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第2章 暁の竜神
第1話 朝は戦場 1
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ひとつ贅沢な悩みを打ち明けようと思う。超絶美女。しかもモデル体型。まさに絵に描いたような女性に後ろから抱き付かれたことはあるだろうか。甘く熱の篭った吐息がかかる程に近くから確かな温もりを感じる。そんな夢のような状況。つまり柔らかいベッドの上で強く、強く抱き締められたことはあるだろうか。
「うーん……我が君、愛しておりますぅ……」
惜しむらくはここは窓の無い屋内。残念ながら気持ちの良い朝日を浴びて目を覚ますオプションはない。そんな爽やかさはどうしても足りない。だが、しかし。それでもこれ。見せ付けられたら発狂して当然。羨ましい、妬ましい、リア充爆発しろ。そんな呪詛を吐きながら壁に拳を打ち付けただろう、これまでは。でも今は違う。事実は小説よりも奇なり。
「う……う……ろ……ボロス……!」
端的に言おう。殺されそうです。
「はいぃ……お呼び……ですかぁ……」
ウロボロスのステータスは群を抜く。一方で俺は魔法やスキル、MPとかに全振りだからステータスは控えめだ。例えるなら俺は赤子かもしれない。赤子が筋肉マッチョメンに勝てるだろうか。それと同じ。見えた勝負。見え見えの末路。具体的には圧死、いや腹上死と言えるかもしれない。とにかく、こうやって無意識にホールドされ続けたら死亡確定である。
足掻いてみる。何とか逃れようと思い切り力を込めてみる。生きたい。でも無駄。両手足でガッチリと拘束されている。ビクともしない。
「こ……う……なっ……たら!」
力では駄目だ。押して駄目なら引いてみるとかいう次元の問題じゃない。根本から手段を変えないと駄目。手はある。こんな絶望的な状況からでも逆転できる秘策はある。ただし、それにはかなりのハイリスクが伴う。ともすると一生を棒に振りかねない程の。でもだからどうした。ここで果てるくらいなら強行手段に出るしかあるまい。男だろ。生き延びるためだろ。今この瞬間を乗り越えられるならどうとでもなれ。
「う……ろ……ボロス……! あ……愛……している……っ!」
「本当ですか、我が君!?」
メキャッという嫌な音がしちゃった。絶対に大切な何かがひしゃげた音が。たちまち全身から嫌な汗が吹き出す。ついでにボロボロと涙が出て来て止まらない。だが助かった。ライフゲージはレッドラインでギリギリ止まっていて、尋常ではない痛みがあるものの生きている。むしろ痛いからこそ生還できたのだと数字以上に実感できていた。
激痛に苦しみながら顔を上げると、完全に覚醒したらしいウロボロスと目が合う。惚けた表情をしていたのは一瞬で、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「我が君、如何なさいましたか? 顔色が優れませんが……」
「あ……うん……まずは……離れて……くれない?」
「離れる……? か、畏まりました」
迫真の演技ではなく実際に九死に一生を得たばかりの顔をしていると伝わったのかもしれない。すんなりと離れてくれた。だが、だからどうすれば良いのかまではわからないのだろう。オドオドして、どうしたものかと一生懸命に考えているようだ。
はっきり言って聞かせたいところだが我慢だ。何が起きたのか知られたら自害されかねない。飲み込もう。この感情も、飛び出ていきそうな言葉も、何もかも。沈黙は金なり。
「我が君、どこか具合が悪いのですか? 私にできることでしたら何でも言ってください」
犯人に心配そうな表情で、本気で気遣われる。困ったものだ。無自覚でやらかしてくれるんだから。しかもその原動力が俺に対する愛なのだから質が悪い。
まぁ、今回はいい。このようなシチュエーションをイメージしたことは数え切れない程あって、そんな邪な思いで設定文を書いたのは俺なのだ。ならばこれは罰。制裁されて当然のこと。それで手打ちとしておこう。
「なぁ……それよりも、布団に入って来るなよ」
問題はこれだよな。寝る度に死神。間違えた。愛に突き動かされたウロボロスが首を狙いに。あ、いや。夜伽か何かを目的に潜り込んで来るかもしれないのだ。命がいくつあっても足りない。いっそ包丁でも抱いて寝た方がまだ生存率が高そうだ。なにせ腕一本、指先一本ですら余裕で致死レベルの凶器になるのだから。
「あの、私はフィアンセですからお体を温めようと……。そ、そうです! 温めて差し上げます!」
「落ち着け、頼むから落ち着け……っ!」
