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第二十一話 静かな再編
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第二十一話 静かな再編
王宮では、目立たない変化が、いくつも同時に起きていた。
会議の席順が、少し変わる。
発言する顔ぶれが、入れ替わる。
決裁に回る書類の流れが、わずかに短くなる。
どれも派手ではない。
だが、“これまで通り”ではなくなっている。
「……この件、先に条件を整理してから回しましょう」
若い官吏の一言に、年長者が一瞬だけ目を見張った。
以前なら、そんな提案は、場の空気を読めないと一蹴されていた。
今は――
「そうだな。
まず、そこからだ」
すんなりと受け入れられる。
王太子ユリウスは、その様子を、少し離れた場所から見ていた。
口を出さない。
だが、聞いている。
(……動いている)
遅い。
拙い。
それでも、確かに。
“誰かが整えてくれる前提”が、消えたからこそ、
人は自分の役割を探し始める。
「殿下」
側近が声をかける。
「本日の会合ですが、
以前なら、リュシエンヌ様に確認してから進めていた内容を……
今回は、我々で案をまとめました」
差し出された紙を、ユリウスは受け取る。
完璧ではない。
だが、逃げていない。
「……いい」
短く告げる。
「この方向で、進めよう」
即断だった。
側近の表情に、わずかな驚きが走る。
迷いがちな姿を、最近見慣れていたからだ。
「責任は、俺が取る」
その一言が、場を引き締めた。
誰かに預けるのではなく、
誰かに丸投げするのでもない。
――自分で選ぶ。
それは、ようやく王太子が、
王太子として立ち始めた瞬間だった。
一方、新しい婚約者は、
王宮の外れにある小さな応接室にいた。
大きな舞踏会も、
華やかな晩餐会もない。
代わりに、
孤児院の支援について話を聞く、小さな集まり。
「……ここでは、物資よりも、人手が足りません」
現場の責任者の言葉に、
彼女は、真剣に耳を傾ける。
誰も、彼女に“王太子妃らしさ”を求めていない。
代わりに、
“話を聞く姿勢”だけが、問われている。
(……これなら)
胸の奥で、何かが静かに形を持つ。
完璧な振る舞いも、
場を操る力もない。
だが、
耳を傾け、考え、
小さな支援を続けることなら、できる。
「……定期的に、様子を伺ってもいいですか?」
恐る恐る尋ねると、
相手は、少し驚いた顔で、
そして、笑った。
「もちろんです」
それは、
“比べられない役割”だった。
一方、ヴァイセル公爵家。
リュシエンヌは、書斎で、古い帳簿をめくっていた。
政務のものではない。
家の歴史。
領地の記録。
(……こんなに、
知らないことがありましたのね)
これまで、
“外”ばかりを見ていた。
王宮。
外交。
社交界。
足元にあるものを、
知る時間がなかった。
「……領地の市場、
一度、見に行ってみましょうか」
侍女に向かって、
ふと口にする。
「お嬢様が?」
「ええ。
視察、というほど大げさではなくて……
ただ、見てみたいのです」
理由は、単純だ。
誰かの期待ではなく、
自分の興味で、動いてみたい。
王宮では、
“再編”が、静かに進んでいた。
派閥が解体されるわけでもない。
誰かが失脚するわけでもない。
ただ、
これまで見えなかった歪みが、
少しずつ、修正され始めている。
新しい婚約者は、
自分の小さな居場所を見つけ始め、
王太子は、
責任を引き受ける覚悟を持ち始める。
そして――
リュシエンヌは、
王宮の外で、
自分の世界を、
ゆっくりと広げていく。
誰も、彼女を引き戻そうとはしない。
誰も、彼女を責めない。
それぞれが、
それぞれの場所で、
再編されている。
支えが消えた後の世界は、
確かに、不格好だ。
だが――
不格好だからこそ、
“自分の形”を、
取り戻せる。
リュシエンヌ・フォン・ヴァイセルは、
今日もまた、
何もしていないようでいて、
確かに、
前とは違う一歩を踏み出していた。
