1 / 38
第1話 断罪の夜、すべてが壊れた
しおりを挟む
第1話 断罪の夜、すべてが壊れた
王立学園の大広間は、眩いほどの光に満ちていた。
卒業パーティー――貴族の子女たちが社交界へ正式に踏み出す、晴れの舞台。楽団の奏でる優雅な旋律、きらめくシャンデリア、色とりどりのドレスに包まれた令嬢たちの笑顔。
その中心に、私は立っていた。
エレナ・フォン・ローレンツ。
公爵家の令嬢であり、そして――王太子クリストフの婚約者。
「……エレナ、少し黙っていてくれ」
隣に立つクリストフは、私の顔を一度も見なかった。
その声は冷たく、どこか苛立ちを含んでいる。
「殿下?」
不安に胸がざわつく。
この夜、彼はずっと私を避けていた。ダンスも断られ、声をかけても素っ気ない返事ばかり。それでも私は、忙しいのだろうと自分に言い聞かせてきたのに。
次の瞬間――。
「皆に、伝えることがある」
クリストフが一歩前へ出て、会場全体に響く声で宣言した。
「本日をもって、エレナ・フォン・ローレンツとの婚約を破棄する」
――時間が、止まった。
「……え?」
誰かの息を呑む音。
ざわり、と波打つように広がる動揺。
私は、言葉の意味を理解できなかった。ただ、頭の中が真っ白になっていく。
「理由は簡単だ。彼女は、王太子妃にふさわしくない」
クリストフはそう言い切り、そして――私の横をすり抜けるように歩き、会場の端にいた少女の肩を抱いた。
「私が愛しているのは、このミリアだ」
男爵令嬢ミリア・フォン・レインハルト。
私の義妹。
純白のドレスに身を包んだ彼女は、潤んだ瞳で私を見つめ、かすかに唇を歪めた。
――ああ、この表情。何度も見てきた。
「ミリアは聖女の力を持つ、特別な存在だ。彼女こそ、王国を導くに相応しい」
「そ、そんな……」
声が震える。
周囲から向けられる視線が、突き刺さるように痛い。
「殿下に尽くしてきたのは、エレナ様でしょう?」 「まさか、聖女様をいじめていたなんて……」 「やはり、あの方が“悪役令嬢”だったのね」
囁き声が、次第に大きくなっていく。
ミリアは小さく首を振り、健気な仕草で言った。
「いいのです……エレナお姉様は、何も悪くありません。ただ、私の存在が……」
その瞬間、会場の空気が決定的に変わった。
「見苦しいぞ、エレナ」
クリストフの冷たい声。
「これ以上、ミリアを傷つけるな。お前は地味で、無能で、何一つ取り柄がない。王太子妃という座に胡坐をかき、努力もしなかった」
違う。
そう叫びたかった。
学園の成績。礼儀作法。社交。
すべて必死に学び、耐え、支えてきた。殿下のわがままも、浮名も、すべて飲み込んできたのに。
けれど、声は出なかった。
「この場をもって、お前との関係は終わりだ」
断罪の言葉が下された瞬間、胸の奥で何かが音を立てて崩れ落ちた。
視界が揺れる。
床が、遠い。
「……あ……」
膝から力が抜け、そのまま倒れ込む。
――暗闇。
その中で、突然、鮮明な映像が流れ込んできた。
蛍光灯。パソコン。終電間際のオフィス。
書類に埋もれ、疲れ切った自分。
「……そうだ」
私は、思い出してしまった。
ここは現実ではない。
この世界は、かつて私が遊んだ乙女ゲーム――
『ロイヤル・エタニティ』の世界。
そして、エレナ・フォン・ローレンツは――
婚約破棄の末、処刑される悪役令嬢だった。
――嫌。
そんな結末、受け入れられるわけがない。
その瞬間、胸の奥が熱く燃え上がった。
長い間、固く閉ざされていた何かが、音を立てて解けていく。
(……生きる)
(今度こそ、私の人生を)
暗闇の中、私は確かに誓った。
この婚約破棄は、終わりじゃない。
――すべてを取り戻す、始まりなのだと。
王立学園の大広間は、眩いほどの光に満ちていた。
卒業パーティー――貴族の子女たちが社交界へ正式に踏み出す、晴れの舞台。楽団の奏でる優雅な旋律、きらめくシャンデリア、色とりどりのドレスに包まれた令嬢たちの笑顔。
その中心に、私は立っていた。
エレナ・フォン・ローレンツ。
公爵家の令嬢であり、そして――王太子クリストフの婚約者。
「……エレナ、少し黙っていてくれ」
隣に立つクリストフは、私の顔を一度も見なかった。
その声は冷たく、どこか苛立ちを含んでいる。
「殿下?」
不安に胸がざわつく。
