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第11話 動き出す影、試される信頼
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第11話 動き出す影、試される信頼
翌日から、王宮内は妙に静かだった。
騒ぎは起きない。
告発もない。
だが――水面下だけが、不自然に忙しい。
(ええ、いい兆候ですわ)
ルビーは執務机で報告書に目を通しながら、内心でそう判断していた。
あの帳簿の件以降、財務官の動きが変わった。
文官の出入りが増え、記録室の使用履歴が頻繁に更新されている。
つまり――
誰かが、必死に辻褄を合わせ始めた。
「ルビー様」
控えめに声をかけてきたのは、若い記録官の青年だった。
「南門の通行記録ですが……ご指示どおり、原本ではなく“副帳”を提出されていました」 「ありがとうございます。助かりましたわ」
彼は一瞬、ためらったあと、小声で続ける。
「……正直に申し上げますと、
“これ以上深入りしない方がいい”という声もあります」
ルビーは顔を上げ、青年を見つめた。
「あなたは、どう思いました?」 「……数字は、嘘をついていませんでした」
その答えに、彼女は小さく微笑んだ。
「それで十分ですわ」
その日の午後。
レオニードから、急な呼び出しがかかった。
王太子執務室には、彼と、見慣れぬ男が一人。
黒を基調とした簡素な服装。
目立たないが、隙のない佇まい。
「紹介しよう。
マクシミリアン・グレイ。王宮監査局の長だ」
ルビーは、瞬時に理解した。
(表に出てこない“本物”)
「初めまして、エルヴェール嬢」
低く落ち着いた声。
「あなたの指摘した件、我々も独自に調べています」 「それは心強いですわ」
マクシミリアンは、一枚の紙を机に置いた。
「昨夜、南門関係者の一人が国外逃亡を試みました」 「……やはり」
「拘束済みです。
だが、彼は“末端”にすぎない」
レオニードが口を開く。
「ルビー。
この件、どこまで踏み込めると思う?」
問いは、試しでもあり、確認でもあった。
ルビーは、少しだけ考え――はっきりと答えた。
「今は、表に出すべきではありません」 「理由は?」
「今、摘発すれば“数人の不正”で終わります。
ですが、もう少し泳がせれば――
“構造そのもの”が見えてきますわ」
マクシミリアンが、わずかに目を細めた。
「……危険だぞ」 「承知しています」
それでも、ルビーは視線を逸らさない。
「ですが、ここで止めれば、
また別の形で腐ります」
沈黙のあと、レオニードが深く息を吐いた。
「君を信じよう」
その言葉は、軽くなかった。
「ただし――何かあれば、すぐに共有してくれ」 「ええ。約束いたしますわ」
その夜。
ルビーは私室で、一通の文書を書いていた。
内容はごく簡潔。
だが、**あえて“誤解を招く書き方”**をしている。
(これで……動く)
彼女は封を閉じ、侍女に託した。
そして、案の定。
王宮のどこかで、焦った声が響く。
「まずい……」 「例の女、核心に近づきすぎている」 「放っておけば、全て暴かれるぞ」
彼らは決断した。
――今度は、“事故”ではなく“排除”を。
一方、静かな部屋で紅茶を口にするルビーは、
その流れをすでに読み切っていた。
(来なさいな)
彼女の瞳には、恐れはない。
(信頼は得ました。
次は――真実を、白日の下に晒す番ですわ)
嵐は、もはや避けられない。
そしてその中心に、彼女は立っていた。
翌日から、王宮内は妙に静かだった。
騒ぎは起きない。
告発もない。
だが――水面下だけが、不自然に忙しい。
(ええ、いい兆候ですわ)
ルビーは執務机で報告書に目を通しながら、内心でそう判断していた。
あの帳簿の件以降、財務官の動きが変わった。
文官の出入りが増え、記録室の使用履歴が頻繁に更新されている。
つまり――
誰かが、必死に辻褄を合わせ始めた。
「ルビー様」
控えめに声をかけてきたのは、若い記録官の青年だった。
「南門の通行記録ですが……ご指示どおり、原本ではなく“副帳”を提出されていました」 「ありがとうございます。助かりましたわ」
彼は一瞬、ためらったあと、小声で続ける。
「……正直に申し上げますと、
“これ以上深入りしない方がいい”という声もあります」
ルビーは顔を上げ、青年を見つめた。
「あなたは、どう思いました?」 「……数字は、嘘をついていませんでした」
その答えに、彼女は小さく微笑んだ。
「それで十分ですわ」
その日の午後。
レオニードから、急な呼び出しがかかった。
王太子執務室には、彼と、見慣れぬ男が一人。
黒を基調とした簡素な服装。
目立たないが、隙のない佇まい。
「紹介しよう。
マクシミリアン・グレイ。王宮監査局の長だ」
ルビーは、瞬時に理解した。
(表に出てこない“本物”)
「初めまして、エルヴェール嬢」
低く落ち着いた声。
「あなたの指摘した件、我々も独自に調べています」 「それは心強いですわ」
マクシミリアンは、一枚の紙を机に置いた。
「昨夜、南門関係者の一人が国外逃亡を試みました」 「……やはり」
「拘束済みです。
だが、彼は“末端”にすぎない」
レオニードが口を開く。
「ルビー。
この件、どこまで踏み込めると思う?」
問いは、試しでもあり、確認でもあった。
ルビーは、少しだけ考え――はっきりと答えた。
「今は、表に出すべきではありません」 「理由は?」
「今、摘発すれば“数人の不正”で終わります。
ですが、もう少し泳がせれば――
“構造そのもの”が見えてきますわ」
マクシミリアンが、わずかに目を細めた。
「……危険だぞ」 「承知しています」
それでも、ルビーは視線を逸らさない。
「ですが、ここで止めれば、
また別の形で腐ります」
沈黙のあと、レオニードが深く息を吐いた。
「君を信じよう」
その言葉は、軽くなかった。
「ただし――何かあれば、すぐに共有してくれ」 「ええ。約束いたしますわ」
その夜。
ルビーは私室で、一通の文書を書いていた。
内容はごく簡潔。
だが、**あえて“誤解を招く書き方”**をしている。
(これで……動く)
彼女は封を閉じ、侍女に託した。
そして、案の定。
王宮のどこかで、焦った声が響く。
「まずい……」 「例の女、核心に近づきすぎている」 「放っておけば、全て暴かれるぞ」
彼らは決断した。
――今度は、“事故”ではなく“排除”を。
一方、静かな部屋で紅茶を口にするルビーは、
その流れをすでに読み切っていた。
(来なさいな)
彼女の瞳には、恐れはない。
(信頼は得ました。
次は――真実を、白日の下に晒す番ですわ)
嵐は、もはや避けられない。
そしてその中心に、彼女は立っていた。
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