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第5話 静かにしているだけなのに、評価が上がる件
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第5話 静かにしているだけなのに、評価が上がる件
午前中の陽射しが心地よく、私は自室のソファで編みかけの刺繍を膝に乗せていた。
集中すると時間を忘れるのが、昔からの癖だ。
「……あら、もうこんな時間?」
窓の外を見ると、庭では使用人たちがやけに慌ただしく動いている。
何かあったのだろうか。
そこへ、マーガレットが少し緊張した面持ちで入ってきた。
「お嬢様、失礼いたします」
「どうしたの?」
「その……領地のぶどう園から、報告が上がりまして」
「報告?」
私は首をかしげる。
ここ数日、私は一度も指示を出していない。
「責任者が、“お嬢様のご意向を察して”作業工程を見直したそうです」
「……私、何も言っていないけれど?」
「はい。ですが」
マーガレットは言いづらそうに続けた。
「『何も言わないということは、現状を最大限改善せよという無言の指示だ』と……」
思わず、手が止まった。
(え? そんな深読み、必要?)
「結果として、無駄な工程を減らし、収穫時期を少し早めることに成功したそうで……品質も向上したと」
「……そう」
私は曖昧に相槌を打つ。
正直に言えば、
完全に偶然だ。
私はただ、関わりたくなかっただけなのに。
「それと……商会の方でも」
「まだあるの?」
「はい。アーデルハイド家が静観していることで、他家が勝手な動きを取れなくなり、価格交渉が有利に進んでいると……」
私は刺繍枠を置き、天井を見上げた。
(なにそれ。何もしないほうが、うまくいくってどういう理屈?)
前世では、何もしなければ「やる気がない」と叱られた。
黙っていれば「意見を言え」と詰められた。
なのにこの世界では――
「……レイラ様」
マーガレットが、少し尊敬の混じった視線を向けてくる。
「皆、“さすがは公爵令嬢”と申しております」
「買いかぶりです」
即答した。
「私は、本当に何も考えていません」
むしろ考えないようにしている。
午後、父に呼ばれて執務室へ向かうと、そこには見慣れない書類の山が積まれていた。
「レイラ……これは説明してくれるか?」
「私も説明してほしいです」
父は苦笑する。
「お前が動かないことで、各部署が自主的に改善案を出し始めた」
「……それは、良いことなのでは?」
「良すぎるのが問題だ」
父は一枚の書類を示した。
「“アーデルハイド家は、あえて介入しないことで全体最適を図っている”
――そんな評価が出回っている」
私は沈黙した。
(そんな高度なこと、してない)
「お前はどうしたい?」
父の問いに、私は迷わず答える。
「今まで通りで」
「……変える気はないか」
「ありません」
きっぱり言うと、父は諦めたように頷いた。
「分かった。なら、こちらも無理に方向づけはしない」
「ありがとうございます」
執務室を出ると、私は小さく息を吐いた。
何もしない。
口を出さない。
無理をしない。
それだけで、勝手に評価が積み上がっていく。
(……世の中、不思議ね)
その日の夜、私はベッドに潜り込み、心から思った。
「評価なんて、ほどほどでいいのに」
――だが、その“ほどほど”を、周囲が許すはずもなかった。
午前中の陽射しが心地よく、私は自室のソファで編みかけの刺繍を膝に乗せていた。
集中すると時間を忘れるのが、昔からの癖だ。
「……あら、もうこんな時間?」
窓の外を見ると、庭では使用人たちがやけに慌ただしく動いている。
何かあったのだろうか。
そこへ、マーガレットが少し緊張した面持ちで入ってきた。
「お嬢様、失礼いたします」
「どうしたの?」
「その……領地のぶどう園から、報告が上がりまして」
「報告?」
私は首をかしげる。
ここ数日、私は一度も指示を出していない。
「責任者が、“お嬢様のご意向を察して”作業工程を見直したそうです」
「……私、何も言っていないけれど?」
「はい。ですが」
マーガレットは言いづらそうに続けた。
「『何も言わないということは、現状を最大限改善せよという無言の指示だ』と……」
思わず、手が止まった。
(え? そんな深読み、必要?)
「結果として、無駄な工程を減らし、収穫時期を少し早めることに成功したそうで……品質も向上したと」
「……そう」
私は曖昧に相槌を打つ。
正直に言えば、
完全に偶然だ。
私はただ、関わりたくなかっただけなのに。
「それと……商会の方でも」
「まだあるの?」
「はい。アーデルハイド家が静観していることで、他家が勝手な動きを取れなくなり、価格交渉が有利に進んでいると……」
私は刺繍枠を置き、天井を見上げた。
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黙っていれば「意見を言え」と詰められた。
なのにこの世界では――
「……レイラ様」
マーガレットが、少し尊敬の混じった視線を向けてくる。
「皆、“さすがは公爵令嬢”と申しております」
「買いかぶりです」
即答した。
「私は、本当に何も考えていません」
むしろ考えないようにしている。
午後、父に呼ばれて執務室へ向かうと、そこには見慣れない書類の山が積まれていた。
「レイラ……これは説明してくれるか?」
「私も説明してほしいです」
父は苦笑する。
「お前が動かないことで、各部署が自主的に改善案を出し始めた」
「……それは、良いことなのでは?」
「良すぎるのが問題だ」
父は一枚の書類を示した。
「“アーデルハイド家は、あえて介入しないことで全体最適を図っている”
――そんな評価が出回っている」
私は沈黙した。
(そんな高度なこと、してない)
「お前はどうしたい?」
父の問いに、私は迷わず答える。
「今まで通りで」
「……変える気はないか」
「ありません」
きっぱり言うと、父は諦めたように頷いた。
「分かった。なら、こちらも無理に方向づけはしない」
「ありがとうございます」
執務室を出ると、私は小さく息を吐いた。
何もしない。
口を出さない。
無理をしない。
それだけで、勝手に評価が積み上がっていく。
(……世の中、不思議ね)
その日の夜、私はベッドに潜り込み、心から思った。
「評価なんて、ほどほどでいいのに」
――だが、その“ほどほど”を、周囲が許すはずもなかった。
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