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第6話 王が変わった日
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第6話 王が変わった日
宰相リシュリュー公爵が解放されたという噂は、
王都に夜明けよりも早く広がった。
公式発表は簡潔だった。
――入牢は誤認によるもの。
――宰相職への復帰を命ずる。
それだけ。
理由の説明はない。
謝罪もない。
だが、それで十分だった。
「……生きて戻ったのか」
「いや、それだけじゃない。復職だ」
「どういう風の吹き回しだ?」
人々は首を傾げ、
同時に、胸の奥に小さな期待を抱いた。
あのリシュリュー公爵が戻った。
それだけで、空気がわずかに変わる。
---
王宮の執務室。
ライアーは、玉座には座らず、
机の前に立ったまま書類を眺めていた。
そこへ、リシュリューが入室する。
「……これは、ひどい」
開口一番、彼はそう言った。
「予想以上だ」
机に積まれたのは、
未処理の政務書類の山。
税の増設案。
王太子名義の支出申請。
用途不明の寄付要請。
「ここ三年で、税が二十三増えている」
淡々と、しかし重く言う。
「そのうち、
徴税コストが税収を上回るものが八つ。
完全な赤字だ」
ライアーは、苦笑した。
「“取れるところから取れ”
それだけの発想なのでしょうね」
「ええ。
国家運営ではなく、
その場しのぎの浪費です」
リシュリューは、一枚の書類を取り上げる。
「……独身税」
「ありますわね」
「意味がない。
結婚率は下がり、出生率も落ちる。
税収も誤差程度」
彼は、即座に結論を出した。
「廃止すべきだ」
ライアーは、すぐには頷かなかった。
「一気にやると、反発が出ます」
「分かっています」
リシュリューは、彼女を見る。
「だから、“順番”です」
机に地図を広げ、指で示す。
「まず、最も悪名の高い税から切る。
窓税、暖炉税、ヒゲ税」
「象徴、ですね」
「ええ。
民は理屈より、“変化”を見る」
彼は、少しだけ口元を緩めた。
「王が、民を見るようになった。
そう思わせる」
ライアーは、深く息を吸った。
「……私は、政治家ではありません」
「知っています」
「だから、決めるのはあなたです」
リシュリューは、静かに首を振る。
「いいえ。
決断するのは、あなたです」
「私は、代行です」
「代行でも、
命令を出すのは、あなただ」
その言葉に、ライアーは目を閉じた。
(逃げ道は、ない)
やがて、彼女は目を開く。
「では……」
机の上の書類を取り上げる。
「窓税、暖炉税、ヒゲ税。
本日付で廃止」
リシュリューは、即座に補足する。
「代わりに、基本税のみを整理する。
税率は――」
「二割」
ライアーが言った。
「それ以上は、国を壊します」
「……妥当です」
リシュリューは、深く頷いた。
命令書が完成し、
印章が押される。
その瞬間。
この国は、確かに一歩、戻った。
---
同日、王都。
掲示板の前に、人だかりができていた。
「……窓税、廃止?」
「暖炉税も?」
「本当か?」
誰かが笑い、
誰かが疑い、
誰かが泣いた。
「国王陛下が、変わられた……?」
その言葉は、
半信半疑のまま、
だが確実に広がっていく。
---
その夜。
ライアーは、一人、執務室に残っていた。
灯りの下で、静かに呟く。
「……名君、ですか」
机の上には、
“王が変わった”という噂をまとめた報告書。
「まともになっただけですわ」
誰に向けるでもなく、そう言う。
(私は、王にならない)
(偽王を演じるだけ)
それが、彼女の立ち位置。
そして――
その“偽り”こそが、
この国を救う最短距離だと、
彼女はもう、理解していた。
その頃。
王家の別荘では、
ロネ国王が、
新しい酒を命じていた。
自分の名の下で、
何が起きているかも知らずに。
運命の歯車は、
