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第二十八話 見えない敵
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第二十八話 見えない敵
告示の翌日、王都は落ち着きを取り戻した。
だが、それは安心ではない。
警戒が始まった静けさだった。
「……表に出ていた声は、止まりました」
マティアスが報告する。
「ですが、裏の動きが消えたわけではありません」
エヴァリーナは、頷いた。
「ええ。
声を上げる者は、見える敵です」
見えない敵ほど、厄介なものはない。
机の上には、匿名の書簡、取引の遅延報告、
理由の曖昧な契約見送りが並んでいた。
「条件を満たしているのに、
急に手を引く動きが出ています」
「圧力、ですわね」
彼女は、淡々と答える。
「正面からではなく、
“選択の自由”を装ったもの」
それは、脅しよりも巧妙だ。
責任の所在を、曖昧にする。
「……誰が、やっていると?」
マティアスの問いに、エヴァリーナは即答しなかった。
「特定の名前を出すのは、まだ早い」
視線を資料に落とす。
「ですが――
単独ではありません」
複数の商会。
複数の貴族。
利害は一致していないが、不満だけが共通している。
「秩序に適応できなかった者たちです」
同じ頃、王城でも似た報告が上がっていた。
「契約見送りが、連鎖しています」
「理由は?」
「“経営判断”とのことですが……」
ヴァルターは、静かに書類を閉じた。
「……見えない抵抗だな」
強くはない。
だが、確実に摩耗させる。
「殿下、介入を?」
「まだだ」
彼は、首を振る。
「彼女の線を、試している段階だ」
夜。
エヴァリーナは、書斎で一人、考えを整理していた。
「……正面から叩けば、敵を作ります」
独り言のように呟く。
「だが、放置すれば、秩序が削られる」
沈黙の圧力。
選択を奪わないふりをして、誘導する力。
「……なら」
彼女は、ペンを取り、紙に書き始めた。
――圧力を、可視化する。
翌日。
クロイツ公爵家から、新たな通知が出された。
『契約見送り・辞退に関する理由の提出を求める。
提出は任意だが、提出内容は匿名で集計し、公表する』
王都が、ざわめく。
「……理由を、集める?」
「強制じゃないのか」
「だが、公表されるのか」
選択は奪わない。
だが、沈黙も選択だと示す。
数日後、集計結果が出た。
『理由なし:四割』
『圧力を示唆:三割』
『条件理解不足:二割』
『その他:一割』
数字は、はっきりしていた。
「……思った以上に、出ましたね」
マティアスが言う。
「ええ」
エヴァリーナは、淡々と答える。
「見えない敵は、
数字にすると、案外小さい」
結果は、公表された。
名前は出ない。
だが、構造は見えた。
王城でも、その資料が共有される。
「圧力を感じた者が、三割……」
「これは、無視できない」
ヴァルターは、静かに結論づけた。
「……だが、敵はまだ見えない」
「見えなくていいのです」
彼女の言葉が、報告書に引用されていた。
『構造が見えれば、
個人は問題ではない』
夜。
エヴァリーナは、記録に一文を書き加えた。
――見えない敵は、
――構造として扱う。
それは、戦いではない。
消耗戦でもない。
秩序の耐久試験だ。
窓の外、王都の灯りは揺れていた。
だが、消えそうにはない。
見えない敵は、
もう“見えないまま”ではいられない。
エヴァリーナ・フォン・クロイツは、
静かに次の段階へ進んでいた。
――名を出さず、
責任だけを浮かび上がらせるために。
告示の翌日、王都は落ち着きを取り戻した。
だが、それは安心ではない。
警戒が始まった静けさだった。
「……表に出ていた声は、止まりました」
マティアスが報告する。
「ですが、裏の動きが消えたわけではありません」
エヴァリーナは、頷いた。
「ええ。
声を上げる者は、見える敵です」
見えない敵ほど、厄介なものはない。
机の上には、匿名の書簡、取引の遅延報告、
理由の曖昧な契約見送りが並んでいた。
「条件を満たしているのに、
急に手を引く動きが出ています」
「圧力、ですわね」
彼女は、淡々と答える。
「正面からではなく、
“選択の自由”を装ったもの」
それは、脅しよりも巧妙だ。
責任の所在を、曖昧にする。
「……誰が、やっていると?」
マティアスの問いに、エヴァリーナは即答しなかった。
「特定の名前を出すのは、まだ早い」
視線を資料に落とす。
「ですが――
単独ではありません」
複数の商会。
複数の貴族。
利害は一致していないが、不満だけが共通している。
「秩序に適応できなかった者たちです」
同じ頃、王城でも似た報告が上がっていた。
「契約見送りが、連鎖しています」
「理由は?」
「“経営判断”とのことですが……」
ヴァルターは、静かに書類を閉じた。
「……見えない抵抗だな」
強くはない。
だが、確実に摩耗させる。
「殿下、介入を?」
「まだだ」
彼は、首を振る。
「彼女の線を、試している段階だ」
夜。
エヴァリーナは、書斎で一人、考えを整理していた。
「……正面から叩けば、敵を作ります」
独り言のように呟く。
「だが、放置すれば、秩序が削られる」
沈黙の圧力。
選択を奪わないふりをして、誘導する力。
「……なら」
彼女は、ペンを取り、紙に書き始めた。
――圧力を、可視化する。
翌日。
クロイツ公爵家から、新たな通知が出された。
『契約見送り・辞退に関する理由の提出を求める。
提出は任意だが、提出内容は匿名で集計し、公表する』
王都が、ざわめく。
「……理由を、集める?」
「強制じゃないのか」
「だが、公表されるのか」
選択は奪わない。
だが、沈黙も選択だと示す。
数日後、集計結果が出た。
『理由なし:四割』
『圧力を示唆:三割』
『条件理解不足:二割』
『その他:一割』
数字は、はっきりしていた。
「……思った以上に、出ましたね」
マティアスが言う。
「ええ」
エヴァリーナは、淡々と答える。
「見えない敵は、
数字にすると、案外小さい」
結果は、公表された。
名前は出ない。
だが、構造は見えた。
王城でも、その資料が共有される。
「圧力を感じた者が、三割……」
「これは、無視できない」
ヴァルターは、静かに結論づけた。
「……だが、敵はまだ見えない」
「見えなくていいのです」
彼女の言葉が、報告書に引用されていた。
『構造が見えれば、
個人は問題ではない』
夜。
エヴァリーナは、記録に一文を書き加えた。
――見えない敵は、
――構造として扱う。
それは、戦いではない。
消耗戦でもない。
秩序の耐久試験だ。
窓の外、王都の灯りは揺れていた。
だが、消えそうにはない。
見えない敵は、
もう“見えないまま”ではいられない。
エヴァリーナ・フォン・クロイツは、
静かに次の段階へ進んでいた。
――名を出さず、
責任だけを浮かび上がらせるために。
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