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第23話 制度としての彼女、個としての私
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第23話 制度としての彼女、個としての私
新設された役職――
改革特別監督官。
その名称が王宮内に正式に通達されたのは、翌朝のことだった。
肩書きだけ見れば、実に穏当。
だが、その実態は――王宮のあらゆる改革案件に介入できる権限を持つ。
「……思った以上に、通りましたね」
文書を手にした若い文官が、半ば呆然と呟く。
「ええ。“今のうちに形にしておきたい”のでしょう」
ルビー・エルヴェールは、淡々と答えた。
「私が、次に何を言い出すか分かりませんから」
その通りだった。
評議会は、彼女を抑え込むことを諦め、
制度の中に組み込むことで制御しようとした。
だが――その制度自体が、彼女の提案で設計されている。
「……皮肉な話だな」
レオニードは、執務室で苦笑した。
「君を縛るための役職が、
結果的に、王宮を縛ることになった」
「縛るのではありませんわ」
ルビーは、静かに言う。
「“逃げ道をなくした”だけです」
改革特別監督官としての最初の仕事は、
人事再編の再検証だった。
これまでの改革が、
“ルビー個人の判断”に見えすぎていないか。
「……つまり、あなたが去った後も、
同じ判断ができる仕組みを作れ、と」
マクシミリアン・グレイは、書類を眺めながら言った。
「ええ」
「ずいぶん、先のことを考える」 「私が永遠にここにいる保証はありませんもの」
その言葉に、彼は一瞬だけ目を細めた。
「……王太子妃になる可能性があっても、か?」 「それでも、です」
即答だった。
午後。
改革特別監督官として初めて、評議会の補助席についた。
正面ではなく、やや横。
だが、発言権は明確に保障されている。
「……この配置も、絶妙ですわね」
中心に立たせない。
だが、無視もできない。
議題は、地方税制の見直し。
これまでなら、派閥間の調整で流れていた案件だ。
「――監督官のご意見は?」
誰かが、慎重に振った。
「では、制度の前提から申し上げます」
ルビーは、立ち上がらずに答える。
「今回の税制は、“人”を想定しすぎています」
「……と、申しますと?」
「善意の担当者、優秀な監督官、
そうした“理想の人材”が常にいる前提」
静かな指摘。
「ですが、制度は――
無能でも、怠惰でも、悪意があっても機能すべきです」
評議会が、ざわついた。
「感情や忠誠ではなく、
確認と記録、再現性で回る仕組みにしてください」
「……それは、信頼が失われるという意味では?」
ルビーは、首を横に振る。
「いいえ。
信頼に依存しないからこそ、裏切られないのです」
沈黙。
そして――数名が、ゆっくりと頷いた。
会議が終わった後。
「……恐ろしいことを、平然と言う」
マクシミリアンが、低く笑う。
「ですが、それが改革です」
その夜。
ルビーは、私室で一人、椅子に腰掛けていた。
今日一日で、
何度“監督官殿”と呼ばれただろう。
(……私は、制度になりたいわけではない)
だが、制度を作らなければ、
誰かがまた“便利な個人”として消費される。
窓の外、王宮の灯りが揺れている。
(個としての私。
制度としての私)
その二つの間で、
バランスを取り続けることになるのだろう。
ルビー・エルヴェールは、
新しい役職の重みを、静かに受け止めていた。
それは、王宮にとっても、
彼女自身にとっても――
後戻りのできない一歩だった。
新設された役職――
改革特別監督官。
その名称が王宮内に正式に通達されたのは、翌朝のことだった。
肩書きだけ見れば、実に穏当。
だが、その実態は――王宮のあらゆる改革案件に介入できる権限を持つ。
「……思った以上に、通りましたね」
文書を手にした若い文官が、半ば呆然と呟く。
「ええ。“今のうちに形にしておきたい”のでしょう」
ルビー・エルヴェールは、淡々と答えた。
「私が、次に何を言い出すか分かりませんから」
その通りだった。
評議会は、彼女を抑え込むことを諦め、
制度の中に組み込むことで制御しようとした。
だが――その制度自体が、彼女の提案で設計されている。
「……皮肉な話だな」
レオニードは、執務室で苦笑した。
「君を縛るための役職が、
結果的に、王宮を縛ることになった」
「縛るのではありませんわ」
ルビーは、静かに言う。
「“逃げ道をなくした”だけです」
改革特別監督官としての最初の仕事は、
人事再編の再検証だった。
これまでの改革が、
“ルビー個人の判断”に見えすぎていないか。
「……つまり、あなたが去った後も、
同じ判断ができる仕組みを作れ、と」
マクシミリアン・グレイは、書類を眺めながら言った。
「ええ」
「ずいぶん、先のことを考える」 「私が永遠にここにいる保証はありませんもの」
その言葉に、彼は一瞬だけ目を細めた。
「……王太子妃になる可能性があっても、か?」 「それでも、です」
即答だった。
午後。
改革特別監督官として初めて、評議会の補助席についた。
正面ではなく、やや横。
だが、発言権は明確に保障されている。
「……この配置も、絶妙ですわね」
中心に立たせない。
だが、無視もできない。
議題は、地方税制の見直し。
これまでなら、派閥間の調整で流れていた案件だ。
「――監督官のご意見は?」
誰かが、慎重に振った。
「では、制度の前提から申し上げます」
ルビーは、立ち上がらずに答える。
「今回の税制は、“人”を想定しすぎています」
「……と、申しますと?」
「善意の担当者、優秀な監督官、
そうした“理想の人材”が常にいる前提」
静かな指摘。
「ですが、制度は――
無能でも、怠惰でも、悪意があっても機能すべきです」
評議会が、ざわついた。
「感情や忠誠ではなく、
確認と記録、再現性で回る仕組みにしてください」
「……それは、信頼が失われるという意味では?」
ルビーは、首を横に振る。
「いいえ。
信頼に依存しないからこそ、裏切られないのです」
沈黙。
そして――数名が、ゆっくりと頷いた。
会議が終わった後。
「……恐ろしいことを、平然と言う」
マクシミリアンが、低く笑う。
「ですが、それが改革です」
その夜。
ルビーは、私室で一人、椅子に腰掛けていた。
今日一日で、
何度“監督官殿”と呼ばれただろう。
(……私は、制度になりたいわけではない)
だが、制度を作らなければ、
誰かがまた“便利な個人”として消費される。
窓の外、王宮の灯りが揺れている。
(個としての私。
制度としての私)
その二つの間で、
バランスを取り続けることになるのだろう。
ルビー・エルヴェールは、
新しい役職の重みを、静かに受け止めていた。
それは、王宮にとっても、
彼女自身にとっても――
後戻りのできない一歩だった。
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