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第2話 すべてを失って、夜は静かに震えた
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第2話 すべてを失って、夜は静かに震えた
王宮を去ったその夜、ルビー・エルヴェールは侯爵家の屋敷に戻ることを許されなかった。
正確に言えば――
**「戻る意味がない」**と告げられたのだ。
「王太子殿下との婚約は破棄された。お前は、もはや我が家の誇りではない」
父である侯爵の声は、驚くほど淡々としていた。
そこに情はなく、迷いもない。まるで壊れた道具を処分するかのような口調だった。
「明日の朝、馬車を一台出す。必要最低限の荷だけまとめろ」 「……追放、ということですのね」
そう問い返したルビーに、父は視線すら向けなかった。
「そう受け取って構わん」
それが、親子として交わした最後の言葉だった。
与えられた部屋は、屋敷の隅にある小さな客間だった。
かつて王妃候補として暮らしていた自室とは、比べるまでもない。
ルビーは静かに扉を閉め、ベッドに腰を下ろす。
(……本当に、何もかも終わったのね)
ドレスを脱ぎ、髪飾りを外し、鏡の前に立つ。
そこに映るのは、豪奢な令嬢ではない、一人の少女だった。
突然、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……」
大丈夫。
泣く必要はない。
王宮でも、誰の前でも、そうしてきた。
――けれど。
誰もいない部屋で、灯りを落とした瞬間。
指先が、わずかに震えた。
(怖い……)
行き先は決まっていない。
味方もいない。
名前だけはあっても、地位も庇護も、すべて失った。
これから自分は、どこで、どう生きるのか。
「……ふふ」
小さく、乾いた笑いがこぼれる。
「王妃教育は受けさせられたのに、“一人で生きる方法”は教えてもらえませんでしたわね」
ルビーはベッドに横になり、天井を見つめた。
不安が、波のように押し寄せる。
もし、選択を誤っていたら?
もし、あの場で少しでも取り乱していたら?
(……それでも)
彼女は、ぎゅっとシーツを握る。
(縋ることだけは、したくなかった)
王太子に泣きつき、家にしがみつき、
「必要な存在でいたい」と媚びる生き方だけは――
どうしても、選べなかった。
それが正しかったのか、間違っていたのか。
今は、まだ分からない。
けれど。
(少なくとも……私は、私の意思で歩いた)
その事実だけが、かろうじて心を支えてくれていた。
翌朝。
最低限の衣服と、数冊の本、そして少量の金貨。
それだけを手に、ルビーは屋敷の裏口から出された。
見送りは、ない。
馬車に乗り込む直前、彼女は一度だけ屋敷を振り返った。
生まれ育った場所。
けれど、もう戻ることのない場所。
「……さようなら」
誰に聞かせるでもなく、そう呟く。
馬車が動き出し、屋敷が遠ざかる。
そのとき――
不思議と、胸にあった重さが、少しだけ軽くなった。
(私はもう、“誰かの所有物”ではありませんわ)
恐怖はある。
不安もある。
それでも――
ルビー・エルヴェールは、前を向いた。
すべてを失った夜を越えて、
彼女はこれから、自分の人生を選び取る。
その第一歩が、
「追放」という名の解放だったとしても。
王宮を去ったその夜、ルビー・エルヴェールは侯爵家の屋敷に戻ることを許されなかった。
正確に言えば――
**「戻る意味がない」**と告げられたのだ。
「王太子殿下との婚約は破棄された。お前は、もはや我が家の誇りではない」
父である侯爵の声は、驚くほど淡々としていた。
そこに情はなく、迷いもない。まるで壊れた道具を処分するかのような口調だった。
「明日の朝、馬車を一台出す。必要最低限の荷だけまとめろ」 「……追放、ということですのね」
そう問い返したルビーに、父は視線すら向けなかった。
「そう受け取って構わん」
それが、親子として交わした最後の言葉だった。
与えられた部屋は、屋敷の隅にある小さな客間だった。
かつて王妃候補として暮らしていた自室とは、比べるまでもない。
ルビーは静かに扉を閉め、ベッドに腰を下ろす。
(……本当に、何もかも終わったのね)
ドレスを脱ぎ、髪飾りを外し、鏡の前に立つ。
そこに映るのは、豪奢な令嬢ではない、一人の少女だった。
突然、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「……」
大丈夫。
泣く必要はない。
王宮でも、誰の前でも、そうしてきた。
――けれど。
誰もいない部屋で、灯りを落とした瞬間。
指先が、わずかに震えた。
(怖い……)
行き先は決まっていない。
味方もいない。
名前だけはあっても、地位も庇護も、すべて失った。
これから自分は、どこで、どう生きるのか。
「……ふふ」
小さく、乾いた笑いがこぼれる。
「王妃教育は受けさせられたのに、“一人で生きる方法”は教えてもらえませんでしたわね」
ルビーはベッドに横になり、天井を見つめた。
不安が、波のように押し寄せる。
もし、選択を誤っていたら?
もし、あの場で少しでも取り乱していたら?
(……それでも)
彼女は、ぎゅっとシーツを握る。
(縋ることだけは、したくなかった)
王太子に泣きつき、家にしがみつき、
「必要な存在でいたい」と媚びる生き方だけは――
どうしても、選べなかった。
それが正しかったのか、間違っていたのか。
今は、まだ分からない。
けれど。
(少なくとも……私は、私の意思で歩いた)
その事実だけが、かろうじて心を支えてくれていた。
翌朝。
最低限の衣服と、数冊の本、そして少量の金貨。
それだけを手に、ルビーは屋敷の裏口から出された。
見送りは、ない。
馬車に乗り込む直前、彼女は一度だけ屋敷を振り返った。
生まれ育った場所。
けれど、もう戻ることのない場所。
「……さようなら」
誰に聞かせるでもなく、そう呟く。
馬車が動き出し、屋敷が遠ざかる。
そのとき――
不思議と、胸にあった重さが、少しだけ軽くなった。
(私はもう、“誰かの所有物”ではありませんわ)
恐怖はある。
不安もある。
それでも――
ルビー・エルヴェールは、前を向いた。
すべてを失った夜を越えて、
彼女はこれから、自分の人生を選び取る。
その第一歩が、
「追放」という名の解放だったとしても。
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