8 / 25
2-4 『紅の舞踏会、そして決別』
しおりを挟む
その翌日――
イソファガス家の屋敷、その一角に設けられた別棟の衣裳室では、誕生祭に向けた準備が着々と進められていた。
柔らかな陽光が差し込む室内には、色とりどりの布地や完成間近のドレスが並び、まるで小さな宝石箱のようだ。その中央で、キクコはシェリルと並び、仕立て上がった衣装の確認を行っていた。
「キクコお姉様、このドレスはいかがですか?」
シェリルが楽しげに声をかける。
「……お姉様じゃないでしょう、シェリル叔母様」
「まあ、そんな堅苦しい呼び方は嫌ですわ。私は“叔母様”より、“お姉様”と呼ばれる方がずっと嬉しいのですもの」
「……はい、シェリルお姉様……」
半ば諦めたようにそう答えるキクコに、シェリルは満足げな笑みを浮かべる。
彼女は次に、深紅の布地で仕立てられたドレスを手に取り、光にかざすようにして掲げた。
「それでしたら、この赤いドレスなんてどうかしら? とても鮮やかで華やか。場の視線を一身に集めること間違いなしですわ」
「ええ……とても素敵だと思います……」
「でしょう? それに今回は皇子の誕生祭。これはただの社交の場ではありませんのよ、キクコお姉様。言うなれば――女の戦場ですわ」
「戦場……」
「ええ。女の戦場。だからこそ、ドレスは最大にして最強の武器なのですもの」
シェリルは力強く断言した。
「でも、私には昔からのドレスがたくさんありますし……。体型も三百年前から変わっていませんから、サイズ的には問題ありませんし」
「そういう問題ではありませんの!」
シェリルは即座に切り返す。
「三百年分のドレスなんて、アンティークを通り越して、もはや骨董品ですわ。今回は“新しい武器”を用意するべきですのよ」
「……それは、ごもっともですわ」
キクコは扇子でそっと口元を隠しながら、小さく笑った。
その微笑ましいやりとりを、衣裳室の隅からこっそり覗いていた小さな影が、ぽつりと呟く。
「……赤いと、三倍強くなるって、なんかで聞いた……」
「……フロンティア、それは一体どこで覚えたの? 変な知識ね」
「だって、強いほうがかっこいいでしょ!」
無邪気に言い切る少年に、キクコは一瞬言葉に詰まる。
「フロンティア、これは“舞踏会”なの。“武道会”ではありません。強さは必要ないのよ?」
「でも、やっぱり強い方がカッコいいって思うんだ」
少し呆れたように、けれどどこか嬉しそうに、キクコはしゃがみ込んでフロンティアの頭を優しく撫でた。
その夜。
イソファガス家の屋敷には、赤いドレスの準備とともに、これまでとは少し違う、新しい風が静かに吹き始めていた。
帝国暦九百十二年。
皇子ラファエルの誕生祭を祝う大舞踏会は、帝都中央にそびえる白亜の皇城で盛大に催されていた。
天井高く掲げられたシャンデリアが無数の光を放ち、金と白を基調とした大広間には、帝国中の貴族と賓客が集っている。
音楽、笑い声、衣擦れの音——すべてが、皇子の未来を祝福するかのように溶け合っていた。
その中で、ひときわ視線を集めていた存在がある。
深紅のドレスに身を包んだ、ひとりの少女。
年若く、華奢で、しかし不思議な威厳を纏った存在——キクコ・イソファガスであった。
(……やはり来てくれた)
ラファエルは人波の向こうにその姿を見つけ、胸の奥が高鳴るのを抑えきれずにいた。
数日前、はっきりと拒絶されたにもかかわらず、それでもなお彼の想いは消えていなかった。
むしろ——
(今夜こそ、伝えなければ)
意を決したラファエルは、周囲の貴族たちに一礼しながら、まっすぐキクコのもとへと歩み寄る。
「キクコ様」
声をかけられ、彼女はゆっくりと振り返った。
その瞳に映るのは、以前と変わらぬ穏やかさと、どこか距離を感じさせる静けさ。
「……ラファエル皇子殿下。誕生日、おめでとうございます」
「ありがとうございます。こうして来ていただけたこと、心から嬉しく思います」
形式的な挨拶を交わしながらも、二人の間に漂う空気は、周囲の喧噪とは切り離されたように張り詰めていた。
「よろしければ……今宵も、一曲」
ラファエルは再び手を差し出す。
その仕草は丁寧で、誠実で、真剣そのものだった。
キクコは一瞬だけその手を見つめ、そして静かに首を横に振った。
「……申し訳ありません。今夜は踊りません」
「それでも……話だけでも」
「それも、できません」
きっぱりとした拒絶だった。
ざわり、と周囲の貴族たちの空気が揺れる。
皇子の誕生祭の主役が、客人である少女に拒まれている——その光景は、あまりに異例だった。
「キクコ様……」
「皇子殿下」
キクコは扇子を閉じ、真っ直ぐに彼を見据えた。
「以前、私は申し上げました。あなたの想いはありがたい、と。でも——」
少しだけ、言葉を選ぶように間を置く。
「それに応えることは、できないと」
「……なぜですか」
ラファエルの声は、かすかに震えていた。
「私は皇子です。帝国の未来を背負う立場にあります。あなたと共にあれるなら——」
「だからです」
キクコは静かに遮った。
「あなたには、未来があります。変わっていく未来が。
でも私は、変わらない存在。時に取り残され、見送る側にしかなれない者です」
赤いドレスの裾が、わずかに揺れる。
「あなたの人生に、私は“傷”を残すだけ。
それは、あなたのためでも、帝国のためでもありません」
「それでも……!」
「それでも、です」
その声には、揺るぎがなかった。
ラファエルは、何も言えなくなる。
拒絶されたのは、立場でも、身分でもない。
——彼自身の“未来”だった。
「……分かりました」
しばらくの沈黙のあと、彼は小さく微笑んだ。
「今夜は、これ以上踏み込みません。ただ……覚えておいてください。
あなたを想ったことだけは、後悔していません」
キクコは、わずかに目を伏せた。
「……それで十分ですわ」
短くそう答えると、彼女は一礼し、ゆっくりと人波の中へと戻っていく。
深紅のドレスが光の中に溶け、やがて見えなくなるまで、ラファエルはその背中を見つめ続けていた。
(——届かなかった、か)
だが同時に、彼は理解していた。
あの拒絶が、彼女なりの誠実さであることを。
舞踏会は華やかに続く。
音楽は鳴り止まず、祝福の声は絶えない。
けれどその夜、ひとりの皇子は静かに、大人になる痛みを知った。
そしてキクコは、再び「見送る側」として、夜の灯りの中に身を置いていた。
イソファガス家の屋敷、その一角に設けられた別棟の衣裳室では、誕生祭に向けた準備が着々と進められていた。
柔らかな陽光が差し込む室内には、色とりどりの布地や完成間近のドレスが並び、まるで小さな宝石箱のようだ。その中央で、キクコはシェリルと並び、仕立て上がった衣装の確認を行っていた。
「キクコお姉様、このドレスはいかがですか?」
シェリルが楽しげに声をかける。
「……お姉様じゃないでしょう、シェリル叔母様」
「まあ、そんな堅苦しい呼び方は嫌ですわ。私は“叔母様”より、“お姉様”と呼ばれる方がずっと嬉しいのですもの」
「……はい、シェリルお姉様……」
半ば諦めたようにそう答えるキクコに、シェリルは満足げな笑みを浮かべる。
彼女は次に、深紅の布地で仕立てられたドレスを手に取り、光にかざすようにして掲げた。
「それでしたら、この赤いドレスなんてどうかしら? とても鮮やかで華やか。場の視線を一身に集めること間違いなしですわ」
「ええ……とても素敵だと思います……」
「でしょう? それに今回は皇子の誕生祭。これはただの社交の場ではありませんのよ、キクコお姉様。言うなれば――女の戦場ですわ」
「戦場……」
「ええ。女の戦場。だからこそ、ドレスは最大にして最強の武器なのですもの」
シェリルは力強く断言した。
「でも、私には昔からのドレスがたくさんありますし……。体型も三百年前から変わっていませんから、サイズ的には問題ありませんし」
「そういう問題ではありませんの!」
シェリルは即座に切り返す。
「三百年分のドレスなんて、アンティークを通り越して、もはや骨董品ですわ。今回は“新しい武器”を用意するべきですのよ」
「……それは、ごもっともですわ」
キクコは扇子でそっと口元を隠しながら、小さく笑った。
その微笑ましいやりとりを、衣裳室の隅からこっそり覗いていた小さな影が、ぽつりと呟く。
「……赤いと、三倍強くなるって、なんかで聞いた……」
「……フロンティア、それは一体どこで覚えたの? 変な知識ね」
「だって、強いほうがかっこいいでしょ!」
無邪気に言い切る少年に、キクコは一瞬言葉に詰まる。
