフェンリスだった。手にしていたのはピストルの武器であり、宝箱の形をしたアイテムボックスへと丁寧に返すと、もう一つのボックスから別の銃を取り出して構える。そして発砲し、また首を捻ってから3人の方を向いた。
「ねぇ、ウロボロス。もっと速い方がいいよね?」
速いか速くないかと聞かれれば、盾持ちのウロボロスからすれば速い方だと答えるレベルではある。だが銃は魔法と違い、その特性上、放ってからのコントロールが効かない。敵に見切られたら終わりなのだ。
「えぇ、そうですね。せめて現状の3倍は必要でしょう」
だからこそ、速い方であるとウロボロスが答えることは絶対にない。下手な優しさや曖昧な評価は不要。戦闘に関して妥協は厳禁。命のやり取りであることも勿論だが、それ以上に、オラクル・ナイツに敗北などあってはならないのだから。
そんな心遣いは露知らず、純粋に強さのみを追い求めるフェンリスは「そうだよねぇ」と口にしてからアザレアに問いかける。
「うーん、アザレア。もっと速くできないの? これじゃあ止まって見えちゃうよ」
「これはまた面白い冗談だね」
ウロボロスは速い方だと思ったようだが、アザレアは違う。ラピッド・アイ、高速で移動する物を目で追うための魔法無くしては全く見えていないのだ。自身の能力だけでは、的の様子から推察することしかできないくらいに。
「冗談なんかじゃないって。カルマもそう思うでしょ?」
「うむ、そうじゃのう。ウロボロスの言う通り、今の3倍あって初めて機能するかもしれぬ」
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