この夜、彼はずっと私を避けていた。ダンスも断られ、声をかけても素っ気ない返事ばかり。それでも私は、忙しいのだろうと自分に言い聞かせてきたのに。
次の瞬間――。
「皆に、伝えることがある」
クリストフが一歩前へ出て、会場全体に響く声で宣言した。
「本日をもって、エレナ・フォン・ローレンツとの婚約を破棄する」
――時間が、止まった。
「……え?」
誰かの息を呑む音。
ざわり、と波打つように広がる動揺。
私は、言葉の意味を理解できなかった。ただ、頭の中が真っ白になっていく。
「理由は簡単だ。彼女は、王太子妃にふさわしくない」
クリストフはそう言い切り、そして――私の横をすり抜けるように歩き、会場の端にいた少女の肩を抱いた。
「私が愛しているのは、このミリアだ」
男爵令嬢ミリア・フォン・レインハルト。
私の義妹。
純白のドレスに身を包んだ彼女は、潤んだ瞳で私を見つめ、かすかに唇を歪めた。
――ああ、この表情。何度も見てきた。
「ミリアは聖女の力を持つ、特別な存在だ。彼女こそ、王国を導くに相応しい」
「そ、そんな……」
声が震える。
周囲から向けられる視線が、突き刺さるように痛い。
「殿下に尽くしてきたのは、エレナ様でしょう?」 「まさか、聖女様をいじめていたなんて……」 「やはり、あの方が“悪役令嬢”だったのね」
囁き声が、次第に大きくなっていく。
ミリアは小さく首を振り、健気な仕草で言った。
「いいのです……エレナお姉様は、何も悪くありません。ただ、私の存在が……」
その瞬間、会場の空気が決定的に変わった。
「見苦しいぞ、エレナ」
クリストフの冷たい声。
「これ以上、ミリアを傷つけるな。お前は地味で、無能で、何一つ取り柄がない。王太子妃という座に胡坐をかき、努力もしなかった」
違う。
そう叫びたかった。
学園の成績。礼儀作法。社交。
すべて必死に学び、耐え、支えてきた。殿下のわがままも、浮名も、すべて飲み込んできたのに。
けれど、声は出なかった。
「この場をもって、お前との関係は終わりだ」
断罪の言葉が下された瞬間、胸の奥で何かが音を立てて崩れ落ちた。
視界が揺れる。
床が、遠い。
「……あ……」
膝から力が抜け、そのまま倒れ込む。
――暗闇。
その中で、突然、鮮明な映像が流れ込んできた。
蛍光灯。パソコン。終電間際のオフィス。
書類に埋もれ、疲れ切った自分。
「……そうだ」
私は、思い出してしまった。
ここは現実ではない。
この世界は、かつて私が遊んだ乙女ゲーム――
『ロイヤル・エタニティ』の世界。
そして、エレナ・フォン・ローレンツは――
婚約破棄の末、処刑される悪役令嬢だった。
――嫌。
そんな結末、受け入れられるわけがない。
その瞬間、胸の奥が熱く燃え上がった。
長い間、固く閉ざされていた何かが、音を立てて解けていく。
(……生きる)
(今度こそ、私の人生を)
暗闇の中、私は確かに誓った。
この婚約破棄は、終わりじゃない。
――すべてを取り戻す、始まりなのだと。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?
白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。
王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。
だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。
順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。
そこから始まる物語である。
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
10日後に婚約破棄される公爵令嬢
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。
「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」
これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる