魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
122 / 176
第2章 暁の竜神

第1話 朝は戦場 1

しおりを挟む
 ひとつ贅沢な悩みを打ち明けようと思う。超絶美女。しかもモデル体型。まさに絵に描いたような女性に後ろから抱き付かれたことはあるだろうか。甘く熱の篭った吐息がかかる程に近くから確かな温もりを感じる。そんな夢のような状況。つまり柔らかいベッドの上で強く、強く抱き締められたことはあるだろうか。

「うーん……我が君、愛しておりますぅ……」

 惜しむらくはここは窓の無い屋内。残念ながら気持ちの良い朝日を浴びて目を覚ますオプションはない。そんな爽やかさはどうしても足りない。だが、しかし。それでもこれ。見せ付けられたら発狂して当然。羨ましい、妬ましい、リア充爆発しろ。そんな呪詛を吐きながら壁に拳を打ち付けただろう、これまでは。でも今は違う。事実は小説よりも奇なり。

「う……う……ろ……ボロス……!」

端的に言おう。殺されそうです。

「はいぃ……お呼び……ですかぁ……」

 ウロボロスのステータスは群を抜く。一方で俺は魔法やスキル、MPとかに全振りだからステータスは控えめだ。例えるなら俺は赤子かもしれない。赤子が筋肉マッチョメンに勝てるだろうか。それと同じ。見えた勝負。見え見えの末路。具体的には圧死、いや腹上死と言えるかもしれない。とにかく、こうやって無意識にホールドされ続けたら死亡確定である。
 足掻いてみる。何とか逃れようと思い切り力を込めてみる。生きたい。でも無駄。両手足でガッチリと拘束されている。ビクともしない。

「こ……う……なっ……たら!」

 力では駄目だ。押して駄目なら引いてみるとかいう次元の問題じゃない。根本から手段を変えないと駄目。手はある。こんな絶望的な状況からでも逆転できる秘策はある。ただし、それにはかなりのハイリスクが伴う。ともすると一生を棒に振りかねない程の。でもだからどうした。ここで果てるくらいなら強行手段に出るしかあるまい。男だろ。生き延びるためだろ。今この瞬間を乗り越えられるならどうとでもなれ。

「う……ろ……ボロス……! あ……愛……している……っ!」
「本当ですか、我が君!?」

 メキャッという嫌な音がしちゃった。絶対に大切な何かがひしゃげた音が。たちまち全身から嫌な汗が吹き出す。ついでにボロボロと涙が出て来て止まらない。だが助かった。ライフゲージはレッドラインでギリギリ止まっていて、尋常ではない痛みがあるものの生きている。むしろ痛いからこそ生還できたのだと数字以上に実感できていた。
激痛に苦しみながら顔を上げると、完全に覚醒したらしいウロボロスと目が合う。惚けた表情をしていたのは一瞬で、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

「我が君、如何なさいましたか? 顔色が優れませんが……」
「あ……うん……まずは……離れて……くれない?」
「離れる……? か、畏まりました」

 迫真の演技ではなく実際に九死に一生を得たばかりの顔をしていると伝わったのかもしれない。すんなりと離れてくれた。だが、だからどうすれば良いのかまではわからないのだろう。オドオドして、どうしたものかと一生懸命に考えているようだ。
 はっきり言って聞かせたいところだが我慢だ。何が起きたのか知られたら自害されかねない。飲み込もう。この感情も、飛び出ていきそうな言葉も、何もかも。沈黙は金なり。

「我が君、どこか具合が悪いのですか? 私にできることでしたら何でも言ってください」

 犯人に心配そうな表情で、本気で気遣われる。困ったものだ。無自覚でやらかしてくれるんだから。しかもその原動力が俺に対する愛なのだから質が悪い。
 まぁ、今回はいい。このようなシチュエーションをイメージしたことは数え切れない程あって、そんな邪な思いで設定文を書いたのは俺なのだ。ならばこれは罰。制裁されて当然のこと。それで手打ちとしておこう。

「なぁ……それよりも、布団に入って来るなよ」

 問題はこれだよな。寝る度に死神。間違えた。愛に突き動かされたウロボロスが首を狙いに。あ、いや。夜伽か何かを目的に潜り込んで来るかもしれないのだ。命がいくつあっても足りない。いっそ包丁でも抱いて寝た方がまだ生存率が高そうだ。なにせ腕一本、指先一本ですら余裕で致死レベルの凶器になるのだから。

「あの、私はフィアンセですからお体を温めようと……。そ、そうです! 温めて差し上げます!」
「落ち着け、頼むから落ち着け……っ!」

 痛みを堪えながら腹から声を振り絞ったかいもあって、思いは届いたらしい。両手を広げて今まさに飛びかかろうとしていたウロボロスが止まってくれた。間一髪。九死に一生。冗談抜きで追撃を受けようものなら文句なく死亡する。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...