婚約破棄?責任を取らされた王太子はホームレスになりました

鷹 綾

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第六話 静かに

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第六話 静かに

公爵領の執務室は、朝の光に満ちていた。

机の上には王都からの報告書が並ぶ。

小麦三銅貨上昇。
塩二銅貨上昇。
軍需品、納期再調整。

いずれも小さい。

だが、同時に起きている。

公爵は低く言う。

「もう十分だ。供給を止めれば三日で王都は膝をつく」

その声に、怒りはない。

計算だ。

ヒロインは静かに首を振る。

「止めてはいけません」

公爵は娘を見る。

「なぜだ」

「止めれば、我らが“敵”になります」

今はまだ、敵ではない。

契約を見直しているだけ。

再審査しているだけ。

形式は守られている。

「殿下の愚行は、王家の愚行ではない」

ヒロインは続ける。

「そう見せる必要があります」

公爵は目を細める。

「お前は王家を救うのか」

「いいえ」

即答だった。

「王家が自ら崩れる時間を与えるだけです」

怒りは速い。

だが、速さは恐怖を生む。

恐怖は結束を生む。

「静かに進めます」

彼女は地図を指す。

王都への主要街道。
支路。
商会の倉庫。

「供給量は維持。ただし優先順位を調整」

「軍需は」

「契約通り。ただし書類確認を厳密に」

遅延は正当。

理由は常にある。

公爵はゆっくり頷く。

「王太子は?」

「焦ります」

「焦れば」

「誤ります」

それが狙いだ。

王城。

王太子は報告を受けていた。

「再審査? いつまでだ」

「明確な期限は……」

王太子は机を叩く。

「公爵は私に盾突く気か」

側近は視線を落とす。

盾突いてはいない。

契約通りだ。

その曖昧さが、王太子を苛立たせる。

平民娘は隣に立つ。

「殿下」

柔らかい声。

「皆様が、不安になっているのでは」

王太子は彼女を見る。

「私がいる」

彼女は微笑む。

「ええ、だからこそ」

彼を否定しない。

責めない。

ただ、支える。

王太子は強く頷く。

「王命を出す」

側近が凍る。

「王命で、供給を命じる」

だが命令で動くのは王家直轄だけ。

領地は別だ。

命令を出せば、線が引かれる。

王太子はそれを理解していない。

公爵領。

報告が届く。

「王太子、王命を検討」

公爵が低く笑う。

「短気だな」

ヒロインは静かに目を伏せる。

「まだ出していないのが救いです」

「出せば?」

「出せば、契約違反の証拠になります」

そして貴族は動く。

王太子が“法を超えた”瞬間。

それは恋ではなく、暴走になる。

「父上」

「何だ」

「焦らせますが、追い込みません」

崩壊は、内部から起きる方が強い。

外圧は団結を生む。

内圧は亀裂を広げる。

市場では、値上げが続く。

兵舎では、矢の配給が制限される。

文官は帳簿を見つめる。

誰もまだ反乱など考えていない。

ただ、不安が積み上がる。

ヒロインは窓の外を見る。

街道は今日も動いている。

止めていない。

だが、流れの速さは変えられる。

「静かに」

彼女は呟く。

嵐はまだ起こさない。

さざ波が、やがて海を変える。
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