満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾

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第三十八話 即位の光、届かぬ影

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第三十八話 即位の光、届かぬ影

 王都は、かつてないほど整えられていた。

 大通りは磨かれ、旗が掲げられ、貴族たちは式典衣装を纏う。
 新王の即位式。

 王太子の名は正式に王として記される。

 歓声は控えめだが、確実だった。
 熱狂ではない。
 信任だ。

 円卓に並ぶ顔ぶれは変わらない。

 ただ中央の紋章が変わっただけ。

 議事は進み、祝辞が読み上げられる。

 旧王太子の名は、一度も出なかった。

 辺境。

 その報告を受け取ったアルベルトは、静かに封を閉じた。

「……王になったか」

 声は穏やかだ。

 驚きも怒りもない。

 辺境伯が答える。

「はい。満場一致にて」

 満場一致。

 その言葉は、もう胸を刺さない。

 昼。

 辺境では、収穫祭の準備が進んでいた。

 小さな広場に布が張られ、子どもたちが走り回る。

 王都の輝きとは比べものにならない。

 だが確かに、ここには生活がある。

 アルベルトは壇上に立ち、短く言葉を述べる。

「順序を守ること。互いに確認すること。それが領を強くする」

 拍手は小さい。

 だが目は真剣だ。

 彼は気づく。

 王都で失ったのは中心の座。

 だがここでは、順序を守る側に回れる。

 夜。

 夢は、久しぶりに姿を変えて現れた。

 王都の即位式。

 輝く玉座。

 新王が座る。

 その背後に、白い衣の影が立つ。

 微笑んでいる。

 血はない。

 だがその笑みが、やけに鮮明だ。

 「どこまでも私がお供します」

 その声は王に向けられている。

 自分ではない。

 目が覚める。

 胸は静かだ。

 恐怖よりも、理解が勝っている。

 リュシエラが灯りを落とす。

「王都は、夢に」

「……王が座っていた」

「それは良きことです」

「そうだな」

 彼は短く答える。

 恐れていた未来は、すでに自分の外で進行している。

 自分は関与していない。

 因果も、狂気も、ざまあも。

 すべては構造の内側で完結している。

 隣国。

 エリシアは即位式への祝辞を簡潔に整える。

「王が変わっても、協定は変わらない」

 それだけで十分だ。

 婚約破棄も、偽聖女も、廃嫡も、すべて歴史の一行。

 合理は続く。

 辺境の深夜。

 アルベルトは丘に立つ。

 遠くで収穫祭の灯が揺れている。

 王都の光は見えない。

 だがもう、見ようとは思わない。

 自分は中心ではない。

 だが無でもない。

 断罪も処刑もなかった。

 血も流れなかった。

 ただ、座が移った。

 それがすべて。

 リュシエラが背後に立つ。

「寒うございます」

「……いや」

 彼は静かに言う。

「影は、もう届かない」

 王都の即位の光は遠い。

 その影も、ここには届かない。

 彼は辺境の丘に立ち、夜空を見上げた。

 そこには、ただ星だけがあった。
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