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第二十二話 戻らない合図
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第二十二話 戻らない合図
辺境の朝は、王都よりも光が強い。
空は高く、風は澄んでいる。
だがその透明さが、かえって孤立を際立たせる。
アルベルトは書斎の窓を開けたまま、王都から届いた封書を見ていた。
封蝋は王家のもの。
だが文面は短い。
――第二王子、正式に王太子へ推戴。
――貴族全会、満場一致。
満場一致。
その四文字が、ゆっくりと沈む。
再び。
彼が外れたときと同じ。
怒号も対立もなく、ただ整然と。
「……決まったか」
声はかすれていない。
だが空気は重い。
辺境伯は一礼する。
「王都は安定を優先いたしました」
責めも擁護もない。
ただ事実。
王都は迷わなかった。
リュシエラが近づく。
「当然でございます」
「当然?」
「強い方より、安定する方が好まれます」
その言葉は静かだ。
かつてなら怒りを覚えたかもしれない。
だが今は、反論の言葉が出ない。
王太子。
その称号は、もう完全に過去になった。
昼。
辺境の行政報告を受ける。
農地整備。
橋梁補修。
税収見込み。
すべては小規模だ。
だが順序は守られている。
意見は交わされ、修正が入り、合意する。
円卓ほどの規模はない。
だが“流れ”がある。
アルベルトは気づく。
ここでは、彼が即断しなくても物事は進む。
むしろ、その方が滑らかだ。
夜。
眠りは浅い。
目を閉じる。
暗闇。
白い衣。
赤い影。
広間の無音。
整然と上がる手。
笑顔。
「どこまでも私がお供します」
目を開ける。
辺境の天井。
血はない。
誰もいない。
悪夢だけが残る。
一方、隣国。
エリシアは新たな外交提案を受けていた。
「王都の新王太子は安定志向」
「好都合です」
彼女は淡々と答える。
「予測可能であれば、契約は容易です」
「旧王子については」
「触れる必要はありません」
その言葉に迷いはない。
彼女の物語は、王都の中心とは無関係に進んでいる。
港は拡張され、商業区画は完成し、税収は伸びている。
復讐ではない。
構造の結果。
辺境の夜風が吹く。
アルベルトは庭に立つ。
王都の灯は見えない。
だが彼の中で、何かがようやく静まり始めている。
怒りではない。
悔恨でもない。
理解。
合法であっても、規範を飛ばせば孤立する。
強さは、支持と同義ではない。
予測不能は、信頼を削る。
王都はそれを選ばなかった。
満場一致。
それが合図。
戻らないという合図。
リュシエラが隣に立つ。
「後悔なさいますか」
彼はしばらく黙る。
そして初めて、即答しなかった。
夜は深い。
王都は遠い。
中心は、もう彼の中にすら残っていなかった。
辺境の朝は、王都よりも光が強い。
空は高く、風は澄んでいる。
だがその透明さが、かえって孤立を際立たせる。
アルベルトは書斎の窓を開けたまま、王都から届いた封書を見ていた。
封蝋は王家のもの。
だが文面は短い。
――第二王子、正式に王太子へ推戴。
――貴族全会、満場一致。
満場一致。
その四文字が、ゆっくりと沈む。
再び。
彼が外れたときと同じ。
怒号も対立もなく、ただ整然と。
「……決まったか」
声はかすれていない。
だが空気は重い。
辺境伯は一礼する。
「王都は安定を優先いたしました」
責めも擁護もない。
ただ事実。
王都は迷わなかった。
リュシエラが近づく。
「当然でございます」
「当然?」
「強い方より、安定する方が好まれます」
その言葉は静かだ。
かつてなら怒りを覚えたかもしれない。
だが今は、反論の言葉が出ない。
王太子。
その称号は、もう完全に過去になった。
昼。
辺境の行政報告を受ける。
農地整備。
橋梁補修。
税収見込み。
すべては小規模だ。
だが順序は守られている。
意見は交わされ、修正が入り、合意する。
円卓ほどの規模はない。
だが“流れ”がある。
アルベルトは気づく。
ここでは、彼が即断しなくても物事は進む。
むしろ、その方が滑らかだ。
夜。
眠りは浅い。
目を閉じる。
暗闇。
白い衣。
赤い影。
広間の無音。
整然と上がる手。
笑顔。
「どこまでも私がお供します」
目を開ける。
辺境の天井。
血はない。
誰もいない。
悪夢だけが残る。
一方、隣国。
エリシアは新たな外交提案を受けていた。
「王都の新王太子は安定志向」
「好都合です」
彼女は淡々と答える。
「予測可能であれば、契約は容易です」
「旧王子については」
「触れる必要はありません」
その言葉に迷いはない。
彼女の物語は、王都の中心とは無関係に進んでいる。
港は拡張され、商業区画は完成し、税収は伸びている。
復讐ではない。
構造の結果。
辺境の夜風が吹く。
アルベルトは庭に立つ。
王都の灯は見えない。
だが彼の中で、何かがようやく静まり始めている。
怒りではない。
悔恨でもない。
理解。
合法であっても、規範を飛ばせば孤立する。
強さは、支持と同義ではない。
予測不能は、信頼を削る。
王都はそれを選ばなかった。
満場一致。
それが合図。
戻らないという合図。
リュシエラが隣に立つ。
「後悔なさいますか」
彼はしばらく黙る。
そして初めて、即答しなかった。
夜は深い。
王都は遠い。
中心は、もう彼の中にすら残っていなかった。
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