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第26話「すべては、正式に処理される」
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第26話「すべては、正式に処理される」
朝の王城は、異様に静かだった。
ざわめきがないわけではない。
むしろ、その逆だ。
誰もが知っているが、誰も口にしない。
そんな沈黙が、城全体を覆っていた。
フローラ・エヴァンスの拘束。
それは、
夜明け前には、
すでに確定事項となっていた。
「……正式に、
身柄は預かりました」
近衛騎士団長の報告を、
オスカー・フォン・ルーヴェンは
黙って聞いていた。
机の上には、
書類の山。
拘束理由。
身元調査の結果。
医師の最終報告。
すべて、
“感情を排した文言”で
整えられている。
それが、
何よりも残酷だった。
「抵抗は?」
「ありません」
「取り乱しは?」
「……いえ」
騎士団長は、
一瞬だけ言葉を選び、
続けた。
「非常に、
落ち着いていました」
オスカーは、
小さく息を吐いた。
(最後まで、
演じ切るつもりか)
だが、
もう関係ない。
「拘禁場所は?」
「王都地下、
第二区画」
逃走も、
外部接触も、
不可能な場所。
それで十分だった。
「……分かった」
それだけ答え、
オスカーは、
騎士団長を下がらせる。
扉が閉まり、
一人になる。
その瞬間、
彼の肩から、
目に見えない何かが、
崩れ落ちた。
――婚約。
――理想。
――自分は、選ぶ側だという幻想。
「……笑えるな」
誰に聞かせるでもなく、
呟く。
「操られていたのは、
国じゃない」
「俺だ」
だが。
王太子である以上、
“私的後悔”で
終わることは許されない。
この件は、
国家案件だ。
午前。
緊急評議会が
招集された。
参加者は、
必要最低限。
国王。
重臣。
法務官。
医師代表。
そして――
オスカー。
議題は一つ。
「フローラ・エヴァンスの身分詐称および国家欺罔について」
国王は、
厳しい表情で
報告を聞いていた。
医師の説明が、
淡々と続く。
「……医学的に見て、
人間女性ではありません」
「身体構造が、
人工的に調整されている」
「生殖能力の有無以前に、
前提が異なります」
ざわめき。
だが、
誰も否定しない。
すでに、
確認は済んでいる。
「つまり」
法務官が、
結論を口にする。
「婚約自体が、
成立要件を
満たしていなかった」
その瞬間。
オスカーの胸に、
鈍い痛みが走る。
(……当然だ)
だが、
“当然”という言葉が、
これほど重いとは
思わなかった。
「加えて」
法務官は続ける。
「王太子の判断を
意図的に誘導し、
国家政策に
影響を与えた」
「これは、
明確な
国家欺罔罪です」
国王は、
ゆっくりと頷いた。
「拘禁は、
妥当だ」
その一言で、
すべてが
決まった。
――フローラ・エヴァンスは、
国家犯罪者となった。
一方。
オスカーに向けられる
視線も、
決して優しくはない。
だが。
誰も、
彼を庇わない代わりに、
誰も免罪もしなかった。
それが、
何よりの裁きだった。
「……王太子」
国王が、
静かに言う。
「お前は、
何を学んだ?」
逃げ場はない。
オスカーは、
立ち上がり、
深く頭を下げた。
「……自分が、
判断することを
放棄していたと」
声は、
震えていない。
「見たいものだけを見て、
聞きたい言葉だけを
選んでいた」
「その結果、
国を、
危険に晒しました」
沈黙。
国王は、
しばらく彼を見つめ、
やがて言った。
「その自覚があるなら、
今後の処遇は、
話が早い」
それは、
温情ではない。
準備だった。
一方。
地下拘禁区画。
石壁に囲まれた
小さな部屋で、
フローラ・エヴァンスは
一人、座っていた。
拘束具は、
必要最低限。
逃げる意思が
ないからだ。
「……公的、か」
小さく、
呟く。
「私的に終わる方が、
美しかったのに」
誰に聞かせるでもなく、
笑う。
だが、
その笑みには、
苛立ちが混じっていた。
(最後まで、
玩具のままでは
いられなかった)
それが、
彼女にとっての
敗北だった。
一方。
オスカーは、
評議会を終え、
廊下を歩いていた。
その背中は、
以前より、
明らかに重い。
だが。
逃げてはいない。
「……マルティナ」
心の中で、
その名を呼ぶ。
彼女が、
何も言わずに
距離を取った理由。
今なら、
分かる。
(巻き込まなかったんだ)
無知な自分を、
そして――
この国を。
フローラ・エヴァンスは、
正式に拘禁された。
婚約は、
法的に無効。
だが。
