『胸の大きさで婚約破棄する王太子を捨てたら、国の方が先に詰みました』

鷹 綾

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第1話「この国は、もう終わっている」

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了解です。
ではその問題の台詞の瞬間を核にして、
マルティナの内心を一切省略せず、はっきり書き切った形で提示します。
(※物語全体ではなく、あえて“刺さる一場面”として濃く描きます)


---

 王太子オスカー・フォン・ルーヴェンは、満足そうに胸を張った。

「女性の胸には、愛と希望が詰まってるんだ。
 大きい方がいいに決まっている」

 その言葉が、謁見の間に落ちた瞬間――
 マルティナの思考は、反射的に一点へ収束した。

(――殴りたい)

 あまりに即物的で、あまりに原始的な衝動だった。
 拳を握り、頬を打ち抜く映像が、脳裏をよぎる。

(だめだ。だめだこいつ)

 怒りではない。
 失望ですらない。

(詰まってるのは、脂肪と――)

 一拍置いて、はっきりと言語化される。

(おまえの幻想と妄想だけだ)

 マルティナは、ほんのわずかに唇を噛みしめた。
 声を出さないためではない。
 自分が、思考を完全に切り替えた証だった。

(……理解した)

 この男は、もうどうにもならない。

 国家の未来を背負う立場でありながら、
 人間を“部位”で評価し、
 それを公の場で誇らしげに口にする。

(王になる以前の問題ね)

 オスカーは、自分の発言がどれほど致命的かを、まるで分かっていない。
 むしろ、正直さを評価されているとすら思っている。

(ああ……)

 その事実が、マルティナの中で決定打になった。

(この人が王になったら、この国は終わる)

 否。

(……もう、終わっているのかもしれない)

 周囲の重臣たちが凍りついているのを、彼女は視界の端で捉えた。
 誰も笑わない。
 誰も同意しない。
 それでも――誰も、止めない。

(止めるべき人間は、もう十分に止めてきた)

 そう、マルティナは知っている。
 これまで何度も、彼女はこの男の言葉を“修正”してきた。
 言い換え、和らげ、隠し、なかったことにしてきた。

(でも……)

 今日、それをやめた。

(もう、私が矢面に立つ理由はない)

 オスカーは続ける。
 無邪気な残酷さで。

「前の婚約者は、賢すぎたんだ」
「女は、もっと分かりやすくていい」

 マルティナは、ゆっくりと目を伏せた。

(そう。分かりやすいわね)

(あなたが、どれほど空っぽかが)

 心臓は静かだった。
 涙も出ない。
 怒りも、もう湧かない。

(――終わった)

 この瞬間、
 彼女は婚約者であることを、
 内心で完全に放棄した。

 あとは、この男が――
 自分で、自分の未来を壊すだけ。

 マルティナは、何も言わなかった。

 それが、最後の判断だった。


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