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第15話 静かな日常に、揺れる兆し
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第15話 静かな日常に、揺れる兆し
アルヴェルでの日々は、再び静けさを取り戻していた。
ギルドへ行き、依頼を受け、働き、宿へ戻る。
特別な出来事はない。
少なくとも、表向きは。
(……平穏すぎるのも、逆に不安ね)
私は、薬草採取の依頼を終え、森から戻る途中でそう思った。
最近は、騎士団の姿も見かけなくなった。
ルーカスも、それ以降は現れていない。
――まるで、嵐の前の凪。
ギルドに依頼品を提出すると、赤毛の受付嬢がちらりと私を見る。
「ねえ、エレナ」
「はい?」
「最近、妙な問い合わせが増えてるの」
声を落とし、彼女は続けた。
「“質のいい回復薬を作る冒険者がいる”って。
商人ギルドからも、名前を聞かれたわ」
胸の奥が、静かに警鐘を鳴らす。
(……やっぱり)
品質を落としたつもりでも、
“基準より少し良い”という事実は消せない。
「私は、ただの冒険者です」
「知ってるわ。でも、世の中って、そういうの放っておかないのよ」
彼女は、ため息混じりに言った。
「気をつけなさい。
名が広まると、いいことばかりじゃない」
「……ありがとうございます」
私は、深く頭を下げた。
忠告は、善意だ。
だからこそ、重い。
その日の帰り道、街の広場で人だかりができていた。
「何だろう……?」
近づいてみると、商人と冒険者が言い争っている。
「だから言っただろ! この薬は効きが悪い!」 「仕方ないだろ、今はどこも品薄なんだ!」
床に転がる、濁った回復薬の瓶。
それを見た瞬間、私は息を呑んだ。
(……劣化してる)
保存方法が悪い。
材料の質も、明らかに落ちている。
「……怪我人が出る」
思わず、呟く。
けれど、同時に思い出す。
(関われば、目立つ)
しばらく逡巡した末、
私は一歩、前へ出た。
「……その薬、使わない方がいいです」
一斉に、視線が集まる。
「なんだ、嬢ちゃん?」 「冒険者か?」
「成分が分離しています。
この状態で使うと、回復どころか悪化します」
ざわ、と周囲がざわめく。
「……本当か?」
商人が、半信半疑で瓶を見る。
「信じるかどうかは、お任せします。
でも、命が関わるなら……」
それ以上は、言わなかった。
沈黙のあと、年配の冒険者が口を開く。
「……この娘の言う通りだ。
俺も、最近この薬で痛い目を見た」
空気が、変わった。
商人は舌打ちし、瓶を回収する。
「……ちっ。分かったよ」
騒ぎは、それで収まった。
私は、何事もなかったかのように、その場を離れる。
――けれど。
背中に、いくつもの視線を感じた。
(……やってしまった)
正しいことをした。
それでも、目立った。
宿へ戻り、扉を閉めた瞬間、深く息を吐く。
「……簡単には、いかないわね」
隠れて生きる。
でも、誰かが傷つくのを見過ごすのは――。
胸の奥で、力が静かに揺れた。
(……選択は、もう始まってる)
何もしないことも、選択。
手を伸ばすことも、選択。
処刑エンドを避けるための人生は、
ただ怯えて隠れるだけでは、成り立たない。
私は、ベッドに腰を下ろし、両手を見つめた。
「……次は、もっと慎重に」
けれど同時に、
決して引き返さないとも、心の奥で誓っていた。
静かな日常は、
もう少しで――確実に、揺れ始める。
アルヴェルでの日々は、再び静けさを取り戻していた。
ギルドへ行き、依頼を受け、働き、宿へ戻る。
特別な出来事はない。
少なくとも、表向きは。
(……平穏すぎるのも、逆に不安ね)
私は、薬草採取の依頼を終え、森から戻る途中でそう思った。
最近は、騎士団の姿も見かけなくなった。
ルーカスも、それ以降は現れていない。
――まるで、嵐の前の凪。
ギルドに依頼品を提出すると、赤毛の受付嬢がちらりと私を見る。
「ねえ、エレナ」
「はい?」
「最近、妙な問い合わせが増えてるの」
声を落とし、彼女は続けた。
「“質のいい回復薬を作る冒険者がいる”って。
商人ギルドからも、名前を聞かれたわ」
胸の奥が、静かに警鐘を鳴らす。
(……やっぱり)
品質を落としたつもりでも、
“基準より少し良い”という事実は消せない。
「私は、ただの冒険者です」
「知ってるわ。でも、世の中って、そういうの放っておかないのよ」
彼女は、ため息混じりに言った。
「気をつけなさい。
名が広まると、いいことばかりじゃない」
「……ありがとうございます」
私は、深く頭を下げた。
忠告は、善意だ。
だからこそ、重い。
その日の帰り道、街の広場で人だかりができていた。
「何だろう……?」
近づいてみると、商人と冒険者が言い争っている。
「だから言っただろ! この薬は効きが悪い!」 「仕方ないだろ、今はどこも品薄なんだ!」
床に転がる、濁った回復薬の瓶。
それを見た瞬間、私は息を呑んだ。
(……劣化してる)
保存方法が悪い。
材料の質も、明らかに落ちている。
「……怪我人が出る」
思わず、呟く。
けれど、同時に思い出す。
(関われば、目立つ)
しばらく逡巡した末、
私は一歩、前へ出た。
「……その薬、使わない方がいいです」
一斉に、視線が集まる。
「なんだ、嬢ちゃん?」 「冒険者か?」
「成分が分離しています。
この状態で使うと、回復どころか悪化します」
ざわ、と周囲がざわめく。
「……本当か?」
商人が、半信半疑で瓶を見る。
「信じるかどうかは、お任せします。
でも、命が関わるなら……」
それ以上は、言わなかった。
沈黙のあと、年配の冒険者が口を開く。
「……この娘の言う通りだ。
俺も、最近この薬で痛い目を見た」
空気が、変わった。
商人は舌打ちし、瓶を回収する。
「……ちっ。分かったよ」
騒ぎは、それで収まった。
私は、何事もなかったかのように、その場を離れる。
――けれど。
背中に、いくつもの視線を感じた。
(……やってしまった)
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それでも、目立った。
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「……簡単には、いかないわね」
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何もしないことも、選択。
手を伸ばすことも、選択。
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ただ怯えて隠れるだけでは、成り立たない。
私は、ベッドに腰を下ろし、両手を見つめた。
「……次は、もっと慎重に」
けれど同時に、
決して引き返さないとも、心の奥で誓っていた。
静かな日常は、
もう少しで――確実に、揺れ始める。
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