それは、
誰かのためではない。
――自分の人生の、再編だった。
王宮では、目立たない変化が、いくつも同時に起きていた。
会議の席順が、少し変わる。
発言する顔ぶれが、入れ替わる。
決裁に回る書類の流れが、わずかに短くなる。
どれも派手ではない。
だが、“これまで通り”ではなくなっている。
「……この件、先に条件を整理してから回しましょう」
若い官吏の一言に、年長者が一瞬だけ目を見張った。
以前なら、そんな提案は、場の空気を読めないと一蹴されていた。
今は――
「そうだな。
まず、そこからだ」
すんなりと受け入れられる。
王太子ユリウスは、その様子を、少し離れた場所から見ていた。
口を出さない。
だが、聞いている。
(……動いている)
遅い。
拙い。
それでも、確かに。
“誰かが整えてくれる前提”が、消えたからこそ、
人は自分の役割を探し始める。
「殿下」
側近が声をかける。
「本日の会合ですが、
以前なら、リュシエンヌ様に確認してから進めていた内容を……
今回は、我々で案をまとめました」
差し出された紙を、ユリウスは受け取る。
完璧ではない。
だが、逃げていない。
「……いい」
短く告げる。
「この方向で、進めよう」
即断だった。
側近の表情に、わずかな驚きが走る。
迷いがちな姿を、最近見慣れていたからだ。
「責任は、俺が取る」
その一言が、場を引き締めた。
誰かに預けるのではなく、
誰かに丸投げするのでもない。
――自分で選ぶ。
それは、ようやく王太子が、
王太子として立ち始めた瞬間だった。
一方、新しい婚約者は、
王宮の外れにある小さな応接室にいた。
大きな舞踏会も、
華やかな晩餐会もない。
代わりに、
孤児院の支援について話を聞く、小さな集まり。
「……ここでは、物資よりも、人手が足りません」
現場の責任者の言葉に、
彼女は、真剣に耳を傾ける。
誰も、彼女に“王太子妃らしさ”を求めていない。
代わりに、
“話を聞く姿勢”だけが、問われている。
(……これなら)
胸の奥で、何かが静かに形を持つ。
完璧な振る舞いも、
場を操る力もない。
だが、
耳を傾け、考え、
小さな支援を続けることなら、できる。
「……定期的に、様子を伺ってもいいですか?」
恐る恐る尋ねると、
相手は、少し驚いた顔で、
そして、笑った。
「もちろんです」
それは、
“比べられない役割”だった。
一方、ヴァイセル公爵家。
リュシエンヌは、書斎で、古い帳簿をめくっていた。
政務のものではない。
家の歴史。
領地の記録。
(……こんなに、
知らないことがありましたのね)
これまで、
“外”ばかりを見ていた。
王宮。
外交。
社交界。
足元にあるものを、
知る時間がなかった。
「……領地の市場、
一度、見に行ってみましょうか」
侍女に向かって、
ふと口にする。
「お嬢様が?」
「ええ。
視察、というほど大げさではなくて……
ただ、見てみたいのです」
理由は、単純だ。
誰かの期待ではなく、
自分の興味で、動いてみたい。
王宮では、
“再編”が、静かに進んでいた。
派閥が解体されるわけでもない。
誰かが失脚するわけでもない。
ただ、
これまで見えなかった歪みが、
少しずつ、修正され始めている。
新しい婚約者は、
自分の小さな居場所を見つけ始め、
王太子は、
責任を引き受ける覚悟を持ち始める。
そして――
リュシエンヌは、
王宮の外で、
自分の世界を、
ゆっくりと広げていく。
誰も、彼女を引き戻そうとはしない。
誰も、彼女を責めない。
それぞれが、
それぞれの場所で、
再編されている。
支えが消えた後の世界は、
確かに、不格好だ。
だが――
不格好だからこそ、
“自分の形”を、
取り戻せる。
リュシエンヌ・フォン・ヴァイセルは、
今日もまた、
何もしていないようでいて、
確かに、
前とは違う一歩を踏み出していた。
それは、
誰かのためではない。
――自分の人生の、再編だった。
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