静かに、
しかし確実に噛み合い始めていた。
宰相リシュリュー公爵が解放されたという噂は、
王都に夜明けよりも早く広がった。
公式発表は簡潔だった。
――入牢は誤認によるもの。
――宰相職への復帰を命ずる。
それだけ。
理由の説明はない。
謝罪もない。
だが、それで十分だった。
「……生きて戻ったのか」
「いや、それだけじゃない。復職だ」
「どういう風の吹き回しだ?」
人々は首を傾げ、
同時に、胸の奥に小さな期待を抱いた。
あのリシュリュー公爵が戻った。
それだけで、空気がわずかに変わる。
---
王宮の執務室。
ライアーは、玉座には座らず、
机の前に立ったまま書類を眺めていた。
そこへ、リシュリューが入室する。
「……これは、ひどい」
開口一番、彼はそう言った。
「予想以上だ」
机に積まれたのは、
未処理の政務書類の山。
税の増設案。
王太子名義の支出申請。
用途不明の寄付要請。
「ここ三年で、税が二十三増えている」
淡々と、しかし重く言う。
「そのうち、
徴税コストが税収を上回るものが八つ。
完全な赤字だ」
ライアーは、苦笑した。
「“取れるところから取れ”
それだけの発想なのでしょうね」
「ええ。
国家運営ではなく、
その場しのぎの浪費です」
リシュリューは、一枚の書類を取り上げる。
「……独身税」
「ありますわね」
「意味がない。
結婚率は下がり、出生率も落ちる。
税収も誤差程度」
彼は、即座に結論を出した。
「廃止すべきだ」
ライアーは、すぐには頷かなかった。
「一気にやると、反発が出ます」
「分かっています」
リシュリューは、彼女を見る。
「だから、“順番”です」
机に地図を広げ、指で示す。
「まず、最も悪名の高い税から切る。
窓税、暖炉税、ヒゲ税」
「象徴、ですね」
「ええ。
民は理屈より、“変化”を見る」
彼は、少しだけ口元を緩めた。
「王が、民を見るようになった。
そう思わせる」
ライアーは、深く息を吸った。
「……私は、政治家ではありません」
「知っています」
「だから、決めるのはあなたです」
リシュリューは、静かに首を振る。
「いいえ。
決断するのは、あなたです」
「私は、代行です」
「代行でも、
命令を出すのは、あなただ」
その言葉に、ライアーは目を閉じた。
(逃げ道は、ない)
やがて、彼女は目を開く。
「では……」
机の上の書類を取り上げる。
「窓税、暖炉税、ヒゲ税。
本日付で廃止」
リシュリューは、即座に補足する。
「代わりに、基本税のみを整理する。
税率は――」
「二割」
ライアーが言った。
「それ以上は、国を壊します」
「……妥当です」
リシュリューは、深く頷いた。
命令書が完成し、
印章が押される。
その瞬間。
この国は、確かに一歩、戻った。
---
同日、王都。
掲示板の前に、人だかりができていた。
「……窓税、廃止?」
「暖炉税も?」
「本当か?」
誰かが笑い、
誰かが疑い、
誰かが泣いた。
「国王陛下が、変わられた……?」
その言葉は、
半信半疑のまま、
だが確実に広がっていく。
---
その夜。
ライアーは、一人、執務室に残っていた。
灯りの下で、静かに呟く。
「……名君、ですか」
机の上には、
“王が変わった”という噂をまとめた報告書。
「まともになっただけですわ」
誰に向けるでもなく、そう言う。
(私は、王にならない)
(偽王を演じるだけ)
それが、彼女の立ち位置。
そして――
その“偽り”こそが、
この国を救う最短距離だと、
彼女はもう、理解していた。
その頃。
王家の別荘では、
ロネ国王が、
新しい酒を命じていた。
自分の名の下で、
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運命の歯車は、
静かに、
しかし確実に噛み合い始めていた。
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