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第32話 風が運ぶ知らせ
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第32話 風が運ぶ知らせ
昼下がり、
風が少し強くなった。
窓辺のカーテンが揺れ、
庭の木々がざわめく。
夏の気配に、
微かな違和感が混じる。
ライアーは、
その変化を、
言葉にせず感じ取っていた。
(……何か、
動いていますわね)
---
玄関の呼び鈴が鳴る。
久しぶりだった。
使用人が応対し、
小さな包みを持って戻ってくる。
「差出人の名は、
ありません」
包みは、
軽い。
中身は、
一通の書簡と、
簡素な地図。
---
書簡は短い。
――南の交易路で、
――不正が再発している。
――制度の穴を突いた、
――“合法な搾取”だ。
――顔の見えない助言者へ。
署名は、
やはりない。
ライアーは、
静かに息を吐いた。
(……完全に、
終わったわけではない)
---
夕方。
彼女は、
地図を机に広げる。
南部の港町。
新税制の移行で、
権限が曖昧になった場所。
「……制度が、
育ってきた証拠でもある」
穴が見えるのは、
形ができたからだ。
---
夜。
焚き火の前で、
リシュリューの言葉を思い出す。
――制度は、
――人に依存しないためにある。
(……でも、
制度は、
放っておくと歪む)
人が、
使うものだから。
---
ライアーは、
返事を書かなかった。
代わりに、
もう一枚、紙を取る。
港町の権限整理案。
監査の周期。
利害関係者の分離。
淡々と、
具体的に。
名前は、
書かない。
---
翌朝。
包みは、
元の使者へ返された。
書簡も、
署名もない。
ただ、
一枚の提案書だけ。
(……これで、
最後かもしれません)
そう思いながらも、
不安はなかった。
---
昼。
庭で、
風に揺れる葉を眺める。
風は、
知らせを運び、
やがて去る。
「……私は、
追いかけません」
必要なら、
また風が吹く。
その時、
応えるかどうかは、
その時に決めればいい。
---
夕暮れ。
空が、
茜色に染まる。
ライアーは、
カップを手に、
その色を見つめた。
王でも、
英雄でも、
助言者でもない。
ただ、
風を聞く者。
第32話は、
彼女が再び前に出ないと決め、
それでも世界と完全には切れない――
その距離感を、
静かに描いて終わる。
風は、
今日もどこかで吹いている。
昼下がり、
風が少し強くなった。
窓辺のカーテンが揺れ、
庭の木々がざわめく。
夏の気配に、
微かな違和感が混じる。
ライアーは、
その変化を、
言葉にせず感じ取っていた。
(……何か、
動いていますわね)
---
玄関の呼び鈴が鳴る。
久しぶりだった。
使用人が応対し、
小さな包みを持って戻ってくる。
「差出人の名は、
ありません」
包みは、
軽い。
中身は、
一通の書簡と、
簡素な地図。
---
書簡は短い。
――南の交易路で、
――不正が再発している。
――制度の穴を突いた、
――“合法な搾取”だ。
――顔の見えない助言者へ。
署名は、
やはりない。
ライアーは、
静かに息を吐いた。
(……完全に、
終わったわけではない)
---
夕方。
彼女は、
地図を机に広げる。
南部の港町。
新税制の移行で、
権限が曖昧になった場所。
「……制度が、
育ってきた証拠でもある」
穴が見えるのは、
形ができたからだ。
---
夜。
焚き火の前で、
リシュリューの言葉を思い出す。
――制度は、
――人に依存しないためにある。
(……でも、
制度は、
放っておくと歪む)
人が、
使うものだから。
---
ライアーは、
返事を書かなかった。
代わりに、
もう一枚、紙を取る。
港町の権限整理案。
監査の周期。
利害関係者の分離。
淡々と、
具体的に。
名前は、
書かない。
---
翌朝。
包みは、
元の使者へ返された。
書簡も、
署名もない。
ただ、
一枚の提案書だけ。
(……これで、
最後かもしれません)
そう思いながらも、
不安はなかった。
---
昼。
庭で、
風に揺れる葉を眺める。
風は、
知らせを運び、
やがて去る。
「……私は、
追いかけません」
必要なら、
また風が吹く。
その時、
応えるかどうかは、
その時に決めればいい。
---
夕暮れ。
空が、
茜色に染まる。
ライアーは、
カップを手に、
その色を見つめた。
王でも、
英雄でも、
助言者でもない。
ただ、
風を聞く者。
第32話は、
彼女が再び前に出ないと決め、
それでも世界と完全には切れない――
その距離感を、
静かに描いて終わる。
風は、
今日もどこかで吹いている。
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