婚約破棄された悪役令嬢ですが、英雄にも聖女にもなりません

鷹 綾

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第40話 それでも、明日は来る

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第40話 それでも、明日は来る

 朝。

 いつもと同じ時間に、
 同じ鐘の音が鳴る。

 窓を開けると、
 冷たい空気と、
 パンの焼ける匂いが流れ込んできた。

 ――終わったのだ、と
 その時、はっきり分かった。

 特別な報告はない。
 王都からの使者も来ない。
 誰かが私を呼び止めることもない。

 街は、
 ただ回っている。

 ギルドに顔を出すと、
 冒険者たちは依頼を眺め、
 治療室では治療師が淡々と仕事をしている。

 正規回復薬と簡易回復薬は、
 並んで棚に置かれていた。

 どちらが上でも、
 どちらが正義でもない。

「今日は、どっちだ?」

「軽傷だ。
 簡易でいい」

 それだけの会話。

 それだけで、
 すべてが伝わる。

(……よかった)

 私は、心の中でそう呟いた。

 誰かが決めた正解ではない。
 誰かを生贄にした秩序でもない。

 使う人が選び、
 失敗すれば見直し、
 それでも続く形。

 それが、残った。

 昼前、
 赤毛の受付の女性が、帳簿を閉じながら言った。

「ねえ」

「はい」

「この一件、
 名前を付けるとしたら、
 何になると思う?」

 私は、少し考えてから答えた。

「……付きません」

「即答?」

「ええ」

 私は、微笑む。

「名前を付けた瞬間、
 誰かの物になりますから」

 彼女は、一瞬きょとんとして、
 それから笑った。

「……あなたらしいわ」

 夕方、
 街外れの丘に立ち、
 私は空を見上げる。

 前世の私は、
 常に“評価”と“成果”に追われていた。

 結果を出さなければ切られ、
 責任を取らされ、
 最後は壊れた。

 この世界で思い出した
 処刑エンドも、
 同じ構造だった。

 正しすぎた者が、
 一人で背負わされ、
 切られる。

(……もう、繰り返さない)

 私は、そう決めた。

 力は振るわない。
 象徴にもならない。
 英雄譚にもならない。

 でも――
 明日が来る形は、
 確かに守った。

 夜、宿の部屋。

 私は、最後にノートを開いた。

 そこに、短く書く。

『処刑エンド回避
 →成功
 理由:
 正しさを掲げなかった
 責任を独占しなかった
 続けられる形を選んだ』

 ペンを置き、
 ノートを閉じる。

 もう、書き足すことはない。

 灯りを消し、
 ベッドに横になる。

 外では、
 誰かの笑い声と、
 遠くの足音。

 この街は、
 今日も生きている。

「……それでいい」

 小さく呟き、
 目を閉じた。

 英雄はいない。
 奇跡も語られない。

 それでも――
 明日は、ちゃんと来る。

 それが、
 私が選んだ結末だった。
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