婚約破棄?責任を取らされた王太子はホームレスになりました

鷹 綾

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第七話 宮廷入り

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第七話 宮廷入り

王城の大広間に、異質な静けさがあった。

列席した貴族たちは、声を潜めている。
ざわめきはある。だが祝福はない。

王太子が玉座の前に立つ。

隣には平民娘。

質素なドレスは、王城の装飾に埋もれている。
だが彼女は俯きながらも、確かに中央にいる。

「本日より」

王太子の声が響く。

「彼女を宮廷に迎える」

ざわり、と空気が揺れる。

「身分に囚われぬ新しい時代の象徴とする」

象徴。

言葉は大きい。

だが、契約は変わらない。

伯爵が一歩前に出る。

「殿下、宮廷入りは王家と諸侯の合意を前提とします」

王太子は即答する。

「私が許可した」

伯爵は沈黙する。

反論はできる。

だが今ここでぶつかれば、王太子は意地になる。

平民娘は小さく震える。

演技だ。

「私は……ただ、殿下のお傍に」

涙が滲む。

数名の若い貴族が動揺する。

王太子はその反応に満足する。

「異議は認めぬ」

決定は下された。

祝福なき宮廷入り。

大広間の端。

財務官が小声で囁く。

「これで、公爵は動く」

「動いている」

「だが、これで“理由”が整う」

理由。

恋は理由にならない。

だが宮廷入りは、政治だ。

平民娘は退場の途中、ちらりと周囲を見る。

冷たい視線。

軽蔑。

恐れ。

――ここまで来た。

引き返せない。

王太子は彼女の手を取る。

「怖いか」

「少しだけ」

彼女は微笑む。

「ですが、殿下がいれば」

王太子の胸は満たされる。

守るべき存在。

理解者。

彼は自分が正しいと確信する。

公爵領。

報告が届く。

「正式に宮廷入り」

執務室の空気が重くなる。

公爵は静かに言う。

「象徴だと?」

ヒロインは報告書を閉じる。

「ええ。象徴になりました」

「何の」

「契約軽視の象徴です」

宮廷入りは感情の問題ではない。

王家が“合意”を軽んじた証拠。

「再審査、第二段階へ」

ヒロインは淡々と指示する。

「軍需契約の優先順位を見直し。民生品は予定通り」

「王都の反応は」

「静観」

静観は支持ではない。

距離だ。

王城。

夜。

平民娘は与えられた部屋に立つ。

豪華だ。

だが孤立している。

侍女が囁く。

「皆様、表では何も申されません」

「裏では?」

「……」

沈黙が答え。

平民娘は鏡を見る。

「私は、勝ったのよね」

自分に問いかける。

答えはない。

王太子は祝宴を開く。

参加者は半分以下。

理由は体調不良、遠征準備、急務。

拒絶ではない。

だが、欠席は意思だ。

大広間の灯りは明るい。

だが席は空いている。

王太子は気づかない。

平民娘は気づく。

――これは、歓迎ではない。

だがもう退けない。

公爵領。

ヒロインは窓の外を見つめる。

「火は、表に出ました」

「どうする」

公爵が問う。

「風を送ります」

止めない。

煽らない。

ただ、風向きを変える。

宮廷入りは、恋の勝利ではない。

王家の重みを、自ら軽くした瞬間だった。
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