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第12話 崩れ始める均衡、迫る危険
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第12話 崩れ始める均衡、迫る危険
夜更けの王宮は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
回廊に灯るランプの光が、長い影を床に落とす。
その中を、ルビー・エルヴェールは一人、足早に歩いていた。
(……少し、早すぎますわね)
胸騒ぎがあった。
あの“誤解を招く文書”を流してから、まだ半日も経っていない。
――それなのに。
「……ここ、ですわね」
目的の記録室の扉は、わずかに開いていた。
本来、夜間は厳重に施錠されているはずの場所だ。
ルビーは一瞬だけ立ち止まり、静かに息を整える。
(これは偶然ではありません)
扉に手をかけた、その瞬間。
「――動くな」
低い声とともに、背後から冷たい気配が迫った。
振り返るよりも早く、腕を掴まれる。
「夜の記録室に忍び込むとは、
王太子直属顧問ともあろう者が、ずいぶん大胆だな」
黒い外套の男。
顔は覆われているが、その声には聞き覚えがあった。
(……南門の、あの文官)
ルビーは抵抗せず、あえて力を抜いた。
「誤解ですわ。私は“招かれた”だけですもの」 「ほう?」
男が鼻で笑う。
「では、その招待主は誰だ?」 「それを知りたいのは、私の方ですわね」
その瞬間――。
「そこまでだ」
鋭い声が空気を切った。
次の瞬間、複数の足音が響き、男は慌ててルビーから手を離した。
「……なっ!?」
現れたのは、王宮監査局の兵と、先頭に立つマクシミリアンだった。
「監査局の名のもとに命じる。武器を捨て、身分を明かせ」
男は一瞬、逃走を試みたが――すでに包囲されていた。
床に押さえつけられるその姿を、ルビーは静かに見下ろす。
「……エルヴェール嬢」
マクシミリアンが振り返る。
「怪我は?」 「ええ、無事ですわ。想定内でしたもの」
その言葉に、彼は小さく息を吐いた。
「やはり、罠だったか」 「はい。“ここに来るよう仕向けた”のは私です」
ほどなくして、レオニードも駆けつけた。
「ルビー……!」
一瞬だけ、彼の表情に安堵が浮かぶ。
「無茶をする」 「殿下が“信じる”と仰ったので」
ルビーは微笑んだ。
「信頼には、応えませんと」
拘束された男からは、その後すぐに情報が引き出された。
記録の改ざん。
密輸。
そして――顧問ルビーを“事故に見せかけて排除する計画”。
「……想像以上に、深いな」
レオニードが低く呟く。
「ええ。ですが――もう、均衡は崩れました」
ルビーは、静かに言った。
「彼らは、表に出ざるを得ません。
隠れる場所が、なくなりますから」
その夜、王宮内には極秘の通達が回った。
――監査局による大規模調査の開始。
――関係者の出入り制限。
――複数の貴族・官僚への事情聴取。
静かだった王宮は、再びざわめき始める。
私室に戻ったルビーは、椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。
(……一線、越えましたわね)
だが、後悔はなかった。
これは、自分が選んだ道。
逃げずに進むと決めた、その結果だ。
窓の外、夜空には雲が流れ、月が姿を現す。
(もう後戻りはできません)
ルビーの瞳は、静かに、しかし確かに光を宿していた。
嵐は本格的に始まった。
そしてその中心で――彼女は、もう一歩も退かない覚悟を固めていた。
夜更けの王宮は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
回廊に灯るランプの光が、長い影を床に落とす。
その中を、ルビー・エルヴェールは一人、足早に歩いていた。
(……少し、早すぎますわね)
胸騒ぎがあった。
あの“誤解を招く文書”を流してから、まだ半日も経っていない。
――それなのに。
「……ここ、ですわね」
目的の記録室の扉は、わずかに開いていた。
本来、夜間は厳重に施錠されているはずの場所だ。
ルビーは一瞬だけ立ち止まり、静かに息を整える。
(これは偶然ではありません)
扉に手をかけた、その瞬間。
「――動くな」
低い声とともに、背後から冷たい気配が迫った。
振り返るよりも早く、腕を掴まれる。
「夜の記録室に忍び込むとは、
王太子直属顧問ともあろう者が、ずいぶん大胆だな」
黒い外套の男。
顔は覆われているが、その声には聞き覚えがあった。
(……南門の、あの文官)
ルビーは抵抗せず、あえて力を抜いた。
「誤解ですわ。私は“招かれた”だけですもの」 「ほう?」
男が鼻で笑う。
「では、その招待主は誰だ?」 「それを知りたいのは、私の方ですわね」
その瞬間――。
「そこまでだ」
鋭い声が空気を切った。
次の瞬間、複数の足音が響き、男は慌ててルビーから手を離した。
「……なっ!?」
現れたのは、王宮監査局の兵と、先頭に立つマクシミリアンだった。
「監査局の名のもとに命じる。武器を捨て、身分を明かせ」
男は一瞬、逃走を試みたが――すでに包囲されていた。
床に押さえつけられるその姿を、ルビーは静かに見下ろす。
「……エルヴェール嬢」
マクシミリアンが振り返る。
「怪我は?」 「ええ、無事ですわ。想定内でしたもの」
その言葉に、彼は小さく息を吐いた。
「やはり、罠だったか」 「はい。“ここに来るよう仕向けた”のは私です」
ほどなくして、レオニードも駆けつけた。
「ルビー……!」
一瞬だけ、彼の表情に安堵が浮かぶ。
「無茶をする」 「殿下が“信じる”と仰ったので」
ルビーは微笑んだ。
「信頼には、応えませんと」
拘束された男からは、その後すぐに情報が引き出された。
記録の改ざん。
密輸。
そして――顧問ルビーを“事故に見せかけて排除する計画”。
「……想像以上に、深いな」
レオニードが低く呟く。
「ええ。ですが――もう、均衡は崩れました」
ルビーは、静かに言った。
「彼らは、表に出ざるを得ません。
隠れる場所が、なくなりますから」
その夜、王宮内には極秘の通達が回った。
――監査局による大規模調査の開始。
――関係者の出入り制限。
――複数の貴族・官僚への事情聴取。
静かだった王宮は、再びざわめき始める。
私室に戻ったルビーは、椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。
(……一線、越えましたわね)
だが、後悔はなかった。
これは、自分が選んだ道。
逃げずに進むと決めた、その結果だ。
窓の外、夜空には雲が流れ、月が姿を現す。
(もう後戻りはできません)
ルビーの瞳は、静かに、しかし確かに光を宿していた。
嵐は本格的に始まった。
そしてその中心で――彼女は、もう一歩も退かない覚悟を固めていた。
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