偽王を演じた侯爵令嬢は、名もなき人生を選ぶ」

鷹 綾

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第21話 王を名乗る罪

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第21話 王を名乗る罪

冬の夜は、
思った以上に深い。

王家の別荘は、
山間にひっそりと建っていた。
白い石壁、広い暖炉、
過剰なほどに豪奢な調度品。

そして――
笑い声。

「ははは!
 もっと酒を持ってこい!」

暖炉の前、
豪奢な椅子にふんぞり返っているのは、
一人の男。

ロネ国王――
を名乗っている男だった。


---

別荘では、
日々が祭りのように過ぎていた。

狩り。
酒宴。
女。
音楽。

国がどうなろうと、
税がどう使われようと、
関係ない。

「王である余が、
 楽しまずしてどうする?」

そう言って、
彼は笑った。

かつて、
その言葉を誰も否定できなかった。

だが――
今は違う。


---

夜半。

別荘の外で、
雪を踏みしめる音が重なった。

静かに。
だが、確実に。

「……?」

最初に異変に気づいたのは、
近侍の一人だった。

「陛下、
 外が……」

言い終わる前に、
扉が叩き破られた。

ドンッ!

「何事だ、無礼者!」

ロネは立ち上がり、
怒鳴りつける。

だが、
返ってきたのは、
低く、冷えた声だった。

「――王家の別荘に不法侵入し、
 国王を騙る不敬者を逮捕する」

兵士たちが、
一斉に踏み込む。

将校が一歩前に出た。

「命により、
 貴様を拘束する」


---

「ば、馬鹿な!」

ロネは、
目を見開いた。

「余は国王だぞ!?
 この顔が見えぬか!」

彼は、
胸を張り、
堂々と名乗る。

だが、
将校たちの表情は、
一切変わらない。

「……哀れな」

誰かが、
そう呟いた。


---

「貴様ら、
 誰の命令で動いている!」

ロネが叫ぶ。

将校は、
迷いなく答えた。

「国王陛下の御命令だ」

「な……」

「王家の別荘に入り込み、
 陛下の名を騙る不届き者は、
 即刻拘束し、牢へ送れ。
 不敬者の言葉に耳を貸すな。
 取り調べは不要――
 即刻、投獄せよ」

それは、
ロネ自身が、
かつて下したことのある命令と、
寸分違わぬ調子だった。

「ば、ばかな……
 余が……余が、
 本物だ!」


---

兵士たちは、
誰一人として、
耳を貸さなかった。

彼らが信じているのは、
今、王都にいる“国王”。

冷静で、
命令が明確で、
無駄に怒鳴らず、
法と制度を尊重する存在。

「――連行しろ」

その一言で、
ロネの腕は掴まれた。

「放せ!
 放せえええええ!」

叫び声が、
別荘に反響する。

だが、
誰も助けない。


---

雪の降る中、
ロネは馬車に押し込まれた。

縄で縛られ、
頭を押さえつけられながらも、
なお叫ぶ。

「余こそが国王だ!
 偽物はあの女だ!
 聞け!
 余は――!」

バン!

馬車の扉が閉じられ、
声は、完全に遮断された。


---

その頃、王都。

玉座の間ではなく、
簡素な執務室で。

“国王”は、
淡々と報告を聞いていた。

「……以上です。
 偽王は、
 無事に拘束されました」

「そう」

短い返事。

「命令通り、
 取り調べは?」

「行っておりません」

「結構です」

机に手を置き、
彼女――
ライアーは、静かに告げた。

「本物を自称する限り、
 拘束し続けなさい」

「はっ」

「罪状は――
 王を名乗った罪」

その言葉に、
誰も疑問を挟まなかった。


---

ライアーは、
一人になってから、
小さく息を吐いた。

(……王を名乗ること自体が、
 罪になる日が来るなんて)

皮肉だが、
それでいい。

王であることが、
特権ではなく、
責任である世界。

それを壊した者は、
王であろうと、
罰せられる。

ただ、それだけの話だ。


---

その夜。

牢の奥で、
ロネは、
冷たい石壁にもたれていた。

「……余は、
 本物だ……」

呟きは、
虚空に消える。

もはや、
それを証明する者は、
誰一人として残っていなかった。

こうして――
偽王は、
 “偽王として”
 歴史から切り離された。

そして、
物語は、
次の裁きへと進んでいく。
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