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第七話 支度
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「どういうことだ」
「何がですか?」
夕食の支度を始めようとしたところでレオナルドに呼び出されたシア。不愉快を全開にしている彼の様子など意に介してなさそうな反応をするシアに、「食事のことだ」と苛立った口調で大声を出すレオナルド。
「なぜわざわざ全員一緒にする必要がある。それぞれ好きな時間にとればいいだろう」
「ですが、それだと手間と時間がかかります」
「嫁に来たのだから、それくらいやって当然だろう」
「それくらいっておっしゃいますけど、別々で準備したら水だって薪だって余計にかかりますよ? 昨今、陛下は節制を心がけるように通達してましたよね」
「ぐ……っ」
レオナルドの言葉にことごとくシアは言い返す。
実際シアの言うことは正論で、近年同盟国の異常気象や国内紛争のせいで輸入していた材木や食糧などが激減。我が国の水路も隣国との戦争のせいで一部が破壊されてしまって使えず、国民にはなるべく節制するように求めていた。
「そうかもしれないが……っ」
「我が家は公爵家なのですから、貴族の代表として陛下の意向を示す立場では?」
「それは……」
「でしたらやはり、みんなで食事をとるのが一番だと思います。それに、子供達がどれほど食べているかで体調もわかりますし、学校のこととか社交界のこととか話す機会なんて食事のときくらいでないとありませんし。みなさんそれぞれお年頃ですから言いたいこと言いたくないことはあると思いますが、思春期だからこそ子供達との情報共有はある程度しておくべきだと思います」
「だが……」
なおも食い下がるレオナルド。そんなに一緒に食事するのが嫌なのか、と理解できない感情に内心驚く。
「もちろん、お仕事などで合わせられないときもあるとは思います。ですが、極力合わせるというのはダメでしょうか? せっかく家族になったのですから、せめて食事時だけでも交流したいのですが」
「…………わかった。だが、くれぐれも無理強いはしないでくれ」
「それは承知してます」
ようやく納得してくれた様子のレオナルドにホッとするシア。
(何かトラウマでもあるのかしら)
家族で食事をとるのが一般的だと思っていたシアは彼らの関係性に疑問を持ちつつも、家族の数だけ家族の形があるとも思った。
(とはいえ、もう少し家族として変われればいいけど)
なんとなく歪な家族関係にお節介ながらも気になってしまうシア。少しでも改善できればいいなと思いながら、再び夕食の準備に戻るのだった。
◇
「結局お手伝いさせてしまって申し訳ないわね」
「いえ、シア様は我が家に来たばかりですから何かとわからないことだらけで不便でしょうし、私は慣れてますからお気になさらないでください」
夕飯の準備。
食材のことや調理器具のことをアンナに尋ねたら、そのままお手伝いしてくれることになり、申し訳なさを感じるシア。できれば最初からあれこれこなせればよかったが、さすがの初日はわからないことだらけで、正直アンナが手伝ってくれるのはありがたかった。
「勉学のほうは平気?」
「はい。宿題などは先に終わらせるタイプなので」
「えらいわね、アンナは」
「いえ、そんなことはないですよ」
褒められてはにかむアンナ。あまり褒められ慣れてないらしく、照れた顔が可愛らしい。そんな彼女の様子にシアは癒された。
「アンナが通ってるのはヴェルデート貴族学校でしたっけ?」
「はい。姉も妹もみんなそこに」
「そうなのね。私の出身校は別なのだけど、確か何人か保護者のほうに知り合いがいるわ」
ヴェルデート貴族学校は貴族学校の中でもハイクラスの学校だ。
貴族学校とは主に上級貴族が通い、マナーや教養、帝王学や情勢などあらゆる分野について教えてくれる学校である。ちなみに、そこで新たな縁も生まれ、ちょっとした社交界としての役割もあった。
「そうなんですね。では、どこかで会ってるかもしれないですね」
「えぇ、そうね。今度機会があったら紹介するわ。それにしても、さすが手際がいいわね。ずっとこなしていただけはあるわ」
今はジャガイモの皮を剥いているのだが、アンナはするすると衣を脱ぐようにジャガイモの皮が剥いていて、その手際の良さにシアは感心した。
「いえ、そんなことは」
「謙遜しなくていいのよ。すごいことはすごいのだから。アンナの努力の賜物でしょう? ちゃんと褒められたときは褒められておきなさい」
「……はい。ありがとうございます」
アンナは恥じ入りながらも嬉しそうに頬を赤らめる。その頭を優しく撫でてあげたいが、今はジャガイモを持ったままなのでシアは我慢した。
「そういえば、レオナルドさんの好物って何か知ってる?」
「お父様の好きなものですか? そうですね、アヒルのコンフィとかウサギのロースト。意外に甘党なのでカボチャのポタージュとかも好きですね」
「へぇ、確かに意外」
あの強面の無表情なレオナルドが甘党だと知ってちょっと微笑ましくなる。
「レオナルドさんも可愛らしいところがあるのね」
「はい。あと意外におっちょこちょいというか、考え事のしすぎでどこかにぶつかったり忘れ物をしたりしょっちゅうしてますよ」
「まぁ。それはさらに意外だわ」
色々と厳しそうなのに、そういう抜けてるところがあるらしい。どんどんと情報を知ることで、だんだんと可愛らしく思えてくるから不思議だ。
「お父様には秘密にしておいてくださいね。言ったことがバレると怒られるので」
「えぇ、もちろん。アンナと私だけの秘密。あ、ついでにセレナとフィオナのことも教えてもらえる? わかるところとか言えるところとかだけでいいから」
「はい」
