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第3話 投獄された良心
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第3話 投獄された良心
その知らせは、朝食の席で届いた。
「……宰相リシュリュー公爵が、投獄された?」
ライアーは、思わず聞き返した。
侍女が困ったように頷く。
「はい。昨夜遅く、王命により……。
理由は、“国王陛下の御心に逆らったため”と」
その言葉を聞いた瞬間、ライアーの中で、何かが音を立てて繋がった。
(……やはり)
宰相リシュリュー公爵。
この国で、数少ない――否、ほとんど唯一と言っていい人物。
国王の暴走を公然と諫め、
理由のない増税に反対し、
数字と現実で国の危機を語ってきた男。
その彼が、ついに牢に入れられた。
ライアーは、ゆっくりとナプキンを置いた。
「原因は、何ですの?」
「……昨夜の評議で、国王陛下が新たな税を提案されました」
侍女は、声を落とす。
「“王都景観維持税”。
建物の窓の数に応じて課税する、と……」
(窓税、ですか)
すでに聞き覚えのある発想だった。
「リシュリュー公爵は、それに反対を?」
「はい。
“既存の人頭税と重複し、民の生活を圧迫する”
“徴税コストが税収を上回る可能性がある”
そう進言されたそうです」
それは、あまりにも真っ当な意見だった。
「ですが……」
侍女は言葉を選ぶ。
「陛下は、それを“不敬”と受け取られたとか」
ライアーは、目を伏せた。
(不敬、ですか)
理屈で語ることが、
数字で示すことが、
国を思うことが、
罪になる。
(……この国は、どこまで歪んでしまったの)
その日、ライアーは外出の予定をすべて取り消した。
代わりに、屋敷の書庫に籠もる。
過去の議事録。
法令集。
税制の変遷。
彼女は、黙々と資料を読み続けた。
そして、確信する。
リシュリュー公爵は、常に一貫していた。
国王に都合のいいことも、
王太子に利のあることも、
一切忖度していない。
常に、“国が持つかどうか”だけを基準にしていた。
(……だから、邪魔だったのね)
夕刻。
窓の外が赤く染まる頃、
ライアーは独りごちる。
「有能だから、ではないわ」
彼は、
正しかった。
だから、排除された。
(そんな国で、
王太子が好き勝手をして、
国王が遊び呆けて……)
胸の奥に、静かな怒りが灯る。
だが、それは激情ではない。
もっと冷たい、
現実を直視した末の感情だった。
その夜、王宮から使者が訪れた。
「ライアー・ユースティティア侯爵令嬢。
国王陛下が、至急、謁見を求めておられます」
(……来ましたか)
彼女は、内心でそう思った。
婚約破棄から、まだ日も浅い。
本来なら、王宮と距離を置いてしかるべき立場。
それでも、呼ばれた。
理由は、一つしかない。
王宮の回廊を進みながら、
ライアーは、ふと考える。
(宰相を投獄し、
税を増やし、
王太子の愚行を容認する)
(それでも、この国が今まで崩れなかった理由は……)
答えは、もう分かっている。
(リシュリュー公爵、あなただけでした)
謁見室の扉の前で、立ち止まる。
ライアーは、深く息を吸った。
(私は、政治家ではありません)
(ですが……)
扉が、ゆっくりと開く。
その先で待つのは、
無能で、暴君で、
それでも“王”という肩書を持つ男。
そして、
この国の命運が、
彼女の意思とは無関係に、
静かに動き始めようとしていた。
ライアーは、一歩、前へ進んだ。
その知らせは、朝食の席で届いた。
「……宰相リシュリュー公爵が、投獄された?」
ライアーは、思わず聞き返した。
侍女が困ったように頷く。
「はい。昨夜遅く、王命により……。
理由は、“国王陛下の御心に逆らったため”と」
その言葉を聞いた瞬間、ライアーの中で、何かが音を立てて繋がった。
(……やはり)
宰相リシュリュー公爵。
この国で、数少ない――否、ほとんど唯一と言っていい人物。
国王の暴走を公然と諫め、
理由のない増税に反対し、
数字と現実で国の危機を語ってきた男。
その彼が、ついに牢に入れられた。
ライアーは、ゆっくりとナプキンを置いた。
「原因は、何ですの?」
「……昨夜の評議で、国王陛下が新たな税を提案されました」
侍女は、声を落とす。
「“王都景観維持税”。
建物の窓の数に応じて課税する、と……」
(窓税、ですか)
すでに聞き覚えのある発想だった。
「リシュリュー公爵は、それに反対を?」
「はい。
“既存の人頭税と重複し、民の生活を圧迫する”
“徴税コストが税収を上回る可能性がある”
そう進言されたそうです」
それは、あまりにも真っ当な意見だった。
「ですが……」
侍女は言葉を選ぶ。
「陛下は、それを“不敬”と受け取られたとか」
ライアーは、目を伏せた。
(不敬、ですか)
理屈で語ることが、
数字で示すことが、
国を思うことが、
罪になる。
(……この国は、どこまで歪んでしまったの)
その日、ライアーは外出の予定をすべて取り消した。
代わりに、屋敷の書庫に籠もる。
過去の議事録。
法令集。
税制の変遷。
彼女は、黙々と資料を読み続けた。
そして、確信する。
リシュリュー公爵は、常に一貫していた。
国王に都合のいいことも、
王太子に利のあることも、
一切忖度していない。
常に、“国が持つかどうか”だけを基準にしていた。
(……だから、邪魔だったのね)
夕刻。
窓の外が赤く染まる頃、
ライアーは独りごちる。
「有能だから、ではないわ」
彼は、
正しかった。
だから、排除された。
(そんな国で、
王太子が好き勝手をして、
国王が遊び呆けて……)
胸の奥に、静かな怒りが灯る。
だが、それは激情ではない。
もっと冷たい、
現実を直視した末の感情だった。
その夜、王宮から使者が訪れた。
「ライアー・ユースティティア侯爵令嬢。
国王陛下が、至急、謁見を求めておられます」
(……来ましたか)
彼女は、内心でそう思った。
婚約破棄から、まだ日も浅い。
本来なら、王宮と距離を置いてしかるべき立場。
それでも、呼ばれた。
理由は、一つしかない。
王宮の回廊を進みながら、
ライアーは、ふと考える。
(宰相を投獄し、
税を増やし、
王太子の愚行を容認する)
(それでも、この国が今まで崩れなかった理由は……)
答えは、もう分かっている。
(リシュリュー公爵、あなただけでした)
謁見室の扉の前で、立ち止まる。
ライアーは、深く息を吸った。
(私は、政治家ではありません)
(ですが……)
扉が、ゆっくりと開く。
その先で待つのは、
無能で、暴君で、
それでも“王”という肩書を持つ男。
そして、
この国の命運が、
彼女の意思とは無関係に、
静かに動き始めようとしていた。
ライアーは、一歩、前へ進んだ。
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