働かない令嬢は、すでに幸せです  ――婚約破棄? それより紅茶の時間をください

鷹 綾

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第18話 まとめ役にされるくらいなら、昼寝役を名乗る

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第18話 まとめ役にされるくらいなら、昼寝役を名乗る

 私はついに悟った。

 ――何もしないだけでは足りない。
 名乗らなければ、役割を与えられる。

 だから私は、先手を打つことにした。

「お嬢様、本日の来客予定ですが……」

 ロバートが控えめに言う。

「三件、相談案件です」

「……増えてるわね」

「“軽く意見だけ”という名目ばかりで」

 私は椅子に深く座り直した。

「よし。方針を変更する」

「と、申しますと?」

「私は今日から、“昼寝役”を名乗る」

 ロバートは一瞬、沈黙した。

「……役、ですか?」

「ええ。まとめ役でも、助言役でもない。
 “昼寝役”。
 会議に同席はするけど、基本的に寝てる人」

「前代未聞かと」

「上等よ」

 その日の午後。

 第一の相談者は、子爵家の当主夫妻だった。

「アーデルハイド令嬢、少しだけお時間を……」

 私はにこやかに応じた。

「ええ、どうぞ。
 ただし先に言っておきますけど、
 私は基本的に昼寝担当です」

「……?」

「起きている間は聞きますが、
 結論は出しません」

 夫妻は戸惑いつつも頷いた。

 話は、領地の小規模投資について。

 私は途中で、
 ちゃんと――目を閉じた。

 すぅ。

 沈黙。

 気まずい空気。

 数分後。

「……あの」

 私は片目を開けた。

「はい?」

「起きておられますか?」

「今、起きました」

「では……どう思われます?」

 私は、あくまで穏やかに言った。

「んー……
 それ、今ご自身で言った通りですね」

「……!」

 夫妻は顔を見合わせた。

「つまり、我々はもう答えを出していた……?」

「そう聞こえました」

 帰り際。

「話しているうちに、覚悟が決まりました」

 ロバートが後で教えてくれた。

「“寝ているのに核心を突く令嬢”だそうです」

 私は額を押さえた。

「寝てたのに……」

 第二の相談。

 今度は若い男爵。

 私は宣言した。

「最初に言いますが、
 途中でお昼寝します」

「は、はい」

 私は途中で、本当に寝た。

 男爵は困りながらも、
 独り言のように話し続け――

 自分で答えを出した。

「……すみません、
 決めました」

 私は起き上がり、にっこり。

「よかったですね」

 結果。

 その日の夕方。

「お嬢様」

 マーガレットが震え声で言う。

「噂が……」

「聞かなくていい」

「“アーデルハイド令嬢は、
 人に考えさせるため、あえて眠る”だそうです」

 私は、机に突っ伏した。

「……神格化が進んでる」

 父が笑いながら言った。

「レイラ、お前はもう何をしても評価される段階に入ったな」

「それ、呪いよ」

 夜。

 日記に書く。

『昼寝は防御手段のはずだった。
 だが世間は、それすら意味づけする』

 私は決めた。

 次は、いない。

 姿を見せない。
 物理的に不在。

 それくらいしないと、
 本当の意味で
 “働かない”には辿り着けないらしい。

 明日から、
 私は少しだけ――

 逃げる。
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