痛みを堪えながら腹から声を振り絞ったかいもあって、思いは届いたらしい。両手を広げて今まさに飛びかかろうとしていたウロボロスが止まってくれた。間一髪。九死に一生。冗談抜きで追撃を受けようものなら文句なく死亡する。
「うーん……我が君、愛しておりますぅ……」
惜しむらくはここは窓の無い屋内。残念ながら気持ちの良い朝日を浴びて目を覚ますオプションはない。そんな爽やかさはどうしても足りない。だが、しかし。それでもこれ。見せ付けられたら発狂して当然。羨ましい、妬ましい、リア充爆発しろ。そんな呪詛を吐きながら壁に拳を打ち付けただろう、これまでは。でも今は違う。事実は小説よりも奇なり。
「う……う……ろ……ボロス……!」
端的に言おう。殺されそうです。
「はいぃ……お呼び……ですかぁ……」
ウロボロスのステータスは群を抜く。一方で俺は魔法やスキル、MPとかに全振りだからステータスは控えめだ。例えるなら俺は赤子かもしれない。赤子が筋肉マッチョメンに勝てるだろうか。それと同じ。見えた勝負。見え見えの末路。具体的には圧死、いや腹上死と言えるかもしれない。とにかく、こうやって無意識にホールドされ続けたら死亡確定である。
足掻いてみる。何とか逃れようと思い切り力を込めてみる。生きたい。でも無駄。両手足でガッチリと拘束されている。ビクともしない。
「こ……う……なっ……たら!」
力では駄目だ。押して駄目なら引いてみるとかいう次元の問題じゃない。根本から手段を変えないと駄目。手はある。こんな絶望的な状況からでも逆転できる秘策はある。ただし、それにはかなりのハイリスクが伴う。ともすると一生を棒に振りかねない程の。でもだからどうした。ここで果てるくらいなら強行手段に出るしかあるまい。男だろ。生き延びるためだろ。今この瞬間を乗り越えられるならどうとでもなれ。
「う……ろ……ボロス……! あ……愛……している……っ!」
「本当ですか、我が君!?」
メキャッという嫌な音がしちゃった。絶対に大切な何かがひしゃげた音が。たちまち全身から嫌な汗が吹き出す。ついでにボロボロと涙が出て来て止まらない。だが助かった。ライフゲージはレッドラインでギリギリ止まっていて、尋常ではない痛みがあるものの生きている。むしろ痛いからこそ生還できたのだと数字以上に実感できていた。
激痛に苦しみながら顔を上げると、完全に覚醒したらしいウロボロスと目が合う。惚けた表情をしていたのは一瞬で、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「我が君、如何なさいましたか? 顔色が優れませんが……」
「あ……うん……まずは……離れて……くれない?」
「離れる……? か、畏まりました」
迫真の演技ではなく実際に九死に一生を得たばかりの顔をしていると伝わったのかもしれない。すんなりと離れてくれた。だが、だからどうすれば良いのかまではわからないのだろう。オドオドして、どうしたものかと一生懸命に考えているようだ。
はっきり言って聞かせたいところだが我慢だ。何が起きたのか知られたら自害されかねない。飲み込もう。この感情も、飛び出ていきそうな言葉も、何もかも。沈黙は金なり。
「我が君、どこか具合が悪いのですか? 私にできることでしたら何でも言ってください」
犯人に心配そうな表情で、本気で気遣われる。困ったものだ。無自覚でやらかしてくれるんだから。しかもその原動力が俺に対する愛なのだから質が悪い。
まぁ、今回はいい。このようなシチュエーションをイメージしたことは数え切れない程あって、そんな邪な思いで設定文を書いたのは俺なのだ。ならばこれは罰。制裁されて当然のこと。それで手打ちとしておこう。
「なぁ……それよりも、布団に入って来るなよ」
問題はこれだよな。寝る度に死神。間違えた。愛に突き動かされたウロボロスが首を狙いに。あ、いや。夜伽か何かを目的に潜り込んで来るかもしれないのだ。命がいくつあっても足りない。いっそ包丁でも抱いて寝た方がまだ生存率が高そうだ。なにせ腕一本、指先一本ですら余裕で致死レベルの凶器になるのだから。
「あの、私はフィアンセですからお体を温めようと……。そ、そうです! 温めて差し上げます!」
「落ち着け、頼むから落ち着け……っ!」
痛みを堪えながら腹から声を振り絞ったかいもあって、思いは届いたらしい。両手を広げて今まさに飛びかかろうとしていたウロボロスが止まってくれた。間一髪。九死に一生。冗談抜きで追撃を受けようものなら文句なく死亡する。
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