もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ

文字の大きさ
19 / 20

第19話 「神々の晩餐会・前準備開始」

しおりを挟む
 振り返ると、赤いショートヘアを揺らしながら、レイアが全力で走り込んできた。

「やっと来れた……!! リアルの予定長引いちゃって……! コナタに会いたくて死ぬかと思った……!!」

「レ、レイア……!?」

 そのまま抱きしめられる。

「ちょ、ちょっと……!」

「三日ぶりだよ!? コナタ不足で倒れるかと思ったんだからね!?」

「二日前にリアルで会ったよね!?」

「あれは現実! こっちはゲーム!! この世界のコナタ分がゼロだったの!!」

「理論が……わからない……!」

 シエルが「きゅっ!?」と鳴き、モカが「ふがっ!?」と驚いた声を上げる。

 レイアは強く抱きしめた後、ようやくコナタを離し、

「……ふぅ……癒された」

「今の数秒で!?」

「当たり前でしょ。コナタは可愛いんだから」

「かわ……っ!?///」

 顔が熱くなる。
 レイアは満足そうに笑い、コナタの髪を優しく撫でた。

「それで? なんか大変なことになってるって聞いたけど?」

「あ、それが──」

 説明を始めようとすると、レイアはぽかんと口を開けた。

「神々の晩餐……? 招待状……? 使者が直来訪……? ……は?」

「うん……多分……そういうことに……」

「…………」

 レイアは五秒固まったあと、叫んだ。

「ちょっとほんとに何してたのコナタぁぁぁ!!?」

「な、なにも……! 料理してただけ!」

「料理しただけで神様からスカウト!? どういう才能!!?」

「わぁぁ言われてもわかんない!!」

 わちゃわちゃ。
 シエルとモカも一緒にばたばた。

 そこへ──

「ただいま戻ったーー!」

 ゼクトの声。
 続いてユリウスも姿を見せる。

「最高素材、そろえたよ」

 そしてレイアを見るなり、二人の表情がぴしっと固まる。

「……あ、きたんだね」
「……遅かったじゃん」

 レイアもふんっとそっぽを向いた。

「アンタらに任せてたら、コナタ泣かされそうで怖いんだよ」

「泣かせねぇよ!!」
「むしろ泣かされてるのは僕たちのほうなんだけど……?」

 三人が同時に言い合いながらも、視線は全部コナタへ。

 その中心で、コナタはまるで宝物のように扱われていた。

 そして──

「……コナタ。準備、始めようか」

 ユリウスが優しく言うと、全員の視線がコナタに集まった。

 胸の奥で、ゆっくりと期待と緊張が膨らんでいく。

「……うん。みんなで、最高の料理作ろう!」

 シエルが「きゅっ!!」
 モカが「ふがっ!!」

 四人と二匹の視線が交わり、あたたかな光に満ちた一つの円ができあがった。








その日の朝、コナタはまだ少し寝ぼけ眼だった。
 しかし、部屋にはもう全員が揃っていた。

「おはよ、コナタ! さぁ、準備の時間だぞ!」
 ゼクトが元気いっぱいに声を張り上げる。雷剣士らしい力強さが、部屋中に響いた。

「ふぁ……まだ頭が回ってないけど……はい」
 コナタはシエルを肩に乗せ、モカを膝に抱えながら返事をする。

 モカは「ふがっ」と鼻を鳴らし、早く動けと催促している。
 シエルも「きゅっ!」と小さく声をあげ、尻尾をぴょこぴょこと揺らしている。

「……二日前にリアルで会ったばかりなのに、こうしてまた一緒にゲームで集まれるなんて、すごいな」
 コナタが微笑むと、レイアも赤みを帯びた顔で頷く。

「ほんとよ。現実では少し会えたけど、こっちではまだまだコナタ不足だったの」
 レイアは小さく肩をすくめた。
 その仕草は無防備で、いつもの落ち着いた雰囲気とは違い、コナタの胸をくすぐる。

「さて、まずは素材リストを確認だな」
 ユリウスが広げた巻物には、金文字で必要食材が並んでいた。

◆ 必須素材
• 《虹幻草》:昼夜で色が変わる光の森の薬草
• 《サラマンダーの上質尾肉》:火蜥蜴の希少部位
• 《月雫きのこ》:満月の夜にしか採れないきのこ
• 《神気の宿る果実》:存在は謎多き伝説の果実
• 《風鳥の羽根(調理用)》:料理に混ぜると香りが飛躍的に向上する

「……どれも高ランク指定か」
 ゼクトが眉を寄せる。

「それぞれの素材には採取条件や危険地帯がある。コナタ、今回の主役はあなたよ」
 レイアが静かに、しかし確信のある声で告げる。

「えっ……僕が?」

「当然でしょ。神々相手に料理を出すのは主役だからね」
 ユリウスは得意げに胸を張る。

 シエルは「きゅっ!」と小さく跳ね、モカも「ふがっ!」と鼻を鳴らしている。
 どちらもやる気十分だ。

「じゃあまず《虹幻草》を取りに行こう」
 ゼクトが拳を握る。

「私が採取ポイントや危険情報をサポートするわ」
 レイアはメモを広げ、各素材の特性をチェックし始める。

「僕は盛り付けや調理用の下準備を考えながら追随する」
 ユリウスは歩きながら、早速手際よく下ごしらえのプランを口にする。

 コナタは小さく深呼吸をする。
 背中にはシエル、膝にはモカ、そして友人3人が揃っている。
 怖さよりも、胸の奥に安心感が広がった。

「……よし、行こう。みんなで最高の料理を作ろう!」

「きゅっ!!」

「ふがっ!!」

 声がぴったり重なり、空気が一瞬で和やかになった。
 こうして、神々の晩餐会に向けた前準備作戦──コナタと友人、従魔たちによる祝福の料理創りは幕を開けた。

 ◇

 光の森に到着すると、朝露に濡れた草木が輝いている。
 虹幻草の葉先が太陽の光に反射し、淡く虹色に揺れた。

「ここだ……!」
 コナタの目が輝く。

 ゼクトは剣を手に、森の中の危険な生物を警戒しながら進む。
 ユリウスは料理用の小道具を整えつつ、あらゆる香りをチェック。
 レイアはデータを走らせるように、効率的な採取ルートを即座に計算している。

 シエルは草むらを飛び跳ね、モカは木の根元を嗅ぎ回る。
 まるで自然と一体になったチームのようだ。

「……よし、あれが虹幻草の群生地」
 レイアが指さす方向に、淡い光を帯びた葉の群れが揺れていた。

 コナタは一歩踏み出す。
 風が頬を撫で、草の香りが鼻をくすぐる。
 いつもより深く息を吸い、気持ちを整える。

「さあ、始めよう……!」

 シエルが背中でぴょこぴょこと跳ね、モカも膝から降りて匂いを追う。
 友人たちは自然にコナタの周りを固め、森の中で一つの輪を作る。

 こうして、神々の晩餐会・前準備の第一歩が静かに、しかし確実に踏み出されたのだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

過労死した家具職人、異世界で快適な寝具を作ったら辺境の村が要塞になりました ~もう働きたくないので、面倒ごとは自動迎撃ベッドにお任せします

☆ほしい
ファンタジー
ブラック工房で働き詰め、最後は作りかけの椅子の上で息絶えた家具職人の木崎巧(キザキ・タクミ)。 目覚めると、そこは木材資源だけは豊富な異世界の貧しい開拓村だった。 タクミとして新たな生を得た彼は、もう二度とあんな働き方はしないと固く誓う。 最優先事項は、自分のための快適な寝具の確保。 前世の知識とこの世界の素材(魔石や魔物の皮)を組み合わせ、最高のベッド作りを開始する。 しかし、完成したのは侵入者を感知して自動で拘束する、とんでもない性能を持つ魔法のベッドだった。 そのベッドが村をゴブリンの襲撃から守ったことで、彼の作る家具は「快適防衛家具」として注目を集め始める。 本人はあくまで安眠第一でスローライフを望むだけなのに、貴族や商人から面倒な依頼が舞い込み始め、村はいつの間にか彼の家具によって難攻不落の要塞へと姿を変えていく。

「男のくせに料理なんて」と笑われたけど、今やギルドの胃袋を支えてます。

ファンタジー
「顔も頭も平凡で何の役にも立たない」とグリュメ家を追放されたボルダン。 辿り着いたのはギルド食堂。そこで今まで培った料理の腕を発揮し……。 ※複数のサイトに投稿しています。

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...