永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第13話 王太子の切り札

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第13話 王太子の切り札


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 王城・東の会議棟。
 重厚な扉が閉じられると同時に、室内の空気は一気に張り詰めた。

「……イソファガス家が、勇者を匿った?」

 王太子は玉座に腰掛けたまま、指先で肘掛けを叩いた。
 乾いた音が、苛立ちをそのまま形にしている。

「はい。ジャン・リヒター率いる騎士団は、キクコ・イソファガス様の言葉により撤退しました」

「――情けない」

 吐き捨てるように言い放ち、王太子は立ち上がる。

「所詮は女だ。しかも十七の小娘。
 血筋がどうであれ、恐怖を与えれば黙る」

 側近たちの中に、ひとりだけ視線を伏せた男がいた。
 宰相補佐官・バルディオス。

「殿下。力による制圧は、逆効果になる恐れがあります」

「では、どうする?」

 王太子の視線が、刃のように突き刺さる。

 バルディオスは、静かに一礼した。

「“正統”を使いましょう」

「正統?」

「はい。
 イソファガス家は名門とはいえ、分家。
 そして、キクコ様は“公式には”孫娘という立場」

 王太子の口角が、ゆっくりと上がった。

「……なるほど」

     ◆ ◆ ◆

 その頃、イソファガス邸。

 キクコは書斎で、古い帳簿と家系図を突き合わせていた。
 窓辺には紅茶、机の上には扇子。

「来るわね」

 独り言のように呟く。

「ええ、確実に」

 応じたのは、老執事ガイウスだった。

「王太子は力で押せないと悟った以上、制度と形式で攻めてくるでしょう」

「“正しい手続きを踏んで”、ってやつね」

 キクコは苦笑した。

「ほんと、人間って面倒」

「ですが、厄介ですぞ。
 公式記録上、キクコ様は“イソファガス領主の孫娘”。
 勇者ファイエルとの関係性も、保護を正当化するには弱い」

「分かってるわ」

 彼女は扇子を閉じ、机に置いた。

「だからこそ……“切り札”を使うしかない」

     ◆ ◆ ◆

 その夜。

 ファイエルは、訓練場で一人剣を振っていた。
 無駄のない動き。
 だが、剣筋には微かな迷いがある。

「……考え事?」

 背後から、聞き慣れた声。

「キクコ様」

 彼は剣を収め、振り返った。

「眠れなくて」

「でしょうね」

 キクコは夜風に髪を揺らしながら、隣に立つ。

「王太子は、あなたを“反逆者”に仕立て上げる」

「覚悟しています」

「それだけじゃ足りないの」

 彼女は、静かに告げた。

「次は、あなたの“出自”を問題にする」

 ファイエルの眉がわずかに動いた。

「……俺は、孤児です」

「ええ。だから使いやすい」

 キクコは夜空を見上げる。

「でもね。
 あなたが“何者か”は、私が一番よく知っている」

「……?」

 彼女は、しばし沈黙した後、言った。

「明日、あなたを“正式に”紹介するわ」

     ◆ ◆ ◆

 翌朝。

 イソファガス邸の大広間には、家臣と近隣貴族が集められていた。
 異例の招集だ。

 ざわめきの中、キクコが前に出る。

「皆さん。今日は一つ、重要な発表があります」

 空気が静まる。

「勇者ファイエルについてです」

 貴族たちが息を呑む。

「彼は、単なる客人でも、匿われた逃亡者でもありません」

 キクコは、はっきりと言い切った。

「――私が、育てた子です」

 どよめき。

「剣を教え、生き方を教え、
 そして、命を繋いだ」

 ファイエルは、驚きに目を見開いた。

「血の繋がりはありません。
 でも、それが何?」

 キクコは、扇子を開き、宣言する。

「私は、このイソファガス家の“高祖母”にあたる存在。
 その私が認める以上、彼はこの家の“家族”です」

 沈黙。

 やがて、年老いた貴族の一人が、深く頭を下げた。

「……ご高説、確かに」

 それを皮切りに、次々と頭が下がる。

     ◆ ◆ ◆

 その報告は、即座に王城へ届いた。

「高祖母、だと……?」

 王太子の顔が歪む。

「荒唐無稽にもほどがある!」

 だが、宰相補佐官は首を振った。

「否定しきれません。
 彼女の記録は、三百年前から不自然なほど連続しています」

「……っ」

 王太子は、拳を握り締めた。

「ならば、次の手だ」

 彼は、冷たい声で言った。

「“勇者の役割”を奪え」

     ◆ ◆ ◆

 イソファガス邸の書斎。

 キクコは、報告書を読み終え、ため息をついた。

「来たわね。“勇者解任”」

「王太子は、徹底的ですな」

「ええ」

 彼女は、ゆっくりと立ち上がった。

「でも……それで終わりだと思ったら、大間違い」

 扇子を手に、微笑む。

「私が黙ってると思ってる時点で、甘いのよ」

 王太子と永遠の十七歳。
 制度と呪い、正統と異端。

 その対立は、もはや避けられない段階に入っていた。
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