魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

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第2章 暁の竜神

第8話 紅竜同盟の話し合い 1

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 サウス・グリードの中央部には世界最大の活火山がある。雲がかかる程に高くそびえ立っており、暗赤色に鈍く輝いている。その原理は自然がもたらした奇跡による。表面の至る所に地中深くまで通じる亀裂が走っており、マグマの光が漏れ出て輝いているのである。名は竜神山。凶悪でありながらどこか神秘的な外観から、古来より神の住まう山と言われているのである。
 その山の一角に、紅竜同盟が総本部として建立された神殿がある。神殿と言いながらその外観は西洋風の城だ。というのも、祭事以外にも歴代の竜神たちが公私共に多くの時間を過ごす神聖な場所だからだ。今日も謁見の間にて大切な公務が行われようとしている。

「竜神ナディア様の御成りである!」

 竜人の有力者たちが集っていた。文武に優れた老若の竜人たちが綺麗に左右へ別れて整列し、最奥の玉座を見つめている。その最前列かつ最も玉座に近い所には、紅蓮飛竜隊の隊長ローレンや紅蓮牙竜隊の隊長メグの姿もある。各々神妙な面持ちで頭を垂れ、その御方が現れるのを待っていた。

「敬礼!」

 先に玉座の向こうから姿を見せたのはまだ若い竜人の少女だった。赤く外側へ癖毛で少し跳ねた可愛らしいショートヘアーが特徴的な子。少女としてのあどけなさは残っているものの、その様は少女のそれではない。この歳で親衛隊の隊長を任されるだけのことはある。トパーズのような瞳は鋭く、射貫くような視線で一同の敬礼を確認し、横へ一歩動いた。

「いつもありがとうございます、レヴィ」
「いえ、これが私の役目ですから」

 2人にしか聞こえない小さなささやきを交わしながら、ゆったりと彼女は皆の前へと現れる。彼女こそ紅竜同盟の象徴とも言える代表者、現竜神ナディア=イスパダールである。淡い白金のブロンドヘア、真っ白な肌、宝石のように透き通った赤い目。どこか幻想的な雰囲気を漂わせる美少女である。その背後には竜人の証である赤い竜の尻尾と翼がきちんと生えていた。
ナディアは一同の顔をしっかりと見据えて一礼し、目を細め、優しい口調で話し始める。

「まずは先の竜神祭、御苦労様でした。今年で3年目となる試みでしたが大成功と評して良いかと思います。民は絶対的な心の拠り所を再確認できたことでしょう。これも皆さんの尽力あってこそ。深く感謝します」

 ナディアが軽く一礼して顔を上げると、ここからが本題と言うように顔が引き締まる。たったそれだけでこれまでのまだ和やかな雰囲気から一変。特に直立不動の若い竜人たちの中には、指先までガチガチに力を入れる者も少なくないほど誰もが身構えた。

「さて、此度の招集の目的はご存知の通り。今、世界を恐怖に陥れている未曽有の脅威、魔王を自称する者とその配下への対応を検討したく思います。それには何を差し置いても情報共有が必要不可欠です。収集した彼らのデータを確認しましょうか」
「はい。私、親衛隊のレヴィが」
「いいや、俺に任せて貰おうか」

 その言葉を遮ったのはローレンだった。ただ1人を除いて諌める者はいなく、彼は不敵な笑みを浮かべてナディアの前へと進み出る。
 1人とはナディアの横に控えている親衛隊隊長のレヴィであった。先ほどよりもずっと鋭い視線を向け、低いトーンの声を出す。

「誰が発言を許可したのです? 下がりなさい、ローレン」
「ふん、親衛隊如きが俺にそんなことを言えるのか? 偉くなったなぁ、レヴィ?」

 本来ならば親衛隊はこんなにも軽々しく扱われるものではない。それにも関わらずローレンは随分な言い様をする。
 これには流石に誰かが待ったをかけることを期待してレヴィは周囲へ目を向けるが、誰もが黙して顔を上げようとしない。これは同意に他ならない。内心はどうであれローレンの言い分を認めるという肯定だ。
 かつてレヴィはナディアの侍女であった。多少腕が立ち、そしてナディアと打ち解けただけの貧民出身者だ。媚びを売って成り上がり者。そう思う者は少なくない。だからこそ誰も口を挟まないのだ。
 そんな孤立無援の状況でもレヴィは引き下がらない。これがただの報告会なら事を荒立てないことも考えるだろう。でも今は魔王という脅威に関する情報共有である。割って入る理由などあるはずがなく、仮にあったとしても外ならぬナディアに任された身としてはおいそれと認められなかった。

「無礼と言っています。この情報収集を命じられたのはナディア様です。それに異を唱えるなど……紅蓮飛竜隊の隊長ともあろう方が、よもやその程度の分別も付かないはずがありませんね?」
「これだから視野の狭い愚者は困る。見てみたまえ、君以外の誰がそう思っている? 俺は皆の思いを代弁した。それがわかっているからナディア様も止めないのだろう?」

 ここは会議の場。周囲がここまで頑としてローレンを支持している以上、本来ならばレヴィが引く場面という理屈もわからなくはないだろう。
 しかし、やはりどう考えても今回ばかりはそうは問屋が卸さないと彼女は思い至る。事は重大だ。紅竜同盟のみならず世界すら滅亡しかねない事態なのだから。具体的には5年前の大災厄を彷彿とさせる魔法を魔王が使ったのだから。もしもこのままローレンが話を進めればどうなるか。早々に開戦するのは明白だ。壊滅的な被害を受けて済めばまだ良し、悪ければ紅竜同盟が消滅するどころか世界すら今度こそ滅びかねない。
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