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第2章 暁の竜神
第10話 ユウとナディアの会談 5
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うん、待てよ。この非常識という一点にのみ目を瞑れば、そしてその言葉が本当なのだとしたら、ナディアは俺と仲良くしたいと思っているのかもしれない。俺を英雄視しているからこそ和平交渉を結びたい、とか。
「……つまり、何が言いたいのですか? 余り回り道されては、これ以上は答えようがありません」
しかし、だ。結局のところ全て想像。本当のところはわからないままだ。盛大に手の平を返されて、戦のための情報収集でしたと言われる可能性も無い訳ではない。このままではやはり駄目。もうこれ以上待ってもボロは期待できそうにない。ならば、手っ取り早く決めるとしよう。本題を要求する。
「わかりました。元よりこちらはお願いに上がったのですが……」
ナディアが指示すると、メグが前に出て一冊の本を取り出す。見た目はこの上なく禍々しい。どす黒く変色した皮を、無造作に継ぎはぎしたような表紙だ。幸いにも臭いはしないが、悪臭が漂ってきてもおかしくない外観である。そんな古びた本を目の前に差し出される。
「魔王様、この本に見覚えはありますか?」
「……いえ、初めて見ますが」
はっきり言って不愉快だが、明らかに話の流れが変わっている。これまでの堂々巡りではなく一歩前へと進んだ。これを拒否する訳にはいかない。だからこそ警戒も怠らない。ナディアの真意がわかるまでは油断してはならない。万が一この本自体が罠の場合、アビリティによる状態異常無効化と常時発動している防御魔法で防げる。念のため目でウロボロスに合図を送ると、小さく頷きが返って来た。万全の体制だ。槍でも何でも降って来い。
一方、ナディアとメグは顔を見合せ、互いに頷き合った。そして入れ替わるようにしてメグが前へ出て来て口を開く。
「私から説明させて頂きます。この世界にかつて実在した魔王のことを」
その本が開かれると、見たことも無い文字と、独特なタッチの挿し絵が載っていた。例えるなら、ピラミッドの壁画に描かれているような絵をカラフルにしたものだ。特に目に付くのは青と白を基調とした鎧を着た天使が、剣を振り上げていたところである。デカデカとページの中央に描かれていた。
「遡ること、およそ千年前。突如、世界は滅びへと向かいました。大地は荒廃し、空は濃い雲に覆われ、光は全く届かなくなりました。残された人々は、何ものにも干渉されず、自由に生きられる楽園へと移住します」
「その元凶が魔王と記されていると?」
「文献にもよりますが、おおよそその通りです。ただ、被害はそれに留まりません。魔王はある日再び現れ、あろうことか天使すら使役し、移住後の楽園で暮らす人々を苦しめました。その際に使われたのがエグゾダス……世界を壊す魔法です」
あれは空間そのものを飲み込むもの。俺がアデルの村を吹き飛ばしたように、楽園だろうが何だろうが、根こそぎ消滅させることができるだろう。でも忘れてはいけない。エグゾダスはドミニオンズの魔法だ。なぜ千年も前からこの世にあるんだ。まさか、その伝承と偶然にも被ったとでも言うつもりか。馬鹿な。似ている効果だったとしても、名前まで一字一句同じなど、普通に考えればあり得ない。あり得ないが、その理由はすぐにはわからない。なら今大切なのは、その事実が確かに存在すると仮定した上での話。
「なるほど、それで俺は、まさに魔王という訳か」
そう、俺は魔王と呼ばれても仕方がないということ。自称ではなく、成したことが何よりも魔王だと物語っている。ただし、その根拠はあくまでも伝承。伝承など悪く言ってしまえば言い伝えに過ぎず、真実かどうか確認することができない。勿論、嘘だとは言わないが証拠としては弱いな。本当の理由は別にあるのだろう。
「長らくの間、これは伝承……つまり、おとぎ話として語り継がれてきました。世間的には先日まで、しかし極一部の者は把握しております。5年前の大災厄でも観測されていると」
「5年前の……大災厄……」
「はい。大陸中央の国家がたった一夜にして消滅した……あの悲劇です」
原因不明の国家崩壊。現場を見た偵察兵の最期の言葉は、世界が飲まれる、だったか。そして、その場には何も無かったと。ここでその話が飛び出したということは、やはり、そうか。そうなのか。世界が飲まれる。そのフレーズから予想はしていたが、まさかその通りだったとは。
メグは本を閉じると、役目を終えたと言うように下がっていき、ここからはナディアが話をしてくれた。
「あの日あの場所に魔王が現れて、一瞬の内に世界を壊しました。闇色の魔法……古くより伝わっていた世界を壊す魔法、エグゾダスを使って」
「そうか……そうだったのか」