「フロンティア、これは“舞踏会”なの。“武道会”ではありません。強さは必要ないのよ?」
「でも、やっぱり強い方がカッコいいって思うんだ」
少し呆れたように、けれどどこか嬉しそうに、キクコはしゃがみ込んでフロンティアの頭を優しく撫でた。
その夜。
イソファガス家の屋敷には、赤いドレスの準備とともに、これまでとは少し違う、新しい風が静かに吹き始めていた。
帝国暦九百十二年。
皇子ラファエルの誕生祭を祝う大舞踏会は、帝都中央にそびえる白亜の皇城で盛大に催されていた。
天井高く掲げられたシャンデリアが無数の光を放ち、金と白を基調とした大広間には、帝国中の貴族と賓客が集っている。
音楽、笑い声、衣擦れの音——すべてが、皇子の未来を祝福するかのように溶け合っていた。
その中で、ひときわ視線を集めていた存在がある。
深紅のドレスに身を包んだ、ひとりの少女。
年若く、華奢で、しかし不思議な威厳を纏った存在——キクコ・イソファガスであった。
(……やはり来てくれた)
ラファエルは人波の向こうにその姿を見つけ、胸の奥が高鳴るのを抑えきれずにいた。
数日前、はっきりと拒絶されたにもかかわらず、それでもなお彼の想いは消えていなかった。
むしろ——
(今夜こそ、伝えなければ)
意を決したラファエルは、周囲の貴族たちに一礼しながら、まっすぐキクコのもとへと歩み寄る。
「キクコ様」
声をかけられ、彼女はゆっくりと振り返った。
その瞳に映るのは、以前と変わらぬ穏やかさと、どこか距離を感じさせる静けさ。
「……ラファエル皇子殿下。誕生日、おめでとうございます」
「ありがとうございます。こうして来ていただけたこと、心から嬉しく思います」
形式的な挨拶を交わしながらも、二人の間に漂う空気は、周囲の喧噪とは切り離されたように張り詰めていた。
「よろしければ……今宵も、一曲」
ラファエルは再び手を差し出す。
その仕草は丁寧で、誠実で、真剣そのものだった。
キクコは一瞬だけその手を見つめ、そして静かに首を横に振った。
「……申し訳ありません。今夜は踊りません」
「それでも……話だけでも」
「それも、できません」
きっぱりとした拒絶だった。
ざわり、と周囲の貴族たちの空気が揺れる。
皇子の誕生祭の主役が、客人である少女に拒まれている——その光景は、あまりに異例だった。
「キクコ様……」
「皇子殿下」
キクコは扇子を閉じ、真っ直ぐに彼を見据えた。
「以前、私は申し上げました。あなたの想いはありがたい、と。でも——」
少しだけ、言葉を選ぶように間を置く。
「それに応えることは、できないと」
「……なぜですか」
ラファエルの声は、かすかに震えていた。
「私は皇子です。帝国の未来を背負う立場にあります。あなたと共にあれるなら——」
「だからです」
キクコは静かに遮った。
「あなたには、未来があります。変わっていく未来が。
でも私は、変わらない存在。時に取り残され、見送る側にしかなれない者です」
赤いドレスの裾が、わずかに揺れる。
「あなたの人生に、私は“傷”を残すだけ。
それは、あなたのためでも、帝国のためでもありません」
「それでも……!」
「それでも、です」
その声には、揺るぎがなかった。
ラファエルは、何も言えなくなる。
拒絶されたのは、立場でも、身分でもない。
——彼自身の“未来”だった。
「……分かりました」
しばらくの沈黙のあと、彼は小さく微笑んだ。
「今夜は、これ以上踏み込みません。ただ……覚えておいてください。
あなたを想ったことだけは、後悔していません」
キクコは、わずかに目を伏せた。
「……それで十分ですわ」
短くそう答えると、彼女は一礼し、ゆっくりと人波の中へと戻っていく。
深紅のドレスが光の中に溶け、やがて見えなくなるまで、ラファエルはその背中を見つめ続けていた。
(——届かなかった、か)
だが同時に、彼は理解していた。
あの拒絶が、彼女なりの誠実さであることを。
舞踏会は華やかに続く。
音楽は鳴り止まず、祝福の声は絶えない。
けれどその夜、ひとりの皇子は静かに、大人になる痛みを知った。
そしてキクコは、再び「見送る側」として、夜の灯りの中に身を置いていた。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる