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第二十話 辺境の館
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第二十話 辺境の館
辺境伯領の館は、想像していたよりも整っていた。
石造りの外壁は質実剛健で、華美な装飾はない。
王都の宮殿とは比べものにならないが、不自由も感じない。
「療養」にふさわしい静けさ。
それが、かえって現実味を帯びていた。
馬車が門をくぐる。
出迎えは最小限。
辺境伯は深く一礼した。
「ようこそお越しくださいました」
声音に媚びはない。
敬意はあるが、過剰ではない。
アルベルトは頷く。
ここでは、彼は王太子ではない。
第一王子。
それだけだ。
館の内部は整然としている。
執務室も用意されている。
だが王都の円卓はない。
決定権もない。
影響力もない。
リュシエラが窓辺に立つ。
「空気が澄んでおりますわ」
「王都とは違うな」
「余計な声がありません」
余計な声。
それは反対意見か。
沈黙か。
規範か。
館の夜は深い。
虫の音が遠くに聞こえる。
王都の灯は見えない。
アルベルトは初めて、自分が完全に外れたことを実感する。
翌朝。
辺境伯が報告書を持参する。
「王都よりの通達です」
封を切る。
内容は事務的。
王宮再編。
商会との再契約成立。
税制安定。
後継候補の正式協議開始。
どれも、滑らかに進んでいる。
自分がいない方が。
その事実が、胸を締め付ける。
「……安定しているな」
「はい」
辺境伯は短く答える。
評価も同情もない。
ただ事実。
夜。
目を閉じる。
暗闇。
白い衣。
その袖に赤い染み。
広間で上がる手。
笑顔。
「どこまでも私がお供します」
目を開ける。
辺境の天井。
静寂。
現実には何もない。
だが悪夢だけが鮮明だ。
リュシエラが近づく。
「まだ眠れませんの?」
「……王都は動いている」
「当然ですわ」
彼女は柔らかく微笑む。
「殿下がいなくても」
その言葉は、慰めなのか。
それとも確認なのか。
一方、隣国。
エリシアは新たな交易路の拡張案を確認していた。
「辺境伯領経由の物流は安定しております」
「王都の再調整は?」
「順調です」
彼女は頷く。
「良いことです」
感情は揺れない。
誰かの孤立に関心はない。
構造が整えば、それでよい。
辺境の朝。
アルベルトは庭に立つ。
王都の喧騒はない。
拍手もない。
沈黙もない。
ただ風が吹く。
ここには規範も円卓もない。
だが同時に、中心もない。
彼は初めて、静かな問いを自分に向ける。
強さとは何だったのか。
合法であれば、十分だったのか。
順序を飛ばした代償は、孤立だけだったのか。
答えは出ない。
だが一つだけ確かなことがある。
王都は回っている。
隣国も進んでいる。
自分だけが、外側にいる。
辺境の館は静かだ。
そしてその静けさは、王都の沈黙よりも重かった。
辺境伯領の館は、想像していたよりも整っていた。
石造りの外壁は質実剛健で、華美な装飾はない。
王都の宮殿とは比べものにならないが、不自由も感じない。
「療養」にふさわしい静けさ。
それが、かえって現実味を帯びていた。
馬車が門をくぐる。
出迎えは最小限。
辺境伯は深く一礼した。
「ようこそお越しくださいました」
声音に媚びはない。
敬意はあるが、過剰ではない。
アルベルトは頷く。
ここでは、彼は王太子ではない。
第一王子。
それだけだ。
館の内部は整然としている。
執務室も用意されている。
だが王都の円卓はない。
決定権もない。
影響力もない。
リュシエラが窓辺に立つ。
「空気が澄んでおりますわ」
「王都とは違うな」
「余計な声がありません」
余計な声。
それは反対意見か。
沈黙か。
規範か。
館の夜は深い。
虫の音が遠くに聞こえる。
王都の灯は見えない。
アルベルトは初めて、自分が完全に外れたことを実感する。
翌朝。
辺境伯が報告書を持参する。
「王都よりの通達です」
封を切る。
内容は事務的。
王宮再編。
商会との再契約成立。
税制安定。
後継候補の正式協議開始。
どれも、滑らかに進んでいる。
自分がいない方が。
その事実が、胸を締め付ける。
「……安定しているな」
「はい」
辺境伯は短く答える。
評価も同情もない。
ただ事実。
夜。
目を閉じる。
暗闇。
白い衣。
その袖に赤い染み。
広間で上がる手。
笑顔。
「どこまでも私がお供します」
目を開ける。
辺境の天井。
静寂。
現実には何もない。
だが悪夢だけが鮮明だ。
リュシエラが近づく。
「まだ眠れませんの?」
「……王都は動いている」
「当然ですわ」
彼女は柔らかく微笑む。
「殿下がいなくても」
その言葉は、慰めなのか。
それとも確認なのか。
一方、隣国。
エリシアは新たな交易路の拡張案を確認していた。
「辺境伯領経由の物流は安定しております」
「王都の再調整は?」
「順調です」
彼女は頷く。
「良いことです」
感情は揺れない。
誰かの孤立に関心はない。
構造が整えば、それでよい。
辺境の朝。
アルベルトは庭に立つ。
王都の喧騒はない。
拍手もない。
沈黙もない。
ただ風が吹く。
ここには規範も円卓もない。
だが同時に、中心もない。
彼は初めて、静かな問いを自分に向ける。
強さとは何だったのか。
合法であれば、十分だったのか。
順序を飛ばした代償は、孤立だけだったのか。
答えは出ない。
だが一つだけ確かなことがある。
王都は回っている。
隣国も進んでいる。
自分だけが、外側にいる。
辺境の館は静かだ。
そしてその静けさは、王都の沈黙よりも重かった。
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