15 / 39
第15話 誰も信じない王
しおりを挟む
第15話 誰も信じない王
港は、朝靄に包まれていた。
潮の匂いと、古い木材の軋む音。
流刑船は、すでに準備を終え、静かに揺れている。
桟橋の先で、二つの檻が並べられていた。
互いに距離を置き、視線すら交わらない配置。
それが、最後の配慮だった。
---
「……こんな扱いが、許されると思っているのか」
檻の中で、ロネは呻くように言った。
髭は伸び、衣は粗末だが、声だけは威厳を装っている。
「余は――」
「黙れ」
看守の声は、乾いていた。
「王を騙る不敬者に、
発言の機会は与えられていない」
ロネは、歯噛みする。
(なぜだ)
(なぜ、誰も信じない)
答えは、何度も突きつけられている。
彼は、王であることを“使った”だけで、
王であることを“示した”ことがなかった。
---
少し離れた檻では、オレンが沈黙していた。
叫ばない。
怒鳴らない。
ただ、唇を噛みしめて、床を睨んでいる。
(……あの女だ)
父が変わったのではない。
国が変わったのでもない。
(奪われた)
そう、信じることでしか、
自分を保てなかった。
---
将校が、淡々と命じる。
「出航する」
兵士たちが、檻を船へ運ぶ。
鎖が鳴り、
木の甲板が軋む。
その時、ロネが叫んだ。
「聞け!
余は、ロネ国王だ!
本物だ!」
声は、霧に吸い込まれ、
誰の心にも届かない。
港に集まった人々は、
遠巻きに眺めるだけだった。
「あれが……?」
「偽王だろ」
「まだ言ってるのか」
誰も、怒らない。
誰も、恐れない。
それが、終わりを意味していた。
---
船が、ゆっくりと離岸する。
別々の流刑地へ向かう二隻。
交わることのない航路。
孤独は、最初から決められていた。
---
同時刻、王都。
ライアーは、
自分の名でない名が書かれた書類に、
最後の確認印を押していた。
――流刑は、無期限。
――赦免の予定、なし。
それだけ。
感情は、挟まない。
「これで……終わりですね」
背後で、リシュリューが言う。
「終わりです」
「国は?」
「回っています」
簡潔な答えだった。
---
数日後。
王都の酒場では、
新しい話題が広がっていた。
「知ってるか。
流刑地で、
“本物の国王だ”って叫んでる奴がいるらしい」
「またか」
「前にもいたよな、そういうの」
笑い声が起きる。
「誰も信じないってのが、
一番きつい罰だな」
その言葉は、
真実だった。
---
夜。
ライアーは、
自分の屋敷で、静かに紅茶を淹れていた。
王宮の灯りは、もう見えない。
聞こえるのは、
湯気の音と、
時計の針の進む音だけ。
「……王太子妃には、向いていなかった」
ふと、独り言が漏れる。
「でも」
カップを口に運び、
微かに微笑む。
「国王には、
向いていたみたいですわ」
それは、誇りではない。
自嘲でもない。
事実の確認だった。
---
窓の外、
夜空に星が瞬く。
アストライアー。
正義の名を持つ星。
ライアーは、
その光を一瞬だけ見上げ、
カーテンを閉めた。
役目は終わった。
名は残らない。
だが――
国は、残った。
それで、十分だった。
港は、朝靄に包まれていた。
潮の匂いと、古い木材の軋む音。
流刑船は、すでに準備を終え、静かに揺れている。
桟橋の先で、二つの檻が並べられていた。
互いに距離を置き、視線すら交わらない配置。
それが、最後の配慮だった。
---
「……こんな扱いが、許されると思っているのか」
檻の中で、ロネは呻くように言った。
髭は伸び、衣は粗末だが、声だけは威厳を装っている。
「余は――」
「黙れ」
看守の声は、乾いていた。
「王を騙る不敬者に、
発言の機会は与えられていない」
ロネは、歯噛みする。
(なぜだ)
(なぜ、誰も信じない)
答えは、何度も突きつけられている。
彼は、王であることを“使った”だけで、
王であることを“示した”ことがなかった。
---
少し離れた檻では、オレンが沈黙していた。
叫ばない。
怒鳴らない。
ただ、唇を噛みしめて、床を睨んでいる。
(……あの女だ)
父が変わったのではない。
国が変わったのでもない。
(奪われた)
そう、信じることでしか、
自分を保てなかった。
---
将校が、淡々と命じる。
「出航する」
兵士たちが、檻を船へ運ぶ。
鎖が鳴り、
木の甲板が軋む。
その時、ロネが叫んだ。
「聞け!
余は、ロネ国王だ!
本物だ!」
声は、霧に吸い込まれ、
誰の心にも届かない。
港に集まった人々は、
遠巻きに眺めるだけだった。
「あれが……?」
「偽王だろ」
「まだ言ってるのか」
誰も、怒らない。
誰も、恐れない。
それが、終わりを意味していた。
---
船が、ゆっくりと離岸する。
別々の流刑地へ向かう二隻。
交わることのない航路。
孤独は、最初から決められていた。
---
同時刻、王都。
ライアーは、
自分の名でない名が書かれた書類に、
最後の確認印を押していた。
――流刑は、無期限。
――赦免の予定、なし。
それだけ。
感情は、挟まない。
「これで……終わりですね」
背後で、リシュリューが言う。
「終わりです」
「国は?」
「回っています」
簡潔な答えだった。
---
数日後。
王都の酒場では、
新しい話題が広がっていた。
「知ってるか。
流刑地で、
“本物の国王だ”って叫んでる奴がいるらしい」
「またか」
「前にもいたよな、そういうの」
笑い声が起きる。
「誰も信じないってのが、
一番きつい罰だな」
その言葉は、
真実だった。
---
夜。
ライアーは、
自分の屋敷で、静かに紅茶を淹れていた。
王宮の灯りは、もう見えない。
聞こえるのは、
湯気の音と、
時計の針の進む音だけ。
「……王太子妃には、向いていなかった」
ふと、独り言が漏れる。
「でも」
カップを口に運び、
微かに微笑む。
「国王には、
向いていたみたいですわ」
それは、誇りではない。
自嘲でもない。
事実の確認だった。
---
窓の外、
夜空に星が瞬く。
アストライアー。
正義の名を持つ星。
ライアーは、
その光を一瞬だけ見上げ、
カーテンを閉めた。
役目は終わった。
名は残らない。
だが――
国は、残った。
それで、十分だった。
0
あなたにおすすめの小説
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。
第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。
その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。
ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。
私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
有能婚約者を捨てた王子は、幼馴染との真実の愛に目覚めたらしい
マルローネ
恋愛
サンマルト王国の王子殿下のフリックは公爵令嬢のエリザに婚約破棄を言い渡した。
理由は幼馴染との「真実の愛」に目覚めたからだ。
エリザの言い分は一切聞いてもらえず、彼に誠心誠意尽くしてきた彼女は悲しんでしまう。
フリックは幼馴染のシャーリーと婚約をすることになるが、彼は今まで、どれだけエリザにサポートしてもらっていたのかを思い知ることになってしまう。一人でなんでもこなせる自信を持っていたが、地の底に落ちてしまうのだった。
一方、エリザはフリックを完璧にサポートし、その態度に感銘を受けていた第一王子殿下に求婚されることになり……。
【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。
ところが新婚初夜、ダミアンは言った。
「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」
そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。
しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。
心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。
初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。
そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは─────
(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる