永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる(オリジナルバージョン)

鷹 綾

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第2章 セクション3『帰還、そして剣の縁』

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第2章 セクション3『帰還、そして剣の縁』

 帝国から戻って数日後。
 イソファガス領の正門が、変わらぬ静けさの中でゆっくりと開かれた。

「お帰りなさいませ、アルト様、シェリル様、フロンティア様!」

 整然と並ぶ使用人たちの声に迎えられ、馬車の扉が開く。
 降り立ったのは、次期領主にして現領主の息子アルト・イソファガス、その妻シェリル、そして息子のフロンティアだった。

 夕暮れの光が三人の金色の髪を照らす。旅の疲れはにじんでいるが、その足取りには確かな重みがあった。

「ただいま戻りました、キクコ」

 玄関で待っていたキクコは、静かに微笑み、一礼する。

「南部の農業改革の成果はいかがでした、伯父様?」

 表向き、彼女はアルトの姪という立場にある。
 しかし実際には、三百年前に生まれたイソファガス家の長命の令嬢であり、現領主の“祖母”にあたる存在だった。

「順調だ。今年の秋には、大きな実りが期待できる。特に灌漑施設の整備が功を奏した」

「それは何よりですわ。民の暮らしが安定することが、何より大切ですもの」

 穏やかな会話の途中、軽やかな足音が近づいてきた。

「キクコーッ!」

 勢いよく駆け寄ってきたのは、アルトの息子フロンティアだった。
 まだ十歳ながら、その瞳には年齢以上の知性と好奇心が宿っている。

「フロンティア。視察にも同行したのでしょう? ちゃんと学んできましたか?」

「うん! ちゃんと見てたよ! でも今日は、遊んでくれるんでしょ?」

 キクコはしゃがみ込み、彼の頭を優しく撫でた。

「もちろん。でもその前に、ひとつだけ。領地について学んだことを、私に教えてみて?」

「えっとね。今年は雨が少なかったから、水路を広げたんだって。それに、新しい肥料を使うと、もっと作物が育つらしいよ!」

「ふふ、とてもよく学びましたね。えらいわ」

 その様子を見ていたアルトが、穏やかに口を開く。

「しかしキクコ。フロンティアの剣の稽古だが……今でも自分で見ているのか?」

「一応は。でも、そろそろ限界ね」

 キクコは小さく肩をすくめた。

「基礎を教えるには、私の我流では不十分よ。だから伯父様にお願いしたでしょう? 王都から、きちんとした剣の師を招いてほしいと」

「確かに頼まれていたな。王国騎士団にも話を通しておいた」

 キクコは、その言葉に小さく頷く。

「ええ。ただ……誰が来るかまでは聞いていなかったけれど」

 その直後、門番が一歩前に出て報告する。

「失礼いたします。王都より、ジャン・リヒター様がお見えです」

「ジャン・リヒター……?」

 キクコがわずかに目を見開く。
 その名は、当然知っていた。知らぬ者の方が少ない、王国一の騎士。

「……まさか、ね」

 呟く間もなく、門の向こうから長身の男が姿を現した。
 漆黒のマントをまとい、背筋を正して歩くその姿は、揺るぎない鍛錬の証そのものだった。

「ジャン・リヒター、参上つかまつりました」

 堂々とした名乗り。鋭く整った眉と瞳。
 彼の視線がキクコに向けられた瞬間、ほんの一瞬、表情が揺らぐ。

「……あの方は?」

 問いに、アルトが淡々と答える。

「我が姪、キクコ・イソファガスだ」

「はじめまして。キクコと申します。十七歳ですわ」

「じゅ、十七……!?」

 露骨な動揺に、キクコは内心で苦笑する。

(なるほど……伯父様、まさか“彼”が来るとは思っていなかったわ)

 だが表情には出さず、静かに本題へと移る。

「リヒター様。これまで私がフロンティアに剣を教えておりましたが、所詮は素人の我流です。基礎から、正しい剣を教えていただけますか?」

 ジャンは一瞬戸惑いながらも、すぐに姿勢を正し、深く一礼した。

「は、はい! 剣の師として、全力を尽くさせていただきます、キクコ様」

 こうして、キクコの知らぬところで結ばれていた“剣の縁”は、確かに動き出した。

 それが、フロンティアの未来だけでなく、イソファガス家そのものに新たな波をもたらすことになるとも知らずに。
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