11 / 39
第11話 拘束という名の正義
しおりを挟む
第11話 拘束という名の正義
王命は、翌朝には形になった。
だがそれは、処刑命令でも、断罪の宣告でもない。
あくまで――逮捕命令だった。
「……穏健、とは言えませんが」
執務室で、リシュリューは書面を読み返しながら言った。
「正義です」
ロネ国王の顔をしたライアーは、短く答える。
「“本物を自称する偽王”を拘束する。
それ以上でも、それ以下でもありません」
「理屈は、完璧です」
リシュリューは、静かに頷いた。
「自称する限り、
身分を証明できない限り、
拘束を解く理由がない」
「ええ」
ライアーは、机の上の印章に視線を落とす。
「彼が“本物だ”と主張すればするほど、
拘束は正当化されます」
「皮肉な話ですな」
「自業自得ですわ」
それだけ言って、彼女は書面に印を押した。
---
王家の別荘。
その日は、朝から賑やかだった。
楽師、料理人、給仕。
いつも通りの、遊興の準備。
ロネ国王は、上機嫌で椅子に座っていた。
「王都は、静かか?」
「はい。
政務は、滞りなく進んでいると」
「そうか」
彼は、満足そうに頷いた。
「なら、余はもうしばらく――」
そこまで言ったところで、
扉が、乱暴に開かれた。
「な、何事だ!」
踏み込んできたのは、武装した兵士たちだった。
「ロネ国王を騙る偽王。
王命により、貴様を拘束する」
「……は?」
ロネは、言葉を失った。
「何を言っている。
余は――」
「聞く耳を持つな」
先頭の将校が、冷たく命じる。
「王命だ。
取り調べは不要。
即刻、牢に入れよ」
ロネは、立ち上がり、怒鳴った。
「無礼者!
余こそが、ロネ国王だ!」
その瞬間、
兵士たちの表情が、はっきりと変わった。
(……やはり、偽王だ)
彼らにとって、
“本物の国王”は、
王都にいる。
彼らに命令を下したのは、
今、玉座に立つ“国王”だった。
目の前の男は、
別荘に入り込み、
王の名を騙る不届き者。
それ以上の認識は、不要だった。
「連行せよ」
ロネは、腕を掴まれ、引きずられる。
「離せ!
余を誰だと思っている!」
「黙れ」
将校の声は、氷のように冷たい。
「不敬者が、
何を口にしようと、
聞く価値はない」
その言葉が、
ロネの背骨を凍らせた。
(……なぜだ)
(なぜ、誰も信じない)
答えは、単純だった。
彼は、王として何もしてこなかった。
---
地下牢。
鉄格子が閉まる音が、重く響いた。
「……これは、間違いだ」
ロネは、虚ろに呟く。
「余は、王だ……」
だが、誰も答えない。
看守たちは、
淡々と記録を取る。
――王を騙る偽王。
――身元不詳。
――拘束理由:王命。
それだけで、十分だった。
---
同日、王宮。
ライアーは、報告を受け、静かに頷いた。
「抵抗は?」
「激しく。
ですが、無意味でした」
「そう」
感情は、動かない。
「では、次です」
リシュリューが、言葉を継ぐ。
「王太子オレンの処遇」
ライアーは、少しだけ間を置いた。
「……同じです」
「拘束?」
「ええ」
「理由は?」
「王太子を自称し、
王命に背いた」
それだけで、足りる。
---
夜。
ライアーは、一人、灯りの下で呟いた。
「私は、王になりません」
(ですが)
(王でなければ、
できない“整理”が、
確かにある)
彼女は、静かに目を閉じた。
この国から、
最も危険な二つの“肩書”が、
同時に消えた夜だった。
残ったのは、
秩序と、
そして――
退位へ向かう、一本道だけ。
偽王の役割は、
いよいよ、
終盤へ向かって動き出していた。
王命は、翌朝には形になった。
だがそれは、処刑命令でも、断罪の宣告でもない。
あくまで――逮捕命令だった。
「……穏健、とは言えませんが」
執務室で、リシュリューは書面を読み返しながら言った。
「正義です」
ロネ国王の顔をしたライアーは、短く答える。
「“本物を自称する偽王”を拘束する。
それ以上でも、それ以下でもありません」
「理屈は、完璧です」
リシュリューは、静かに頷いた。
「自称する限り、
身分を証明できない限り、
拘束を解く理由がない」
「ええ」
ライアーは、机の上の印章に視線を落とす。
「彼が“本物だ”と主張すればするほど、
拘束は正当化されます」
「皮肉な話ですな」
「自業自得ですわ」
それだけ言って、彼女は書面に印を押した。
---
王家の別荘。
その日は、朝から賑やかだった。
楽師、料理人、給仕。
いつも通りの、遊興の準備。
ロネ国王は、上機嫌で椅子に座っていた。
「王都は、静かか?」
「はい。
政務は、滞りなく進んでいると」
「そうか」
彼は、満足そうに頷いた。
「なら、余はもうしばらく――」
そこまで言ったところで、
扉が、乱暴に開かれた。
「な、何事だ!」
踏み込んできたのは、武装した兵士たちだった。
「ロネ国王を騙る偽王。
王命により、貴様を拘束する」
「……は?」
ロネは、言葉を失った。
「何を言っている。
余は――」
「聞く耳を持つな」
先頭の将校が、冷たく命じる。
「王命だ。
取り調べは不要。
即刻、牢に入れよ」
ロネは、立ち上がり、怒鳴った。
「無礼者!