物語は、
まだ終わらない。
次に待つのは、
責任の所在。
そして――
“本当の婚約破棄”だ。
朝の王城は、異様に静かだった。
ざわめきがないわけではない。
むしろ、その逆だ。
誰もが知っているが、誰も口にしない。
そんな沈黙が、城全体を覆っていた。
フローラ・エヴァンスの拘束。
それは、
夜明け前には、
すでに確定事項となっていた。
「……正式に、
身柄は預かりました」
近衛騎士団長の報告を、
オスカー・フォン・ルーヴェンは
黙って聞いていた。
机の上には、
書類の山。
拘束理由。
身元調査の結果。
医師の最終報告。
すべて、
“感情を排した文言”で
整えられている。
それが、
何よりも残酷だった。
「抵抗は?」
「ありません」
「取り乱しは?」
「……いえ」
騎士団長は、
一瞬だけ言葉を選び、
続けた。
「非常に、
落ち着いていました」
オスカーは、
小さく息を吐いた。
(最後まで、
演じ切るつもりか)
だが、
もう関係ない。
「拘禁場所は?」
「王都地下、
第二区画」
逃走も、
外部接触も、
不可能な場所。
それで十分だった。
「……分かった」
それだけ答え、
オスカーは、
騎士団長を下がらせる。
扉が閉まり、
一人になる。
その瞬間、
彼の肩から、
目に見えない何かが、
崩れ落ちた。
――婚約。
――理想。
――自分は、選ぶ側だという幻想。
「……笑えるな」
誰に聞かせるでもなく、
呟く。
「操られていたのは、
国じゃない」
「俺だ」
だが。
王太子である以上、
“私的後悔”で
終わることは許されない。
この件は、
国家案件だ。
午前。
緊急評議会が
招集された。
参加者は、
必要最低限。
国王。
重臣。
法務官。
医師代表。
そして――
オスカー。
議題は一つ。
「フローラ・エヴァンスの身分詐称および国家欺罔について」
国王は、
厳しい表情で
報告を聞いていた。
医師の説明が、
淡々と続く。
「……医学的に見て、
人間女性ではありません」
「身体構造が、
人工的に調整されている」
「生殖能力の有無以前に、
前提が異なります」
ざわめき。
だが、
誰も否定しない。
すでに、
確認は済んでいる。
「つまり」
法務官が、
結論を口にする。
「婚約自体が、
成立要件を
満たしていなかった」
その瞬間。
オスカーの胸に、
鈍い痛みが走る。
(……当然だ)
だが、
“当然”という言葉が、
これほど重いとは
思わなかった。
「加えて」
法務官は続ける。
「王太子の判断を
意図的に誘導し、
国家政策に
影響を与えた」
「これは、
明確な
国家欺罔罪です」
国王は、
ゆっくりと頷いた。
「拘禁は、
妥当だ」
その一言で、
すべてが
決まった。
――フローラ・エヴァンスは、
国家犯罪者となった。
一方。
オスカーに向けられる
視線も、
決して優しくはない。
だが。
誰も、
彼を庇わない代わりに、
誰も免罪もしなかった。
それが、
何よりの裁きだった。
「……王太子」
国王が、
静かに言う。
「お前は、
何を学んだ?」
逃げ場はない。
オスカーは、
立ち上がり、
深く頭を下げた。
「……自分が、
判断することを
放棄していたと」
声は、
震えていない。
「見たいものだけを見て、
聞きたい言葉だけを
選んでいた」
「その結果、
国を、
危険に晒しました」
沈黙。
国王は、
しばらく彼を見つめ、
やがて言った。
「その自覚があるなら、
今後の処遇は、
話が早い」
それは、
温情ではない。
準備だった。
一方。
地下拘禁区画。
石壁に囲まれた
小さな部屋で、
フローラ・エヴァンスは
一人、座っていた。
拘束具は、
必要最低限。
逃げる意思が
ないからだ。
「……公的、か」
小さく、
呟く。
「私的に終わる方が、
美しかったのに」
誰に聞かせるでもなく、
笑う。
だが、
その笑みには、
苛立ちが混じっていた。
(最後まで、
玩具のままでは
いられなかった)
それが、
彼女にとっての
敗北だった。
一方。
オスカーは、
評議会を終え、
廊下を歩いていた。
その背中は、
以前より、
明らかに重い。
だが。
逃げてはいない。
「……マルティナ」
心の中で、
その名を呼ぶ。
彼女が、
何も言わずに
距離を取った理由。
今なら、
分かる。
(巻き込まなかったんだ)
無知な自分を、
そして――
この国を。
フローラ・エヴァンスは、
正式に拘禁された。
婚約は、
法的に無効。
だが。
物語は、
まだ終わらない。
次に待つのは、
責任の所在。
そして――
“本当の婚約破棄”だ。
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