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第24話 試される制度、揺さぶられる信頼
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第24話 試される制度、揺さぶられる信頼
改革特別監督官としての職務が、名ばかりで終わらないことを示す機会は、思いのほか早く訪れた。
――地方税制の暫定運用、初回検証。
王宮から遠く離れた北方三州で、徴税額の数値に“微妙なズレ”が見つかったのだ。
「不正、でしょうか?」
若い文官が、慎重に尋ねる。
「断定は早計です」
ルビー・エルヴェールは、書類から目を上げずに答えた。
「まずは、“どこでズレたか”を確認します」
彼女は、机の上に図式化されたフローを広げた。
申告。
確認。
承認。
送金。
記録。
「この中で、人の判断が入る箇所は三つ。
そして、記録が二重化されていない箇所が一つ」
「……承認段階ですね」 「ええ。ここです」
ルビーは、即座に命じた。
「北方三州の承認ログ、すべて提出してください。
“問題がない分”も含めて」
数時間後。
集められた記録を並べた瞬間、空気が変わった。
「……承認時間が、妙に揃いすぎている」
マクシミリアンが、低く言う。
「人の判断なら、ここまで一致しませんわ」
答えは明白だった。
承認印が、事前に押されていた。
「つまり、不正というより――慣行です」
ルビーは、静かに結論づけた。
「“忙しいから”“いつも通りだから”という理由で、
確認を飛ばす」
「処罰は?」
誰かが問う。
「必要ありません」
即答だった。
「え……?」 「今回の問題は、“悪意”ではなく“設計”です」
ルビーは立ち上がり、全員を見渡す。
「制度が、人の善意や注意力に依存している。
それが原因です」
彼女は、新しい指示を出した。
「承認は、二段階に分けます。
一段目は自動確認、二段目は人の確認」
「時間がかかりますが……」 「かかって構いません」
「早さより、戻れる仕組みを優先してください」
その判断は、王宮内で賛否を呼んだ。
「慎重すぎる」 「地方が回らなくなる」 「信頼を疑うのか」
それらの声に、ルビーは一切反論しなかった。
ただ、一文だけを返す。
「疑っているのは、人ではなく――制度です」
翌週。
北方三州から、正式な報告が届いた。
ズレは、完全に解消。
作業時間は増えたが、苦情は出ていない。
「……不思議なものだな」
レオニードが、感心したように言う。
「締め付けたのに、反発が少ない」 「責めていないからですわ」
「“なぜ間違えたか”ではなく、
“どうすれば間違えないか”を示しましたから」
その夜。
ルビーは、私室で一通の匿名の手紙を読んでいた。
――「監督官殿。
あなたの制度は、私たちを疑っていません。
だからこそ、応えたいと思えました」
(……少しは、伝わったかしら)
制度は、信頼を壊すためにあるのではない。
信頼を“消費しない”ためにある。
ルビー・エルヴェールは、灯りを落としながら思った。
(試されるのは、制度。
でも同時に――私自身の覚悟)
人を信じることと、
人に委ねすぎないこと。
その狭間で、
彼女は歩き続ける。
王宮という巨大な装置の中で、
静かに、しかし確実に――。
改革特別監督官としての職務が、名ばかりで終わらないことを示す機会は、思いのほか早く訪れた。
――地方税制の暫定運用、初回検証。
王宮から遠く離れた北方三州で、徴税額の数値に“微妙なズレ”が見つかったのだ。
「不正、でしょうか?」
若い文官が、慎重に尋ねる。
「断定は早計です」
ルビー・エルヴェールは、書類から目を上げずに答えた。
「まずは、“どこでズレたか”を確認します」
彼女は、机の上に図式化されたフローを広げた。
申告。
確認。
承認。
送金。
記録。
「この中で、人の判断が入る箇所は三つ。
そして、記録が二重化されていない箇所が一つ」
「……承認段階ですね」 「ええ。ここです」
ルビーは、即座に命じた。
「北方三州の承認ログ、すべて提出してください。
“問題がない分”も含めて」
数時間後。
集められた記録を並べた瞬間、空気が変わった。
「……承認時間が、妙に揃いすぎている」
マクシミリアンが、低く言う。
「人の判断なら、ここまで一致しませんわ」
答えは明白だった。
承認印が、事前に押されていた。
「つまり、不正というより――慣行です」
ルビーは、静かに結論づけた。
「“忙しいから”“いつも通りだから”という理由で、
確認を飛ばす」
「処罰は?」
誰かが問う。
「必要ありません」
即答だった。
「え……?」 「今回の問題は、“悪意”ではなく“設計”です」
ルビーは立ち上がり、全員を見渡す。
「制度が、人の善意や注意力に依存している。
それが原因です」
彼女は、新しい指示を出した。
「承認は、二段階に分けます。
一段目は自動確認、二段目は人の確認」
「時間がかかりますが……」 「かかって構いません」
「早さより、戻れる仕組みを優先してください」
その判断は、王宮内で賛否を呼んだ。
「慎重すぎる」 「地方が回らなくなる」 「信頼を疑うのか」
それらの声に、ルビーは一切反論しなかった。
ただ、一文だけを返す。
「疑っているのは、人ではなく――制度です」
翌週。
北方三州から、正式な報告が届いた。
ズレは、完全に解消。
作業時間は増えたが、苦情は出ていない。
「……不思議なものだな」
レオニードが、感心したように言う。
「締め付けたのに、反発が少ない」 「責めていないからですわ」
「“なぜ間違えたか”ではなく、
“どうすれば間違えないか”を示しましたから」
その夜。
ルビーは、私室で一通の匿名の手紙を読んでいた。
――「監督官殿。
あなたの制度は、私たちを疑っていません。
だからこそ、応えたいと思えました」
(……少しは、伝わったかしら)
制度は、信頼を壊すためにあるのではない。
信頼を“消費しない”ためにある。
ルビー・エルヴェールは、灯りを落としながら思った。
(試されるのは、制度。
でも同時に――私自身の覚悟)
人を信じることと、
人に委ねすぎないこと。
その狭間で、
彼女は歩き続ける。
王宮という巨大な装置の中で、
静かに、しかし確実に――。
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