余こそが、ロネ国王だ!」
その瞬間、
兵士たちの表情が、はっきりと変わった。
(……やはり、偽王だ)
彼らにとって、
“本物の国王”は、
王都にいる。
彼らに命令を下したのは、
今、玉座に立つ“国王”だった。
目の前の男は、
別荘に入り込み、
王の名を騙る不届き者。
それ以上の認識は、不要だった。
「連行せよ」
ロネは、腕を掴まれ、引きずられる。
「離せ!
余を誰だと思っている!」
「黙れ」
将校の声は、氷のように冷たい。
「不敬者が、
何を口にしようと、
聞く価値はない」
その言葉が、
ロネの背骨を凍らせた。
(……なぜだ)
(なぜ、誰も信じない)
答えは、単純だった。
彼は、王として何もしてこなかった。
---
地下牢。
鉄格子が閉まる音が、重く響いた。
「……これは、間違いだ」
ロネは、虚ろに呟く。
「余は、王だ……」
だが、誰も答えない。
看守たちは、
淡々と記録を取る。
――王を騙る偽王。
――身元不詳。
――拘束理由:王命。
それだけで、十分だった。
---
同日、王宮。
ライアーは、報告を受け、静かに頷いた。
「抵抗は?」
「激しく。
ですが、無意味でした」
「そう」
感情は、動かない。
「では、次です」
リシュリューが、言葉を継ぐ。
「王太子オレンの処遇」
ライアーは、少しだけ間を置いた。
「……同じです」
「拘束?」
「ええ」
「理由は?」
「王太子を自称し、
王命に背いた」
それだけで、足りる。
---
夜。
ライアーは、一人、灯りの下で呟いた。
「私は、王になりません」
(ですが)
(王でなければ、
できない“整理”が、
確かにある)
彼女は、静かに目を閉じた。
この国から、
最も危険な二つの“肩書”が、
同時に消えた夜だった。
残ったのは、
秩序と、
そして――
退位へ向かう、一本道だけ。
偽王の役割は、
いよいよ、
終盤へ向かって動き出していた。
0
あなたにおすすめの小説
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。
第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。
その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。
ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。
私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
有能婚約者を捨てた王子は、幼馴染との真実の愛に目覚めたらしい
マルローネ
恋愛
サンマルト王国の王子殿下のフリックは公爵令嬢のエリザに婚約破棄を言い渡した。
理由は幼馴染との「真実の愛」に目覚めたからだ。
エリザの言い分は一切聞いてもらえず、彼に誠心誠意尽くしてきた彼女は悲しんでしまう。
フリックは幼馴染のシャーリーと婚約をすることになるが、彼は今まで、どれだけエリザにサポートしてもらっていたのかを思い知ることになってしまう。一人でなんでもこなせる自信を持っていたが、地の底に落ちてしまうのだった。
一方、エリザはフリックを完璧にサポートし、その態度に感銘を受けていた第一王子殿下に求婚されることになり……。
【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。
ところが新婚初夜、ダミアンは言った。
「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」
そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。
しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。
心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。
初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。
そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは─────
(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる