偽王を演じた侯爵令嬢は、名もなき人生を選ぶ」

鷹 綾

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第27話 それでも、責任は残る

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第27話 それでも、責任は残る

春の雨は、
音がやさしい。

屋根を叩く水音が、
一定のリズムを刻む。

ライアーは、
窓辺でその音を聞いていた。

(……何者でもなくなっても)

(消えないものは、
 あるのですね)


---

午前中、
一通の書簡が届いた。

差出人は、
地方都市の評議会。

内容は、
簡潔だ。

――新税制移行に伴い、
――一部地域で混乱が生じている。
――法解釈について、
――助言を求む。

ライアーは、
しばらく手紙を見つめていた。

(……私は、
 もう政治に関わらないと決めた)

それでも、
目を背けられない。


---

昼過ぎ。

リシュリューが、
屋敷を訪れた。

「返事に、
 迷っておられるようですな」

「……ええ」

ライアーは、
正直に答える。

「助言すれば、
 また、私の名が動き始めます」

「助言しなければ、
 混乱が続く」

老人は、
淡々と現実を並べる。


---

「責任、ですか」

ライアーは、
小さく息を吐いた。

「私は、
 王にならなかった」

「ええ」

「英雄にも、
 なりませんでした」

「その通り」

「それでも……」

彼女は、
視線を上げる。

「原因を作ったのは、
 私です」

沈黙が落ちた。


---

リシュリューは、
ゆっくりと頷いた。

「ならば、
 答えは一つ」

「……表に出ず、
 裏から支える?」

「それが、
 あなたのやり方でしょう」

ライアーは、
苦笑する。

「ずるいですね」

「賢いとも言う」


---

夕方。

ライアーは、
書簡に返事を書いた。

署名は、
ない。

肩書きも、
ない。

ただ、
法の解釈と、
具体的な運用案だけ。

「……これで、
 名前は残らない」

それで、いい。


---

夜。

暖炉の前で、
一人、考える。

(責任とは、
 地位に付随するものではない)

(関わったなら、
 逃げ切れない)

だが、
前に出ない責任も、
確かにある。


---

翌日。

地方都市から、
短い返事が届く。

――助言により、
――混乱は収束しつつある。
――感謝する。

名前は、
書かれていない。

だが、
感謝は届いた。


---

ライアーは、
窓を開け、
雨上がりの空気を吸い込む。

「……それでも、
 私は前には出ない」

呟きは、
誰にも聞かれない。

英雄にならず、
王にもならず、
それでも、
責任から逃げない。

それが、
ライアー・ユースティティアの
選び続ける生き方だった。
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