偽王を演じた侯爵令嬢は、名もなき人生を選ぶ」

鷹 綾

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第11話 拘束という名の正義

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第11話 拘束という名の正義

王命は、翌朝には形になった。

だがそれは、処刑命令でも、断罪の宣告でもない。
あくまで――逮捕命令だった。

「……穏健、とは言えませんが」

執務室で、リシュリューは書面を読み返しながら言った。

「正義です」

ロネ国王の顔をしたライアーは、短く答える。

「“本物を自称する偽王”を拘束する。
 それ以上でも、それ以下でもありません」

「理屈は、完璧です」

リシュリューは、静かに頷いた。

「自称する限り、
 身分を証明できない限り、
 拘束を解く理由がない」

「ええ」

ライアーは、机の上の印章に視線を落とす。

「彼が“本物だ”と主張すればするほど、
 拘束は正当化されます」

「皮肉な話ですな」

「自業自得ですわ」

それだけ言って、彼女は書面に印を押した。


---

王家の別荘。

その日は、朝から賑やかだった。
楽師、料理人、給仕。
いつも通りの、遊興の準備。

ロネ国王は、上機嫌で椅子に座っていた。

「王都は、静かか?」

「はい。
 政務は、滞りなく進んでいると」

「そうか」

彼は、満足そうに頷いた。

「なら、余はもうしばらく――」

そこまで言ったところで、
扉が、乱暴に開かれた。

「な、何事だ!」

踏み込んできたのは、武装した兵士たちだった。

「ロネ国王を騙る偽王。
 王命により、貴様を拘束する」

「……は?」

ロネは、言葉を失った。

「何を言っている。
 余は――」

「聞く耳を持つな」

先頭の将校が、冷たく命じる。

「王命だ。
 取り調べは不要。
 即刻、牢に入れよ」

ロネは、立ち上がり、怒鳴った。

「無礼者!
 余こそが、ロネ国王だ!」

その瞬間、
兵士たちの表情が、はっきりと変わった。

(……やはり、偽王だ)

彼らにとって、
“本物の国王”は、
王都にいる。

彼らに命令を下したのは、
今、玉座に立つ“国王”だった。

目の前の男は、
別荘に入り込み、
王の名を騙る不届き者。

それ以上の認識は、不要だった。

「連行せよ」

ロネは、腕を掴まれ、引きずられる。

「離せ!
 余を誰だと思っている!」

「黙れ」

将校の声は、氷のように冷たい。

「不敬者が、
 何を口にしようと、
 聞く価値はない」

その言葉が、
ロネの背骨を凍らせた。

(……なぜだ)

(なぜ、誰も信じない)

答えは、単純だった。

彼は、王として何もしてこなかった。


---

地下牢。

鉄格子が閉まる音が、重く響いた。

「……これは、間違いだ」

ロネは、虚ろに呟く。

「余は、王だ……」

だが、誰も答えない。

看守たちは、
淡々と記録を取る。

――王を騙る偽王。
――身元不詳。
――拘束理由:王命。

それだけで、十分だった。


---

同日、王宮。

ライアーは、報告を受け、静かに頷いた。

「抵抗は?」

「激しく。
 ですが、無意味でした」

「そう」

感情は、動かない。

「では、次です」

リシュリューが、言葉を継ぐ。

「王太子オレンの処遇」

ライアーは、少しだけ間を置いた。

「……同じです」

「拘束?」

「ええ」

「理由は?」

「王太子を自称し、
 王命に背いた」

それだけで、足りる。


---

夜。

ライアーは、一人、灯りの下で呟いた。

「私は、王になりません」

(ですが)

(王でなければ、
 できない“整理”が、
 確かにある)

彼女は、静かに目を閉じた。

この国から、
最も危険な二つの“肩書”が、
 同時に消えた夜だった。

残ったのは、
秩序と、
そして――
退位へ向かう、一本道だけ。

偽王の役割は、
いよいよ、
終盤へ向かって動き出していた。
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