永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第11話 動き出す影、試される覚悟

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第11話 動き出す影、試される覚悟


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 王太子の執務室で決定された“方針”は、その日のうちに静かに実行段階へと移っていた。

 表向きは何も変わらない。
 だが、水面下では確実に歯車が回り始めている。

「……勇者ファイエルの周辺を洗え。
 交友関係、過去の行動、些細なことでも構わん」

 王太子の命を受け、密偵たちは夜の王都へと散った。

 英雄であろうと、弱点は必ずある。
 それを暴き、縛り、従わせる――それが王太子のやり方だった。

     ◆ ◆ ◆

 一方、イソファガス邸。

 夜の書斎には、暖炉の火が静かに揺れていた。
 キクコ・イソファガスは、ソファに腰かけ、手元の報告書に目を通している。

「……来たわね」

 短く呟く。

 老執事ガイウスが、一歩前に出た。

「王太子派が、勇者殿の過去を探っております。
 同時に、イソファガス家の周辺にも不審な動きが」

「でしょうね」

 キクコは扇子を閉じ、膝の上に置いた。

「彼は、自分の手を汚さずに勝つつもり。
 でも、そういう人ほど……」

 視線が、炎の奥へと沈む。

「一番、“人の覚悟”を見誤る」

     ◆ ◆ ◆

 その頃、王都・下町。

 ファイエルは、孤児院の裏庭で、木剣を握る子供たちを相手にしていた。

「違う、足を止めるな」 「剣は振り回すものじゃない。体で“置く”んだ」

 子供たちは真剣な表情で、彼の動きを真似る。

「勇者さま、すごい!」

「……“さま”はいらない」

 苦笑しながら、頭を撫でる。

 その光景を、遠くから見つめる影があった。

(……英雄らしい振る舞いだ)

 だが同時に。

(弱点にもなり得る)

     ◆ ◆ ◆

 翌日。

 王城から、正式な通達が出された。

『勇者ファイエルに対し、王都常駐の義務を課す。
 以後、無断での外出・私的行動は制限される』

「……軟禁、か」

 通達を読んだファイエルは、静かに息を吐いた。

「やはり、来たな」

 だが、その表情に迷いはなかった。

     ◆ ◆ ◆

 同じ頃。

 キクコのもとにも、その知らせは届いていた。

「予想通りですわね」

 彼女は、淡々と言う。

「勇者を“王家の所有物”にしようとしている」

「いかがなさいますか?」

 ガイウスの問いに、キクコは少し考え――微笑んだ。

「何もしない」

「……何も?」

「ええ」

 そして、ゆっくりと立ち上がる。

「彼自身が、どう動くかを見る」

 視線は、窓の外へ。

「選ばされる時、人は本性を見せるものよ」

     ◆ ◆ ◆

 その夜。

 ファイエルのもとに、一通の密書が届けられた。

『王太子殿下より、再度の面談要請。
 条件次第では、制限の緩和も検討する』

 彼は、しばらくその文面を見つめ――

 静かに、破った。

「……答えは、最初から決まっている」

 剣を手に取り、立ち上がる。

     ◆ ◆ ◆

 翌朝。

 王城の正門前で、ひと騒動が起きていた。

「勇者ファイエルが、王命を拒否した!?」

「制限を破って外出したって……!」

 ざわめく中、ファイエルは堂々と門を出ていく。

 向かう先は、一つしかない。

     ◆ ◆ ◆

 イソファガス邸。

 門の前に立つ青年を見て、キクコは小さく息をついた。

「……本当に、面倒を引き寄せるわね」

 だが、その目は――どこか誇らしげだった。

「覚悟は、できた?」

 問いかけに、ファイエルは真っ直ぐ頷く。

「はい。
 もう、選びました」

 王太子の影が、確実に二人へと迫る中。

 英雄は、初めて“王命よりも重いもの”を選んだ。

 それが何を意味するのか――
 この時点では、まだ誰も知らない。

 ただ一つ。

 王太子が仕掛けたこの一手が、
 自らの足元を崩す引き金になることだけは、確かだった。
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