伝承、5年前の真実、そして俺。完全に理解できた。正真正銘の魔王と認識されている訳だ、俺は。言っておくが、おとぎ話も5年前の方も俺は関与していない。この世界に来たのは遂最近だ。それなのに、何だろう、この胸が抉られるような虚しさは。アデルを助けて、それでもこの扱いを受けるからか。馬鹿な。本当に英雄にでもなったつもりか。
「……つまり、何が言いたいのですか? 余り回り道されては、これ以上は答えようがありません」
しかし、だ。結局のところ全て想像。本当のところはわからないままだ。盛大に手の平を返されて、戦のための情報収集でしたと言われる可能性も無い訳ではない。このままではやはり駄目。もうこれ以上待ってもボロは期待できそうにない。ならば、手っ取り早く決めるとしよう。本題を要求する。
「わかりました。元よりこちらはお願いに上がったのですが……」
ナディアが指示すると、メグが前に出て一冊の本を取り出す。見た目はこの上なく禍々しい。どす黒く変色した皮を、無造作に継ぎはぎしたような表紙だ。幸いにも臭いはしないが、悪臭が漂ってきてもおかしくない外観である。そんな古びた本を目の前に差し出される。
「魔王様、この本に見覚えはありますか?」
「……いえ、初めて見ますが」
はっきり言って不愉快だが、明らかに話の流れが変わっている。これまでの堂々巡りではなく一歩前へと進んだ。これを拒否する訳にはいかない。だからこそ警戒も怠らない。ナディアの真意がわかるまでは油断してはならない。万が一この本自体が罠の場合、アビリティによる状態異常無効化と常時発動している防御魔法で防げる。念のため目でウロボロスに合図を送ると、小さく頷きが返って来た。万全の体制だ。槍でも何でも降って来い。
一方、ナディアとメグは顔を見合せ、互いに頷き合った。そして入れ替わるようにしてメグが前へ出て来て口を開く。
「私から説明させて頂きます。この世界にかつて実在した魔王のことを」
その本が開かれると、見たことも無い文字と、独特なタッチの挿し絵が載っていた。例えるなら、ピラミッドの壁画に描かれているような絵をカラフルにしたものだ。特に目に付くのは青と白を基調とした鎧を着た天使が、剣を振り上げていたところである。デカデカとページの中央に描かれていた。
「遡ること、およそ千年前。突如、世界は滅びへと向かいました。大地は荒廃し、空は濃い雲に覆われ、光は全く届かなくなりました。残された人々は、何ものにも干渉されず、自由に生きられる楽園へと移住します」
「その元凶が魔王と記されていると?」
「文献にもよりますが、おおよそその通りです。ただ、被害はそれに留まりません。魔王はある日再び現れ、あろうことか天使すら使役し、移住後の楽園で暮らす人々を苦しめました。その際に使われたのがエグゾダス……世界を壊す魔法です」
あれは空間そのものを飲み込むもの。俺がアデルの村を吹き飛ばしたように、楽園だろうが何だろうが、根こそぎ消滅させることができるだろう。でも忘れてはいけない。エグゾダスはドミニオンズの魔法だ。なぜ千年も前からこの世にあるんだ。まさか、その伝承と偶然にも被ったとでも言うつもりか。馬鹿な。似ている効果だったとしても、名前まで一字一句同じなど、普通に考えればあり得ない。あり得ないが、その理由はすぐにはわからない。なら今大切なのは、その事実が確かに存在すると仮定した上での話。
「なるほど、それで俺は、まさに魔王という訳か」
そう、俺は魔王と呼ばれても仕方がないということ。自称ではなく、成したことが何よりも魔王だと物語っている。ただし、その根拠はあくまでも伝承。伝承など悪く言ってしまえば言い伝えに過ぎず、真実かどうか確認することができない。勿論、嘘だとは言わないが証拠としては弱いな。本当の理由は別にあるのだろう。
「長らくの間、これは伝承……つまり、おとぎ話として語り継がれてきました。世間的には先日まで、しかし極一部の者は把握しております。5年前の大災厄でも観測されていると」
「5年前の……大災厄……」
「はい。大陸中央の国家がたった一夜にして消滅した……あの悲劇です」
原因不明の国家崩壊。現場を見た偵察兵の最期の言葉は、世界が飲まれる、だったか。そして、その場には何も無かったと。ここでその話が飛び出したということは、やはり、そうか。そうなのか。世界が飲まれる。そのフレーズから予想はしていたが、まさかその通りだったとは。
メグは本を閉じると、役目を終えたと言うように下がっていき、ここからはナディアが話をしてくれた。
「あの日あの場所に魔王が現れて、一瞬の内に世界を壊しました。闇色の魔法……古くより伝わっていた世界を壊す魔法、エグゾダスを使って」
「そうか……そうだったのか」
伝承、5年前の真実、そして俺。完全に理解できた。正真正銘の魔王と認識されている訳だ、俺は。言っておくが、おとぎ話も5年前の方も俺は関与していない。この世界に来たのは遂最近だ。それなのに、何だろう、この胸が抉られるような虚しさは。アデルを助けて、それでもこの扱いを受けるからか。馬鹿な。本当に英雄にでもなったつもりか。
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