魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
116 / 176
第1章 偽りの騎士

第22話 後日談 2

しおりを挟む
 その頃、聖リリス帝国の玉座の間では緊急の召集がかけられていた。これに対しロアとルーチェを除く四大将軍の残り2人を初めとして、多くの騎士たち、文官たちはすぐさま応じ、今に至る。

「……以上のような経過をたどり、逆賊キダの野望は潰えたと思われます。報告終わります」

 報告を終えた兵は一礼すると、そそくさと末端の席に戻っていく。その足取りは決して颯爽とはとても言えず、ともすると、立っているのもやっとのように見える程に憔悴し切っていた。

「このような結末に至るとは、何とも後味の悪い結果になってしまいました。四大将軍の代表として謝罪しましょう」

 この場にいる全ての騎士、文官の中で最も玉座に近い位置にいる女性、四大将軍の大将シャルディは謝罪した。緑色の腰まで届く髪がさらりと垂れて、それを直すように耳元から手ですくい上げる。たったそれだけの仕草で、こんな状況でありながら溜め息を吐く者が少なからずいた。
 しかし上に立つ者たちは惚けてなどいられない。すぐさま血相を変えて食ってかかる。

「そ、そうだ! あんな老いぼれと小娘には過ぎた役職だったんだ!」
「そもそもなぜ彼らを向かわせたのです!? 貴女が行けばこんな事にはならなかったでしょう!?」
「どう責任を取るのですか!? 国民は怯えているのですぞ!?」

 これはもう議論にはなり得ない。一方的な感情を投げ付けるだけの無意味な場だ。
 だがこうなることは予想済み。さっさと胸の内に溜め込んだものを吐き出させようと、シャルディは何も言わずに黙って意見という名の暴言が出てしまうのを待つ。

「各々の言いたいことはよくわかりました。全てに解答することはできませんが、そうですね、責任という部分については言及しておきましょう。問います。仮に私たちが揃って辞職したり、腹を掻っ捌いたりすれば丸く収まると思いますか?」
「待て! なぜ我々もやらねばならん!?」
「今回の作戦はあなた方の提案でしょう? 発案者は実行者共々、戦犯として裁かれるのではありませんか?」

 言いたい放題だった者たちは一様に押し黙る。シャルディの言う通りだからだ。この作戦を強く推したのは彼らである。理由は人それぞれで、中には自身の出世のため、上官との取引材料にするためなど様々なものもあったが、ほぼ満場一致でキダの早期討伐をと叫んだ。それでも、ほぼ、となったのはルーチェを除く四大将軍たちが揃って首を横に振ったからだった。

「今は責任の所在など論ずる必要はない。そう結論付けて、次の段階へと進むことを提案させて頂きたいのですが異論ありますか?」

 シャルディの提案に反対する者はいない。悔しそうに拳を震わせたり、俯いたり、唇を噛みしめたりといった状態の者ばかりではあるが、何とか話し合いという状況に移行できるようになった。

「さて、目下最大の脅威が新たに出現しました。まともに剣を交わした者はいないでしょうが、キダに手も足も出なかった私たちが、そのキダを討ち滅ぼした魔王にどうして敵うことがありましょう? この事態に当たるのならば最大戦力で、加えて早急に臨む必要があります」

 シャルディの視線が横へと向く。わざわざ「早急に」と言ったその理由、彼女は名指しされているのだと即座に理解していた。
 聖リリス帝国は諸国が寄せ集められてできたばかりの新興国だ。連携などまだ上手く取れるはずがなく、しかし魔王はいつ襲いかかって来るのか想像も付かない。早急にとなればどうしても以前の国単位での活動となってしまう。そういう意味では最も軍として機能できる彼女ら以上の適任はいなかった。
 少女は誰にも悟られないように小さく溜め息を吐いた時、その凛々しい声を発する。

「その新たな脅威を捨て置けぬなら私たちが出るだけのこと。そういう契約なのですから」

 シャルディの次に高位の場所に立っていた少女は人であって人ではなかった。まだあどけなさは多少残っているものの、その腰には立派な竜翼と尻尾、額には王たる証の竜玉が埋まっている。そう、ウロボロスと同じドラゴンメイドであった。

「私が……とは、まさか」

 騎士や文官たちがその言葉の意味を理解するよりも早く、その子はすくっと立ち上がる。そしてシャルディを一瞥するとすぐに全体を見渡しながら声高らかに宣言する。

「私、ナディア=イスパダールの名においてここに告げます。その魔王とやら、我ら紅竜同盟が対処しましょう」

 紅竜同盟が動く。その言葉に誰もが恐れおののき、しかし四大将軍が2人も出た今回よりもずっと強い希望を抱き、言葉を失った。
 これに対してシャルディは何も言葉を挟まない。挟む必要がない。ナディア率いる紅竜同盟は聖リリス帝国において文句無しの最強の軍団であり、まさに意図した通りの展開になったのだから。
 しんと鎮まり返った場。その静寂を、あろうことか小さな笑い声で破ったのは、玉座に腰かけている神官風の服をまとったその子、リリスであった。

「正気ですか、ナディア?」
「ここに列することが既に狂気の沙汰。ピエロが笛を吹いて滑稽に思いますか?」

 リリスは肩肘をつきながら微動だにせず、その目をじっと見つめた。ナディアもまた見つめ返した。時間にしておよそ3秒。これまたリリスの笑い声で話は進む。

「ふふ、ならば止めはしません。しかしそれなりの覚悟は必要ですよ?」
「災厄の芽を摘み取った相手。情け油断は一切御座いません」
「では行ってらっしゃいな」

 ――そして、ユウ様の御力に絶望するのです
 誰にも聞こえない小さな声で聖少女リリスはそう付け足し、軍議は終わったのだった。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...