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第9話 王命という名の刃
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第9話 王命という名の刃
王命は、静かに下された。
華やかな式も、厳かな宣言もない。
ただ、公式文書として、淡々と回覧された。
――王太子オレンの謹慎は、暫定措置である。
――追って、正式な処罰を下す。
――それまで、いかなる公務・私的行動も禁ずる。
署名は、ロネ国王。
少なくとも、書面上は。
---
王太子の謹慎邸。
「父上、これは、どういうことですか?」
オレンは、使者に食ってかかった。
声は荒く、苛立ちを隠そうともしない。
「近頃の貴様の行動、目に余るものがある……」
使者は、決められた文言を、感情を交えずに読み上げる。
「しかし!
今まで何も……むしろ、認めてくださっていたはずだ!」
それは、彼にとって当然の主張だった。
婚約を破棄しても、
金を引き出しても、
父は黙認してきた。
「今の私は、そのときの私ではない」
淡々と告げられた一文が、
オレンの理解を拒んだ。
「……はあ?
納得できません!」
「貴様が納得する必要などない」
使者の声は、冷たく響く。
「謹慎で済ませているうちに、改心することだ。
王命である。
速やかに謹慎に入れ!」
それ以上の説明は、なかった。
扉が閉じられる。
オレンは、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
(……父上が、変わった?)
いや、違う。
(誰かが、父上の名を使っている)
その考えに至った瞬間、
彼の中で、恐怖が芽生えた。
---
一方、王宮。
ライアーは、報告を受け、静かに頷いた。
「反応は?」
「混乱していますが、
抗議はありません」
リシュリューが答える。
「王太子の行動に、
同情が集まる要素がない」
「当然ですわね」
ライアーは、机の上の書類に視線を落とす。
そこには、過去の婚約者たちの家名と、
王家への支出額が並んでいた。
「……これは」
「調査結果です」
リシュリューは、低く言う。
「王太子は、婚約を利用して、
相手の家から金を搾り取っていました」
「しかも、繰り返し」
「ええ。
国王は、それを黙認していた」
ライアーは、指先を握りしめた。
(こんないい加減で、
適当で、
やりたい放題なのに……)
(仕事だけは、
サボりたいわけですか)
怒りは、あった。
だが、それ以上に――
呆れが勝った。
「この件は……」
リシュリューは、慎重に言葉を選ぶ。
「本来なら、即時廃嫡も視野に入ります」
「ですが」
ライアーは、顔を上げる。
「今は、まだ、です」
「理由は?」
「王太子を切れば、
次は国王に目が向く」
リシュリューは、わずかに目を細めた。
「……その通りです」
「まずは、
“王命が通る”ことを、
国中に示す必要があります」
それは、権力の誇示ではない。
秩序の回復だ。
---
その夜。
ライアーは、自室に籠もっていた。
灯りを落とし、
一人、椅子に座る。
「王太子妃に向いていない……ですか」
小さく、呟く。
「ええ。
その通りですわ」
彼女は、苦笑した。
(あんた好みの王太子妃なんて、
絶対に無理)
(家名がなければ、
誰が、あんたなんかと婚約しますか)
声に出さず、
心の中で吐き出す。
その時――。
コンコン、と扉がノックされた。
「なにか?」
声だけが、返ってくる。
「公爵殿が、謁見に参られております」
「……うむ。
しばしまて」
ライアーは、立ち上がる。
くるりと振り返った、その瞬間。
そこに立っていたのは――
ロネ国王の姿だった。
「待たせたのう」
尊大な態度。
玉座に座る時と、何一つ変わらない仕草。
ライアーは、瞬時に理解した。
(……なるほど)
(“王”とは、
こう振る舞えばいい)
彼女は、静かに背筋を伸ばした。
この瞬間から――
“偽王”は、
完全に“王”として振る舞う。
それが、
この国を守るために必要な、
最初の嘘だった。
王命は、静かに下された。
華やかな式も、厳かな宣言もない。
ただ、公式文書として、淡々と回覧された。
――王太子オレンの謹慎は、暫定措置である。
――追って、正式な処罰を下す。
――それまで、いかなる公務・私的行動も禁ずる。
署名は、ロネ国王。
少なくとも、書面上は。
---
王太子の謹慎邸。
「父上、これは、どういうことですか?」
オレンは、使者に食ってかかった。
声は荒く、苛立ちを隠そうともしない。
「近頃の貴様の行動、目に余るものがある……」
使者は、決められた文言を、感情を交えずに読み上げる。
「しかし!
今まで何も……むしろ、認めてくださっていたはずだ!」
それは、彼にとって当然の主張だった。
婚約を破棄しても、
金を引き出しても、
父は黙認してきた。
「今の私は、そのときの私ではない」
淡々と告げられた一文が、
オレンの理解を拒んだ。
「……はあ?
納得できません!」
「貴様が納得する必要などない」
使者の声は、冷たく響く。
「謹慎で済ませているうちに、改心することだ。
王命である。
速やかに謹慎に入れ!」
それ以上の説明は、なかった。
扉が閉じられる。
オレンは、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
(……父上が、変わった?)
いや、違う。
(誰かが、父上の名を使っている)
その考えに至った瞬間、
彼の中で、恐怖が芽生えた。
---
一方、王宮。
ライアーは、報告を受け、静かに頷いた。
「反応は?」
「混乱していますが、
抗議はありません」
リシュリューが答える。
「王太子の行動に、
同情が集まる要素がない」
「当然ですわね」
ライアーは、机の上の書類に視線を落とす。
そこには、過去の婚約者たちの家名と、
王家への支出額が並んでいた。
「……これは」
「調査結果です」
リシュリューは、低く言う。
「王太子は、婚約を利用して、
相手の家から金を搾り取っていました」
「しかも、繰り返し」
「ええ。
国王は、それを黙認していた」
ライアーは、指先を握りしめた。
(こんないい加減で、
適当で、
やりたい放題なのに……)
(仕事だけは、
サボりたいわけですか)
怒りは、あった。
だが、それ以上に――
呆れが勝った。
「この件は……」
リシュリューは、慎重に言葉を選ぶ。
「本来なら、即時廃嫡も視野に入ります」
「ですが」
ライアーは、顔を上げる。
「今は、まだ、です」
「理由は?」
「王太子を切れば、
次は国王に目が向く」
リシュリューは、わずかに目を細めた。
「……その通りです」
「まずは、
“王命が通る”ことを、
国中に示す必要があります」
それは、権力の誇示ではない。
秩序の回復だ。
---
その夜。
ライアーは、自室に籠もっていた。
灯りを落とし、
一人、椅子に座る。
「王太子妃に向いていない……ですか」
小さく、呟く。
「ええ。
その通りですわ」
彼女は、苦笑した。
(あんた好みの王太子妃なんて、
絶対に無理)
(家名がなければ、
誰が、あんたなんかと婚約しますか)
声に出さず、
心の中で吐き出す。
その時――。
コンコン、と扉がノックされた。
「なにか?」
声だけが、返ってくる。
「公爵殿が、謁見に参られております」
「……うむ。
しばしまて」
ライアーは、立ち上がる。
くるりと振り返った、その瞬間。
そこに立っていたのは――
ロネ国王の姿だった。
「待たせたのう」
尊大な態度。
玉座に座る時と、何一つ変わらない仕草。
ライアーは、瞬時に理解した。
(……なるほど)
(“王”とは、
こう振る舞えばいい)
彼女は、静かに背筋を伸ばした。
この瞬間から――
“偽王”は、
完全に“王”として振る舞う。
それが、
この国を守るために必要な、
最初の嘘だった。
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