せっかく家族になったのだから、みんなのことをもっと知って仲良くなれたらいいな、と思いながらシアは夕飯作りに励むのだった。
「何がですか?」
夕食の支度を始めようとしたところでレオナルドに呼び出されたシア。不愉快を全開にしている彼の様子など意に介してなさそうな反応をするシアに、「食事のことだ」と苛立った口調で大声を出すレオナルド。
「なぜわざわざ全員一緒にする必要がある。それぞれ好きな時間にとればいいだろう」
「ですが、それだと手間と時間がかかります」
「嫁に来たのだから、それくらいやって当然だろう」
「それくらいっておっしゃいますけど、別々で準備したら水だって薪だって余計にかかりますよ? 昨今、陛下は節制を心がけるように通達してましたよね」
「ぐ……っ」
レオナルドの言葉にことごとくシアは言い返す。
実際シアの言うことは正論で、近年同盟国の異常気象や国内紛争のせいで輸入していた材木や食糧などが激減。我が国の水路も隣国との戦争のせいで一部が破壊されてしまって使えず、国民にはなるべく節制するように求めていた。
「そうかもしれないが……っ」
「我が家は公爵家なのですから、貴族の代表として陛下の意向を示す立場では?」
「それは……」
「でしたらやはり、みんなで食事をとるのが一番だと思います。それに、子供達がどれほど食べているかで体調もわかりますし、学校のこととか社交界のこととか話す機会なんて食事のときくらいでないとありませんし。みなさんそれぞれお年頃ですから言いたいこと言いたくないことはあると思いますが、思春期だからこそ子供達との情報共有はある程度しておくべきだと思います」
「だが……」
なおも食い下がるレオナルド。そんなに一緒に食事するのが嫌なのか、と理解できない感情に内心驚く。
「もちろん、お仕事などで合わせられないときもあるとは思います。ですが、極力合わせるというのはダメでしょうか? せっかく家族になったのですから、せめて食事時だけでも交流したいのですが」
「…………わかった。だが、くれぐれも無理強いはしないでくれ」
「それは承知してます」
ようやく納得してくれた様子のレオナルドにホッとするシア。
(何かトラウマでもあるのかしら)
家族で食事をとるのが一般的だと思っていたシアは彼らの関係性に疑問を持ちつつも、家族の数だけ家族の形があるとも思った。
(とはいえ、もう少し家族として変われればいいけど)
なんとなく歪な家族関係にお節介ながらも気になってしまうシア。少しでも改善できればいいなと思いながら、再び夕食の準備に戻るのだった。
◇
「結局お手伝いさせてしまって申し訳ないわね」
「いえ、シア様は我が家に来たばかりですから何かとわからないことだらけで不便でしょうし、私は慣れてますからお気になさらないでください」
夕飯の準備。
食材のことや調理器具のことをアンナに尋ねたら、そのままお手伝いしてくれることになり、申し訳なさを感じるシア。できれば最初からあれこれこなせればよかったが、さすがの初日はわからないことだらけで、正直アンナが手伝ってくれるのはありがたかった。
「勉学のほうは平気?」
「はい。宿題などは先に終わらせるタイプなので」
「えらいわね、アンナは」
「いえ、そんなことはないですよ」
褒められてはにかむアンナ。あまり褒められ慣れてないらしく、照れた顔が可愛らしい。そんな彼女の様子にシアは癒された。
「アンナが通ってるのはヴェルデート貴族学校でしたっけ?」
「はい。姉も妹もみんなそこに」
「そうなのね。私の出身校は別なのだけど、確か何人か保護者のほうに知り合いがいるわ」
ヴェルデート貴族学校は貴族学校の中でもハイクラスの学校だ。
貴族学校とは主に上級貴族が通い、マナーや教養、帝王学や情勢などあらゆる分野について教えてくれる学校である。ちなみに、そこで新たな縁も生まれ、ちょっとした社交界としての役割もあった。
「そうなんですね。では、どこかで会ってるかもしれないですね」
「えぇ、そうね。今度機会があったら紹介するわ。それにしても、さすが手際がいいわね。ずっとこなしていただけはあるわ」
今はジャガイモの皮を剥いているのだが、アンナはするすると衣を脱ぐようにジャガイモの皮が剥いていて、その手際の良さにシアは感心した。
「いえ、そんなことは」
「謙遜しなくていいのよ。すごいことはすごいのだから。アンナの努力の賜物でしょう? ちゃんと褒められたときは褒められておきなさい」
「……はい。ありがとうございます」
アンナは恥じ入りながらも嬉しそうに頬を赤らめる。その頭を優しく撫でてあげたいが、今はジャガイモを持ったままなのでシアは我慢した。
「そういえば、レオナルドさんの好物って何か知ってる?」
「お父様の好きなものですか? そうですね、アヒルのコンフィとかウサギのロースト。意外に甘党なのでカボチャのポタージュとかも好きですね」
「へぇ、確かに意外」
あの強面の無表情なレオナルドが甘党だと知ってちょっと微笑ましくなる。
「レオナルドさんも可愛らしいところがあるのね」
「はい。あと意外におっちょこちょいというか、考え事のしすぎでどこかにぶつかったり忘れ物をしたりしょっちゅうしてますよ」
「まぁ。それはさらに意外だわ」
色々と厳しそうなのに、そういう抜けてるところがあるらしい。どんどんと情報を知ることで、だんだんと可愛らしく思えてくるから不思議だ。
「お父様には秘密にしておいてくださいね。言ったことがバレると怒られるので」
「えぇ、もちろん。アンナと私だけの秘密。あ、ついでにセレナとフィオナのことも教えてもらえる? わかるところとか言えるところとかだけでいいから」
「はい」
せっかく家族になったのだから、みんなのことをもっと知って仲良くなれたらいいな、と思いながらシアは夕飯作りに励むのだった。
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