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第三十七話 名の残らぬ席
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第三十七話 名の残らぬ席
王都では、新王太子の即位準備が粛々と進められていた。
正式な譲位はまだ先だが、実務の多くはすでに移管されている。
財務、軍務、教育、外交。
円卓に座る顔ぶれは変わらない。
ただ、中央に置かれる紋章が変わるだけだ。
報告書の最後に、ひときわ短い一文が添えられていた。
――旧王太子アルベルト殿の扱いは、現状維持。
それだけ。
罪も称号剥奪もない。
復帰の可能性もない。
“現状維持”。
最も静かな決定。
アルベルトはその一文を見つめ、やがて目を閉じた。
「……完全に終わったな」
辺境伯は何も言わない。
言葉を足す必要がない。
昼。
辺境の小学校で、新しい教本の配布が行われる。
読み書き、計算、簡単な地理。
子どもたちは真剣だ。
アルベルトはその様子を眺めながら、ふと胸の奥に違う感覚が生まれるのを感じる。
王都では、自分は“中心”でなければ意味がなかった。
ここでは、中心でなくても意味がある。
規模は小さい。
だが影響は確かだ。
夜。
夢は、ついに現れなかった。
広間も、円卓も、白い衣も。
血の影もない。
代わりに、空席だけが浮かぶ。
王都の円卓。
一席だけ、名札がない。
それは自分の席だとわかる。
だが誰も気づかない。
誰も困らない。
議事は進み、鐘が鳴り、手が上がる。
満場一致。
彼はその光景を遠くから眺めている。
目が覚める。
胸は静かだ。
リュシエラが灯りを整える。
「王都は、夢に出ましたか」
「……空席だけがあった」
「それで?」
「誰も困っていなかった」
その言葉に、初めて苦笑が混じる。
隣国。
エリシアは即位式への招待状を受け取る。
「出席は最小限で」
「はい」
彼女にとって、それは外交儀礼に過ぎない。
婚約破棄も、廃嫡も、感情も、すでに過去。
構造は続く。
王が変わっても、国は動く。
辺境の夜。
アルベルトは丘に立つ。
星が明るい。
風は穏やかだ。
彼は理解している。
自分は敗北したのではない。
不要と判断され、削除された。
だが完全に消えたわけではない。
ここにいる。
小さな灯を守り、静かな合意を重ねている。
断罪はなかった。
血もなかった。
だが“名の残らぬ席”になった。
それが彼のざまだ。
リュシエラが背後に立つ。
「寒うございます」
「……いや」
彼は空を見上げる。
「ここには席がある」
王都の円卓には、彼の名はない。
だが辺境の丘には、彼の立つ場所がある。
中心ではない。
だが現実だ。
星の下で、彼は静かに呼吸を続けていた。
王都では、新王太子の即位準備が粛々と進められていた。
正式な譲位はまだ先だが、実務の多くはすでに移管されている。
財務、軍務、教育、外交。
円卓に座る顔ぶれは変わらない。
ただ、中央に置かれる紋章が変わるだけだ。
報告書の最後に、ひときわ短い一文が添えられていた。
――旧王太子アルベルト殿の扱いは、現状維持。
それだけ。
罪も称号剥奪もない。
復帰の可能性もない。
“現状維持”。
最も静かな決定。
アルベルトはその一文を見つめ、やがて目を閉じた。
「……完全に終わったな」
辺境伯は何も言わない。
言葉を足す必要がない。
昼。
辺境の小学校で、新しい教本の配布が行われる。
読み書き、計算、簡単な地理。
子どもたちは真剣だ。
アルベルトはその様子を眺めながら、ふと胸の奥に違う感覚が生まれるのを感じる。
王都では、自分は“中心”でなければ意味がなかった。
ここでは、中心でなくても意味がある。
規模は小さい。
だが影響は確かだ。
夜。
夢は、ついに現れなかった。
広間も、円卓も、白い衣も。
血の影もない。
代わりに、空席だけが浮かぶ。
王都の円卓。
一席だけ、名札がない。
それは自分の席だとわかる。
だが誰も気づかない。
誰も困らない。
議事は進み、鐘が鳴り、手が上がる。
満場一致。
彼はその光景を遠くから眺めている。
目が覚める。
胸は静かだ。
リュシエラが灯りを整える。
「王都は、夢に出ましたか」
「……空席だけがあった」
「それで?」
「誰も困っていなかった」
その言葉に、初めて苦笑が混じる。
隣国。
エリシアは即位式への招待状を受け取る。
「出席は最小限で」
「はい」
彼女にとって、それは外交儀礼に過ぎない。
婚約破棄も、廃嫡も、感情も、すでに過去。
構造は続く。
王が変わっても、国は動く。
辺境の夜。
アルベルトは丘に立つ。
星が明るい。
風は穏やかだ。
彼は理解している。
自分は敗北したのではない。
不要と判断され、削除された。
だが完全に消えたわけではない。
ここにいる。
小さな灯を守り、静かな合意を重ねている。
断罪はなかった。
血もなかった。
だが“名の残らぬ席”になった。
それが彼のざまだ。
リュシエラが背後に立つ。
「寒うございます」
「……いや」
彼は空を見上げる。
「ここには席がある」
王都の円卓には、彼の名はない。
だが辺境の丘には、彼の立つ場所がある。
中心ではない。
だが現実だ。
星の下で、彼は静かに呼吸を続けていた。
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