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第12話 王太子という名の空席
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第12話 王太子という名の空席
王太子オレンの拘束は、
ロネ国王の逮捕よりも、静かに行われた。
王都の外れにある謹慎邸。
高い塀と、最低限の警備。
“王太子”としての体裁だけは保たれていた場所。
だが、その夜――
体裁は、意味を失った。
「王命により、
王太子オレンを拘束する」
扉の前に立った将校は、
感情のない声で告げた。
「……ふざけるな」
オレンは、低く唸る。
「父上が、
こんな命令を出すはずがない」
「今の陛下は、
その時の陛下ではない」
将校は、淡々と返した。
その言葉に、
オレンの顔色が変わる。
「……やはり、誰かが父上の名を使っている」
「その可能性も、
調査の対象だ」
「ならば、
私を拘束する理由はないだろう!」
「あります」
将校は、一歩前に出る。
「王太子を自称し、
王命に背いた」
「……は?」
「謹慎命令を拒否し、
不当であると主張した。
それだけで、十分だ」
理屈は、冷酷だった。
だが、法に則っている。
「連行せよ」
兵士たちが、腕を掴む。
「離せ!
私は、王太子だ!」
叫び声は、
夜に吸い込まれた。
---
翌朝。
王都に流れたのは、
簡潔な公示だった。
――王太子オレンは、
――王命に背き、
――一時拘束された。
理由は、書かれていない。
だが、人々は、理解した。
「……やっぱり、か」
「遅すぎたくらいだ」
「王太子、いらなかったよな」
誰も、
“王太子がいなくなる不安”を口にしない。
それが、
彼の立ち位置を、
何よりも雄弁に物語っていた。
---
王宮・執務室。
ライアーは、報告書を静かに閉じた。
「反発は?」
「ありません」
リシュリューが答える。
「むしろ、
“空席になって良かった”
という声が多い」
「……そう」
彼女は、わずかに目を伏せる。
(王太子という肩書きは、
最初から、空だったのね)
「今後の処遇ですが」
リシュリューは、続ける。
「ロネ国王と同様、
流刑が妥当かと」
「別の流刑地に」
「はい。
互いに、接触できないように」
「……孤独、ですわね」
「自分たちが、
国をどう扱ってきたかを、
考える時間にはなるでしょう」
ライアーは、しばらく黙っていた。
やがて、静かに言う。
「私は、復讐をしたいわけではありません」
「承知しています」
「ただ――」
彼女は、顔を上げる。
「この国に、
再び同じことをさせないために、
必要な整理をしているだけ」
「それが、政治です」
リシュリューは、穏やかに答えた。
---
その日の午後。
王宮の記録室で、
ある文書が整理された。
――王太子位に関する規定。
後継者。
継承順位。
教育義務。
それらは、すべて、
“将来の話”として、棚に戻された。
今は、必要ない。
---
夜。
ライアーは、
玉座の前に立っていた。
誰もいない謁見室。
静まり返った空間。
「……王太子が、いない国」
小さく、呟く。
(それでも、
国は、回っている)
(むしろ、
静かですらある)
彼女は、確信していた。
この国に必要なのは、
肩書きではない。
責任を取る者。
話を聞く者。
そして――
退くべき時に、
退ける者。
「私は、王になりません」
玉座を見つめ、
改めて、心に刻む。
「偽王を演じ、
役目が終われば、
退位する」
その時が、
少しずつ、
近づいている。
王と王太子、
二つの“空席”が生まれた国は、
皮肉にも――
かつてないほど、
安定していた。
そして、人々はまだ知らない。
この安定が、
一人の偽王による、
最後の仕事であることを。
王太子オレンの拘束は、
ロネ国王の逮捕よりも、静かに行われた。
王都の外れにある謹慎邸。
高い塀と、最低限の警備。
“王太子”としての体裁だけは保たれていた場所。
だが、その夜――
体裁は、意味を失った。
「王命により、
王太子オレンを拘束する」
扉の前に立った将校は、
感情のない声で告げた。
「……ふざけるな」
オレンは、低く唸る。
「父上が、
こんな命令を出すはずがない」
「今の陛下は、
その時の陛下ではない」
将校は、淡々と返した。
その言葉に、
オレンの顔色が変わる。
「……やはり、誰かが父上の名を使っている」
「その可能性も、
調査の対象だ」
「ならば、
私を拘束する理由はないだろう!」
「あります」
将校は、一歩前に出る。
「王太子を自称し、
王命に背いた」
「……は?」
「謹慎命令を拒否し、
不当であると主張した。
それだけで、十分だ」
理屈は、冷酷だった。
だが、法に則っている。
「連行せよ」
兵士たちが、腕を掴む。
「離せ!
私は、王太子だ!」
叫び声は、
夜に吸い込まれた。
---
翌朝。
王都に流れたのは、
簡潔な公示だった。
――王太子オレンは、
――王命に背き、
――一時拘束された。
理由は、書かれていない。
だが、人々は、理解した。
「……やっぱり、か」
「遅すぎたくらいだ」
「王太子、いらなかったよな」
誰も、
“王太子がいなくなる不安”を口にしない。
それが、
彼の立ち位置を、
何よりも雄弁に物語っていた。
---
王宮・執務室。
ライアーは、報告書を静かに閉じた。
「反発は?」
「ありません」
リシュリューが答える。
「むしろ、
“空席になって良かった”
という声が多い」
「……そう」
彼女は、わずかに目を伏せる。
(王太子という肩書きは、
最初から、空だったのね)
「今後の処遇ですが」
リシュリューは、続ける。
「ロネ国王と同様、
流刑が妥当かと」
「別の流刑地に」
「はい。
互いに、接触できないように」
「……孤独、ですわね」
「自分たちが、
国をどう扱ってきたかを、
考える時間にはなるでしょう」
ライアーは、しばらく黙っていた。
やがて、静かに言う。
「私は、復讐をしたいわけではありません」
「承知しています」
「ただ――」
彼女は、顔を上げる。
「この国に、
再び同じことをさせないために、
必要な整理をしているだけ」
「それが、政治です」
リシュリューは、穏やかに答えた。
---
その日の午後。
王宮の記録室で、
ある文書が整理された。
――王太子位に関する規定。
後継者。
継承順位。
教育義務。
それらは、すべて、
“将来の話”として、棚に戻された。
今は、必要ない。
---
夜。
ライアーは、
玉座の前に立っていた。
誰もいない謁見室。
静まり返った空間。
「……王太子が、いない国」
小さく、呟く。
(それでも、
国は、回っている)
(むしろ、
静かですらある)
彼女は、確信していた。
この国に必要なのは、
肩書きではない。
責任を取る者。
話を聞く者。
そして――
退くべき時に、
退ける者。
「私は、王になりません」
玉座を見つめ、
改めて、心に刻む。
「偽王を演じ、
役目が終われば、
退位する」
その時が、
少しずつ、
近づいている。
王と王太子、
二つの“空席”が生まれた国は、
皮肉にも――
かつてないほど、
安定していた。
そして、人々はまだ知らない。
この安定が、
一人の偽王による、
最後の仕事であることを。
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