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第八話 夕食
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「……味は悪くないわね」
「嫌いじゃない」
「もう、お姉様もフィオナも素直に美味しいと言えばいいのに」
「レオナルドさんはどうです?」
「問題ない」
(アンナ以外みんな素直じゃないんだから)
とりあえず悪く言われたわけではないので、料理は上々ということだろう。口は悪いものの、全員嘘は言えないらしい。そういうとこは素直なんだな、とシアはちょっとだけ微笑ましく思った。
「何ニヤニヤしてるの? 気持ち悪い」
「もしかして、騙したの? 実は買ってきたものとか」
いつのまにか表情に出ていたらしく、シアの口元が弛んだのをすかさず指摘してくるセレナとフィオナ。
「いえ、私とシア様でちゃんと作りましたよ」
「でも、いつもと味付け違くない?」
「うちにこんなソースなかったはずだし」
「一から作ったの。知り合いに料理上手な方がいて、教えてもらったのよ」
「ふぅん」
「へぇ」
「お口に合ったのならよかったわ。先方にも美味しかったと伝えておくわね」
買ってきたものと差がないほど美味しいという評価をもらえて、内心ほくほくする。
恐らく彼女達は嫌味を言っているつもりだろうが、本音を隠せていないのがまだまだ子供らしい。
「あぁ、そうそう。食後にデザートも用意したわ。お茶もいただいたいい茶葉があるから一緒に出すわね」
「やだ、最悪。太るじゃない」
「デザートって何?」
「チェリーパイよ。せっかく家族になったのだから、お祝いとしてみんなで食べたいのだけど……ダメかしら?」
わざとらしくならないよう、多少しょんぼりとして見せるシア。演技など普段しないが、それくらいのフリをするのはそう難しくはなかった。
「ま、まぁ、どうしても食べて欲しいなら食べてあげるけど?」
「美味しくなかったら残すからね」
なんだかんだ言いつつも食べてくれるらしい二人。
事前にアンナに好物を聞いておいてよかったと彼女に視線を移すと、アンナもちょうどシアのほうを向いていて、自然と一緒に微笑む。
「レオナルドさんはいかがします?」
「無駄にするのはもったいないだろう」
「えぇ。では、みんなでいただきましょう」
まずは胃袋を掴むこと。昔からよく言われる言葉だが、とりあえず掴めたようだとシアは内心ホッと胸を撫で下ろしたのだった。
◇
コンコン……
夜遅く、まだ灯りがついているのを確認し、シアはそっとレオナルドの部屋の戸を叩いた。
「誰だ」
「私です。シアです」
「入れ」
妻に対して言うような言葉ではないと思いつつも、静かにドアを開けるシア。中に入るとレオナルドは難しい顔をして、資料の束と睨めっこをしていた。
「何しに来た」
「いえ、特にこれと言った用事はないのですが。思いのほか遅くまで灯りがついていたので、念のため確認に」
「そうか。だが、心配ない。そのうち寝る」
そう言いつつも一向に寝る気配がなさそうなレオナルド。再び資料に目を戻し、シアに見向きもしなかった。
それをいいことに、シアもそのままそこに居座る。そして、ふむふむと近くにあった地図を覗き込んだ。
「……何をしている」
「一応妻ですから、夫が何をしているか把握するのも勤めかと思いまして」
「そんな配慮は結構だ。シアは家のことだけやればいい」
「そうはおっしゃいますけど、社交界に出たときに公爵家の人間であろうものが自分の家がどんなことをしているか知らないというのは問題ではないですか? 物知らずの妻というのは、外聞的によろしくないかと」
シアの指摘に黙り込むレオナルド。
今までどうだったかは知らないが、そういうことについて思い至らなかったらしい。
「……現在私は新たな水路の建設をする仕事に携わっている」
「そうなんですね。隣国との戦争影響で今までの水路が使えないとなると、確かに新たな水路の確保は必要ですよね。作るとなると改めて水脈を見つけねばなりませんし、材木も近年稀に見る異常気象でなかなか手に入りづらいでしょうから、建設も一筋縄ではいかないでしょうし」
ふむふむと地図を覗きながら話すシアの言葉に、レオナルドはなぜか複雑そうな表情をする。
何か変なことでも言っただろうかと自分の言葉を反芻するも、それらしい言葉に心当たりはなかった。
「とにかく、それだけ知っていればいい。余計な詮索は不要だ」
「わかりました。……私に何かお手伝いできることはありますか?」
「ない」
「そうですか、承知しました。お忙しいでしょうが、無理は身体に障ります。仕事も程々になさってくださいね」
「……わかった」
「では、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
(酷いクマだった。近くで見なかったら気づかなかったけど、最近あまり眠れていないのかも)
レオナルドはシアに手伝うことはないと言っていたが、恐らくあの様子からあまり状況は芳しくなさそうだと推察する。
とはいえ、シアにできることは限られていて、いくらお節介焼きだからと言っても、あまり口出しすべきでないことはわかっていた。
(でも、できることはすべきよね)
レオナルドの仕事に直接協力はできないかもしれないが、彼の生活をサポートをすることはいくらでもできる。シアは自室へと戻りながら、自分に何ができるのかを考えるのだった。
「嫌いじゃない」
「もう、お姉様もフィオナも素直に美味しいと言えばいいのに」
「レオナルドさんはどうです?」
「問題ない」
(アンナ以外みんな素直じゃないんだから)
とりあえず悪く言われたわけではないので、料理は上々ということだろう。口は悪いものの、全員嘘は言えないらしい。そういうとこは素直なんだな、とシアはちょっとだけ微笑ましく思った。
「何ニヤニヤしてるの? 気持ち悪い」
「もしかして、騙したの? 実は買ってきたものとか」
いつのまにか表情に出ていたらしく、シアの口元が弛んだのをすかさず指摘してくるセレナとフィオナ。
「いえ、私とシア様でちゃんと作りましたよ」
「でも、いつもと味付け違くない?」
「うちにこんなソースなかったはずだし」
「一から作ったの。知り合いに料理上手な方がいて、教えてもらったのよ」
「ふぅん」
「へぇ」
「お口に合ったのならよかったわ。先方にも美味しかったと伝えておくわね」
買ってきたものと差がないほど美味しいという評価をもらえて、内心ほくほくする。
恐らく彼女達は嫌味を言っているつもりだろうが、本音を隠せていないのがまだまだ子供らしい。
「あぁ、そうそう。食後にデザートも用意したわ。お茶もいただいたいい茶葉があるから一緒に出すわね」
「やだ、最悪。太るじゃない」
「デザートって何?」
「チェリーパイよ。せっかく家族になったのだから、お祝いとしてみんなで食べたいのだけど……ダメかしら?」
わざとらしくならないよう、多少しょんぼりとして見せるシア。演技など普段しないが、それくらいのフリをするのはそう難しくはなかった。
「ま、まぁ、どうしても食べて欲しいなら食べてあげるけど?」
「美味しくなかったら残すからね」
なんだかんだ言いつつも食べてくれるらしい二人。
事前にアンナに好物を聞いておいてよかったと彼女に視線を移すと、アンナもちょうどシアのほうを向いていて、自然と一緒に微笑む。
「レオナルドさんはいかがします?」
「無駄にするのはもったいないだろう」
「えぇ。では、みんなでいただきましょう」
まずは胃袋を掴むこと。昔からよく言われる言葉だが、とりあえず掴めたようだとシアは内心ホッと胸を撫で下ろしたのだった。
◇
コンコン……
夜遅く、まだ灯りがついているのを確認し、シアはそっとレオナルドの部屋の戸を叩いた。
「誰だ」
「私です。シアです」
「入れ」
妻に対して言うような言葉ではないと思いつつも、静かにドアを開けるシア。中に入るとレオナルドは難しい顔をして、資料の束と睨めっこをしていた。
「何しに来た」
「いえ、特にこれと言った用事はないのですが。思いのほか遅くまで灯りがついていたので、念のため確認に」
「そうか。だが、心配ない。そのうち寝る」
そう言いつつも一向に寝る気配がなさそうなレオナルド。再び資料に目を戻し、シアに見向きもしなかった。
それをいいことに、シアもそのままそこに居座る。そして、ふむふむと近くにあった地図を覗き込んだ。
「……何をしている」
「一応妻ですから、夫が何をしているか把握するのも勤めかと思いまして」
「そんな配慮は結構だ。シアは家のことだけやればいい」
「そうはおっしゃいますけど、社交界に出たときに公爵家の人間であろうものが自分の家がどんなことをしているか知らないというのは問題ではないですか? 物知らずの妻というのは、外聞的によろしくないかと」
シアの指摘に黙り込むレオナルド。
今までどうだったかは知らないが、そういうことについて思い至らなかったらしい。
「……現在私は新たな水路の建設をする仕事に携わっている」
「そうなんですね。隣国との戦争影響で今までの水路が使えないとなると、確かに新たな水路の確保は必要ですよね。作るとなると改めて水脈を見つけねばなりませんし、材木も近年稀に見る異常気象でなかなか手に入りづらいでしょうから、建設も一筋縄ではいかないでしょうし」
ふむふむと地図を覗きながら話すシアの言葉に、レオナルドはなぜか複雑そうな表情をする。
何か変なことでも言っただろうかと自分の言葉を反芻するも、それらしい言葉に心当たりはなかった。
「とにかく、それだけ知っていればいい。余計な詮索は不要だ」
「わかりました。……私に何かお手伝いできることはありますか?」
「ない」
「そうですか、承知しました。お忙しいでしょうが、無理は身体に障ります。仕事も程々になさってくださいね」
「……わかった」
「では、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
(酷いクマだった。近くで見なかったら気づかなかったけど、最近あまり眠れていないのかも)
レオナルドはシアに手伝うことはないと言っていたが、恐らくあの様子からあまり状況は芳しくなさそうだと推察する。
とはいえ、シアにできることは限られていて、いくらお節介焼きだからと言っても、あまり口出しすべきでないことはわかっていた。
(でも、できることはすべきよね)
レオナルドの仕事に直接協力はできないかもしれないが、彼の生活をサポートをすることはいくらでもできる。シアは自室へと戻りながら、自分に何ができるのかを考えるのだった。
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