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第二十一話 遠くなる中心
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第二十一話 遠くなる中心
辺境での生活は、規則正しかった。
日の出とともに起き、報告を受け、短い散策をし、夕刻には静かな食卓につく。王都で当たり前だった急な呼び出しも、夜半の緊急会議もない。
静養としては理想的だ。
だが、その“理想”が空虚だった。
朝。
辺境伯が差し出した報告書には、王都の近況が簡潔にまとめられている。
――後継候補、第二王子で暫定合意。
――商会五社、王都へ部分復帰。
――軍需契約、安定化。
数字は整い、文面は落ち着いている。
荒れた痕跡はない。
まるで、何事もなかったかのように。
「……早いな」
アルベルトは呟く。
「王都は秩序を重んじます」
辺境伯はそれだけ言う。
秩序。
規範。
順序。
すべて、自分が飛ばしたもの。
リュシエラは窓辺で花を挿している。
「王都は狭いのです」
柔らかな声。
「殿下のような方には、もっと広い場所が必要」
「広い?」
「ここは、誰にも邪魔されません」
邪魔。
その言葉が、静かに胸に落ちる。
王都で“邪魔”だったのは、反対意見か。
規範か。
沈黙か。
昼。
辺境の村を視察する。
住民は一礼するが、王都のような視線はない。
畏怖も期待もない。
ただ“王子が来た”という認識だけ。
中心ではない。
役割もない。
夜。
眠りは浅い。
目を閉じる。
暗闇。
広間。
整然と上がる手。
白い衣。
赤い飛沫。
笑顔。
「どこまでも私がお供します」
はっと目を開ける。
辺境の天井。
虫の音。
血はない。
だが悪夢は鮮明だ。
隣国。
エリシアは外交文書に目を通している。
「王都の再安定は確定的です」
「ええ」
彼女は淡々と答える。
「一度規範が修復されれば、揺らぎは小さい」
「元王子は辺境にて静養」
「影響はございません」
彼女の物語は進む。
商業区画は拡張され、港は活気づき、契約は増える。
誰かの孤立に触れる必要はない。
辺境の館。
アルベルトは庭を歩く。
噴水はない。
整備された石畳もない。
だが空は広い。
それでも胸は重い。
王都は遠い。
だが中心は、さらに遠い。
「後悔なさいますか」
リュシエラが問う。
「……私は間違っていない」
即答。
だが、声は弱い。
「もちろんです」
彼女は微笑む。
「強さは孤独を伴うもの」
孤独。
それが強さの証なら、なぜ王都は滑らかに動いているのか。
なぜ、自分が外れた後に秩序が戻ったのか。
答えは出ない。
だが現実は明確だ。
王都は、彼を必要としなかった。
隣国は、彼を前提にしない。
辺境は、彼に期待しない。
遠くで鐘が鳴る。
夜が深まる。
王都の中心は、もう届かない距離にある。
そしてその距離は、日ごとに広がっていた。
辺境での生活は、規則正しかった。
日の出とともに起き、報告を受け、短い散策をし、夕刻には静かな食卓につく。王都で当たり前だった急な呼び出しも、夜半の緊急会議もない。
静養としては理想的だ。
だが、その“理想”が空虚だった。
朝。
辺境伯が差し出した報告書には、王都の近況が簡潔にまとめられている。
――後継候補、第二王子で暫定合意。
――商会五社、王都へ部分復帰。
――軍需契約、安定化。
数字は整い、文面は落ち着いている。
荒れた痕跡はない。
まるで、何事もなかったかのように。
「……早いな」
アルベルトは呟く。
「王都は秩序を重んじます」
辺境伯はそれだけ言う。
秩序。
規範。
順序。
すべて、自分が飛ばしたもの。
リュシエラは窓辺で花を挿している。
「王都は狭いのです」
柔らかな声。
「殿下のような方には、もっと広い場所が必要」
「広い?」
「ここは、誰にも邪魔されません」
邪魔。
その言葉が、静かに胸に落ちる。
王都で“邪魔”だったのは、反対意見か。
規範か。
沈黙か。
昼。
辺境の村を視察する。
住民は一礼するが、王都のような視線はない。
畏怖も期待もない。
ただ“王子が来た”という認識だけ。
中心ではない。
役割もない。
夜。
眠りは浅い。
目を閉じる。
暗闇。
広間。
整然と上がる手。
白い衣。
赤い飛沫。
笑顔。
「どこまでも私がお供します」
はっと目を開ける。
辺境の天井。
虫の音。
血はない。
だが悪夢は鮮明だ。
隣国。
エリシアは外交文書に目を通している。
「王都の再安定は確定的です」
「ええ」
彼女は淡々と答える。
「一度規範が修復されれば、揺らぎは小さい」
「元王子は辺境にて静養」
「影響はございません」
彼女の物語は進む。
商業区画は拡張され、港は活気づき、契約は増える。
誰かの孤立に触れる必要はない。
辺境の館。
アルベルトは庭を歩く。
噴水はない。
整備された石畳もない。
だが空は広い。
それでも胸は重い。
王都は遠い。
だが中心は、さらに遠い。
「後悔なさいますか」
リュシエラが問う。
「……私は間違っていない」
即答。
だが、声は弱い。
「もちろんです」
彼女は微笑む。
「強さは孤独を伴うもの」
孤独。
それが強さの証なら、なぜ王都は滑らかに動いているのか。
なぜ、自分が外れた後に秩序が戻ったのか。
答えは出ない。
だが現実は明確だ。
王都は、彼を必要としなかった。
隣国は、彼を前提にしない。
辺境は、彼に期待しない。
遠くで鐘が鳴る。
夜が深まる。
王都の中心は、もう届かない距離にある。
そしてその距離は、日ごとに広がっていた。
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