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第2章 暁の竜神
第10話 ユウとナディアの会談 7
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訳を話すよう促すと、口早に事態を報告する。
「緊急事態です! 紅竜同盟の攻撃部隊がイース・ディードに侵攻を開始しました!」
「なっ――!?」
思わずナディアの顔を見てしまう。信じられなくて。まさか、ここまで話した全てが時間稼ぎのための罠だったとでも言うのか。
でも違うらしい。こちら以上に向こうが取り乱している。親衛隊らしい者とメグは青冷めて落ち着きを無くしており、ナディアもまた体を震わせながら目を伏せている。とても演技とは思えない。どうなっている。内部分裂でも起きたというのか。俺に対する世界の評価は、既にこんなにも落ちていたというのか。
「ど、どうして今!?」
「やはり、あれの放置は危険過ぎたのでしょうか……」
2人が、口々にあり得ない、おしまいだと話す。それに挟まれたナディアは、ゆっくりと目を開けると、天井を仰ぎながら大きく息を吐いた。
「……魔王様」
そして、とても、とても悲しげな目をして、ゆっくりとこちらを見つめてきた。涙すら零れそうなほど、その瞳は潤んでいる。
「……残念です。貴方様とは、わかり合いたかった」
悲壮感溢れる儚い笑顔を見せられる。全てが終わって死を待つだけのような、安らか過ぎる表情だった。ただ見ているだけで、俺もこの上なく悲しい気持ちになってしまう程に、そう思えた。
「魔王様、この不手際の処理は……せめて、私どもに任せて頂けないでしょうか?」
「それはなりません!」
ナディアが提案してくるが、これに間髪入れずに反対したのはアザレアだった。当然だ。こんな気持ちになっているのは俺と、ひょっとするとウロボロスだけ。アザレアからすれば、俺たちを釘付けにされ、宣戦布告もなく強襲されている状況だ。敵だ。紅竜同盟など、排除すべき敵。そう考えて何が悪いものか。
「魔王様、それについてはこちらで対応します。既にカルマとフェンリスを向かわせました。片が付くのも時間の問題でしょう。このまま我々にお任せを」
「それは……そうなんだろうけど……」
言ってしまってから、あ、と気付く。強いから、なんて言えば陶酔しているように聞こえるけど、現実問題、ナディアの言う通りになっている。こんな事態になろうとも、俺は、俺たちの力があればねじ伏せられると思ってしまった。まさにその状態。このままアザレアに任せてしまえば破滅の始まりである。
「どうしたものか……」
この気持ちに従って良いのだろうかと、どうしても迷う。もしもここで素直に帰せばどうなるだろう。実際のところは知らないが、こうしてナディアが驚いているのだから内部分裂しているのは確実だ。近い将来、再び攻め込まれるに違いない。結局は殲滅せざるを得なくなるだろうか。
いや、違う。俺は魔王。どうして魔王と呼ばれるようになったのか、その理由を思えばこそ、この力の使い道は他にあるじゃないか。
「……俺に考えがある。アザレア、悪いが2人を引上げさせてくれ」
「な……! し、しかし!」
当然、アザレアは反対するだろうな。攻められたまま放置なんて、ゲームとしてはあり得ない選択肢なんだから。現実ならなおあり得ない。どんなドMだ、そいつは。それでも頼み込む。狙いは別にあるんだ。
「頼む。俺たちは戦っちゃいけない。今はこの3人を転移魔法で行かせてやって欲しい」
「……か、畏まりました」
俺なりに鬼気迫る感じで強くお願いしてみたら、アザレアは渋々頷いてくれた。ウロボロスの方を見ると、何も言うつもりは無いらしい。静かに頭を縦に振ってくれただけだった。
本来なら、ウロボロスが誰よりも率先して殲滅の指示を飛ばしそうなのにな。よく認めてくれたよ。ありがとう、と心の中で唱えておく。
「ここは貴女たちに任せるよ。貴重な話をありがとう。これはそのお礼だ」
「……寛大な御心に深い感謝を」
