満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾

文字の大きさ
18 / 40

第十八話 切り離された中心

しおりを挟む
第十八話 切り離された中心

 王都は、何事もなかったかのように動いていた。

 辺境行きの準備が整えられる間も、王宮では新たな調整案が次々と承認されていく。臨時負担は段階的に緩和され、商会との再契約が進み、軍需支払いの遅延も解消へ向かっている。

 円卓は滑らかだ。

 発言は順番に回り、反対意見も受け止められ、修正が入り、合意へ至る。

 それは、かつてアルベルトが退屈だと感じていた“遅さ”だった。

 だが今、その遅さが秩序を生んでいる。

 執務室で報告を受ける彼は、すでにその場の中心ではない。

「元殿下、辺境伯領の館の準備が整いました」

「……そうか」

 机の上に積まれた書類は、形式的なものばかりだ。

 警護人数の確定。
 随行者の一覧。
 療養名目の布告文。

 どれも整っている。

 整いすぎている。

 誰も彼を責めない。

 誰も追い立てない。

 だが確実に“中心”から切り離されている。

 廊下を歩けば、視線は減った。

 敵意はない。

 無関心に近い。

 それが一番重い。

 リュシエラだけが、距離を縮める。

「辺境は静かでございます」

「王都も静かだ」

「違いますわ」

 彼女は首を傾げる。

「王都は、殿下がいなくなって静かになったのです」

 その言葉は甘い。

 だが、胸に刺さる。

 夜。

 アルベルトは再び眠れない。

 目を閉じると、広間の光景がよみがえる。

 整然と上がる手。

 無音の合意。

 誰も怒らない。

 誰も反対しない。

 そして、白い衣。

 返り血を浴びたまま微笑む幻影。

「どこまでも私がお供します」

 目を開ける。

 暗闇。

 現実には、血もない。

 ただ、悪夢が残る。

 隣国。

 エリシアは港の再整備完了報告を受けていた。

「移転商会は合計五社」

「予想より早いですね」

「王都の再調整が進む前に、拠点を確保したいとのことです」

 彼女は頷く。

「合理的な判断です」

 誰かの没落に歓喜はしない。

 ただ構造を読む。

 規範を守る者の元に、人は集まる。

 規範を飛ばした者から、人は離れる。

 単純な構図。

 王宮。

 出立の日が近づく。

 馬車は準備され、護衛は最小限に絞られた。

 父王は姿を見せない。

 それが最後の距離。

 円卓は既に次の後継候補の名を検討し始めている。

 アルベルトは庭に立つ。

 噴水の水音が響く。

 かつては、この庭の中央に立つ自分が“中心”だった。

 今は違う。

 王都は、自分がいなくても回る。

 むしろ、滑らかに。

 リュシエラが隣に立つ。

「後悔なさいますか」

「……私は間違っていたか」

「いいえ」

 迷いのない声。

「殿下は強かっただけ」

 だが、強さは支持を生まなかった。

 予測不能は、信頼を削った。

 それが貴族社会の答え。

 遠くで鐘が鳴る。

 出立の時刻を告げる。

 王都の灯は変わらず輝いている。

 中心が抜けても、円は崩れない。

 むしろ歪みが消えたかのように見える。

 アルベルトは、初めてはっきりと理解する。

 自分は排除されたのではない。

 切り離されたのだ。

 秩序を保つために。

 そしてその秩序は、静かに正しく機能している。

 隣国の港では、新たな船が入港する。

 王都の庭では、馬車が待つ。

 同じ朝。

 別々の未来。

 切り離された中心は、もう戻らない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。  カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。   (※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m 

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

婚約者の姉を婚約者にしろと言われたので独立します!

ユウ
恋愛
辺境伯爵次男のユーリには婚約者がいた。 侯爵令嬢の次女アイリスは才女と謡われる努力家で可愛い幼馴染であり、幼少の頃に婚約する事が決まっていた。 そんなある日、長女の婚約話が破談となり、そこで婚約者の入れ替えを命じられてしまうのだったが、婚約お披露目の場で姉との婚約破棄宣言をして、実家からも勘当され国外追放の身となる。 「国外追放となってもアイリス以外は要りません」 国王両陛下がいる中で堂々と婚約破棄宣言をして、アイリスを抱き寄せる。 両家から勘当された二人はそのまま国外追放となりながらも二人は真実の愛を貫き駆け落ちした二人だったが、その背後には意外な人物がいた

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
ファンタジー
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

処理中です...