魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第1章 偽りの騎士

第22話 後日談 3

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 その頃、イース・ディードの中心街、イーストのメインストリートでは様々な農作物が売られていた。さんさんと照らす太陽で焼けた、小麦色の肌の男性たちが競うようにして通行人たちに売りさばいている。
そんな生きた人々の中にユウたちの姿もあった。

「そこの可憐なお嬢さん! いいジャガイモが入っているよ! 大切な人の心を手料理で掴んでみないかい!?」
「わ、我が君! ジャガイモを買いましょう!」
「乗せられるな。さっき買ったじゃないか」

 3店舗もはしごしてさ、それぞれで買わされてさ、この上まだジャガイモを欲しがるなんて冗談じゃない。畑でもやろうっていうのか。この手の商売人は言葉を返したら駄目だ。断るならそそくさと立ち去る。これに限る。
そんな訳でさっさと立ち去ろうとしたのだが、ウロボロスは頑として動こうとしない。見ると、既に術中にはまっていた。

「それならニンジンはどうだい! カレーライスで隣の美青年のハートを射止めなよ!」
「そ、そうです! カレーライスです! それにはニンジンが!」
「……それも買ったっての。5本ずつ、4店舗で」

 合計20本も買わされてさ、更に増やしてどうするつもりなんだよ。ご近所さんにお裾分けでもするつもりか。買って配るとかもうわけわかんないから。まぁ、そもそもご近所さんなんていないんだけども。

「なら隠し味にリンゴなんてどうだい!? お嬢さんの隠し切れない思いをカレーに込めちまいな!」
「なるほど、それは名案です! 我が君!」
「もう好きにしてくれ……」

 白旗を振らざるを得なかった。リンゴはまだ2店舗目だからマシなこともあるが、何より、この店主はもう見抜いている。俺をダシにすればウロボロスはいくらでも買ってしまいかねないと。それこそ店ごと買っちゃいそうな勢いである。そう考えればリンゴで済むのなら安いというものだ。
 だが、そう思ったのは俺だけらしい。他の皆は一部を除いて呆れてしまっている。

「やれやれ、要らない買い物など勿体無いことこの上無いですねぇ」
「まぁ、あんなにはしゃぐウロボロスを見られたのじゃ。必要経費じゃろうて」
「カレーライス、楽しみです!」
「弟子としては少々恥ずかしい」

 言われているはずの本人、ウロボロスはそんな事はお構いなしという勢いでリンゴを40個も買ってくれた。木箱に入ったままの状態、つまり箱買いというやつだ。
 おぉ、もうどこから突っ込んでいいやら。他の2店舗でも中々の数を買ってくれたじゃないか。それを全部投入しようものなら、もはやそれはカレーではない。リンゴジャム的な何かだろうに。それにさ、誰が持つんだよ。あ、今度はムラクモか。憐れ、ムラクモ。
 これでもう誰の手も空いていない状況だ。俺は例外と強く言われて仕方なく手ぶらだが、両手に数え切れない程の袋を下げたウロボロスに、そのまま腕を組まれるんだからたまったものではない。買い物はこんなにも過酷だと認識を改めなければ。

「あぁ、これが新妻の気持ちなんですね!」
「気持ちだけな、気持ちだけ」
「愛は相手を思いやる気持ちから始まるのですから、これは大きな一歩です!」
「む、それは否定しがたい。やるな、ウロボロス」
「お褒め頂き光栄です、我が君!」

 遂に言いくるめられてしまう日が来るとは。なんて、それはどうでもいい。今一番大切なのは、この痛過ぎる抱き着きを何とかすることだ。最善策はウロボロスを引き剥がすことだが腕力では絶対に敵わない。次善策として、せめてウロボロスの持っている袋を誰かもう少し持ってくれないかなぁ、なんて思いながら振り返ると、フェンリスが腰に飛び付いてくる。

「えへへー、魔王様! 私も大好きです!」
「あ、こら! フェンリス! 我が君に対して何たる無礼な!」

 それ、凶器的な買い物袋を渾身の力で押し込んでくるウロボロスが言える台詞じゃ無いよね。なんて突っ込もうかと思った時、反対側に妙な柔らかさと温かみを感じた。

「フェンリスに先を越されるとはのう」

 いつの間にかカルマが寄り添っていた。しかし痛みは無い。ありがたいことに、買い物袋が俺に当たらないように反対の手で全て持ってくれているようだ。たったそれだけでも惚れてしまいそうになるのに、腕に腕を絡めて、目を閉じ、熱の籠った吐息を漏らしている。見ているこっちまで変な気分になってしまいそうだ。

「カルマ、隣はフィアンセの席ですよ! 離れなさい!」
「側室の席も必要じゃろうて。どうしてもと言うのならフィアンセの座との交換じゃ。それなら今だけは離れても良いぞ?」
「冗談では済まされませんよ! そこに直りなさい! 今日という今日は許しません!」
「やれやれ、これでは先が思いやられるのう」

 2人がいがみ合っている、というか、ほぼウロボロスが一方的に喧嘩を吹っかけ始めていると、今度は爽やかな笑みを浮かべたアザレアがにじり寄って来た。なぜか服に手をかけ始める。

「その理屈ならば前は貰っても良いということです。いきますよ、魔王様!」
「厳命を下すぞ。お前はそこで待機だ」
「お……おぉ、またしても厳命を頂けるとは! 恐悦至極に御座います!」

 本人が嬉しそうなら何よりだ。誰も傷付かずに済むというもの。そのように俺は納得して合意の上で問題をクリアしたつもりだったのだが、まさかのムラクモが口を挟む。やれやれといった具合ではあるが。

「それでいいのか、アザレア……」
「前だけを見るのです、ムラクモ。ほら、みんな笑っている。それが一番さ」
「ふむ……いささか難しい話か」
「いつか慣れるさ」

 なぜか小難しい話に発展したらしい。それでもアザレアが変な気持ちをぶり返さないようだから、俺としては結果オーライである。
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