そう答えてくれたナディアは、目尻に浮かんだ涙を拭うと、深く、深く頭を下げながら、2人の従者と転移していったのだった。
「緊急事態です! 紅竜同盟の攻撃部隊がイース・ディードに侵攻を開始しました!」
「なっ――!?」
思わずナディアの顔を見てしまう。信じられなくて。まさか、ここまで話した全てが時間稼ぎのための罠だったとでも言うのか。
でも違うらしい。こちら以上に向こうが取り乱している。親衛隊らしい者とメグは青冷めて落ち着きを無くしており、ナディアもまた体を震わせながら目を伏せている。とても演技とは思えない。どうなっている。内部分裂でも起きたというのか。俺に対する世界の評価は、既にこんなにも落ちていたというのか。
「ど、どうして今!?」
「やはり、あれの放置は危険過ぎたのでしょうか……」
2人が、口々にあり得ない、おしまいだと話す。それに挟まれたナディアは、ゆっくりと目を開けると、天井を仰ぎながら大きく息を吐いた。
「……魔王様」
そして、とても、とても悲しげな目をして、ゆっくりとこちらを見つめてきた。涙すら零れそうなほど、その瞳は潤んでいる。
「……残念です。貴方様とは、わかり合いたかった」
悲壮感溢れる儚い笑顔を見せられる。全てが終わって死を待つだけのような、安らか過ぎる表情だった。ただ見ているだけで、俺もこの上なく悲しい気持ちになってしまう程に、そう思えた。
「魔王様、この不手際の処理は……せめて、私どもに任せて頂けないでしょうか?」
「それはなりません!」
ナディアが提案してくるが、これに間髪入れずに反対したのはアザレアだった。当然だ。こんな気持ちになっているのは俺と、ひょっとするとウロボロスだけ。アザレアからすれば、俺たちを釘付けにされ、宣戦布告もなく強襲されている状況だ。敵だ。紅竜同盟など、排除すべき敵。そう考えて何が悪いものか。
「魔王様、それについてはこちらで対応します。既にカルマとフェンリスを向かわせました。片が付くのも時間の問題でしょう。このまま我々にお任せを」
「それは……そうなんだろうけど……」
言ってしまってから、あ、と気付く。強いから、なんて言えば陶酔しているように聞こえるけど、現実問題、ナディアの言う通りになっている。こんな事態になろうとも、俺は、俺たちの力があればねじ伏せられると思ってしまった。まさにその状態。このままアザレアに任せてしまえば破滅の始まりである。
「どうしたものか……」
この気持ちに従って良いのだろうかと、どうしても迷う。もしもここで素直に帰せばどうなるだろう。実際のところは知らないが、こうしてナディアが驚いているのだから内部分裂しているのは確実だ。近い将来、再び攻め込まれるに違いない。結局は殲滅せざるを得なくなるだろうか。
いや、違う。俺は魔王。どうして魔王と呼ばれるようになったのか、その理由を思えばこそ、この力の使い道は他にあるじゃないか。
「……俺に考えがある。アザレア、悪いが2人を引上げさせてくれ」
「な……! し、しかし!」
当然、アザレアは反対するだろうな。攻められたまま放置なんて、ゲームとしてはあり得ない選択肢なんだから。現実ならなおあり得ない。どんなドMだ、そいつは。それでも頼み込む。狙いは別にあるんだ。
「頼む。俺たちは戦っちゃいけない。今はこの3人を転移魔法で行かせてやって欲しい」
「……か、畏まりました」
俺なりに鬼気迫る感じで強くお願いしてみたら、アザレアは渋々頷いてくれた。ウロボロスの方を見ると、何も言うつもりは無いらしい。静かに頭を縦に振ってくれただけだった。
本来なら、ウロボロスが誰よりも率先して殲滅の指示を飛ばしそうなのにな。よく認めてくれたよ。ありがとう、と心の中で唱えておく。
「ここは貴女たちに任せるよ。貴重な話をありがとう。これはそのお礼だ」
「……寛大な御心に深い感謝を」
そう答えてくれたナディアは、目尻に浮かんだ涙を拭うと、深く、深く頭を下げながら、2人の従者と転移していったのだった。
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