永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第15話 王太子の焦り、女王の影

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第15話 王太子の焦り、女王の影


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 王城の会議室に、不穏な沈黙が落ちていた。

 王太子は長机の中央に座り、並べられた報告書を乱暴に叩いた。

「……どういうことだ。
 勇者を解任したはずなのに、なぜ民心が静まらない」

 宰相補佐官バルディオスが、慎重に言葉を選ぶ。

「殿下。現在、民の間では“勇者ファイエル”ではなく――
 “イソファガス領の剣士ファイエル”という呼び名が定着しつつあります」

「名前が変わっただけではないか!」

「いえ。意味が違います」

 バルディオスは一枚の書類を差し出した。

「こちらをご覧ください。
 辺境の盗賊討伐、旧魔王領周辺の治安回復、難民の護衛。
 すべて王命ではなく、住民の依頼によるものです」

 王太子の指が、机を強く掴む。

「……勝手に動いている、ということか」

「はい。
 しかも報酬は最低限。ほとんどが無償、もしくは物々交換です」

「民の英雄ごっこか……!」

 王太子は吐き捨てるように言った。

「だが、そんな無秩序は許されん。
 王の管理外で力を持つ存在など、反逆の芽だ!」

 その言葉に、会議室の空気がぴりついた。

     ◆ ◆ ◆

 一方、イソファガス領。

 屋敷の中庭では、ファイエルが木剣を振っていた。
 動きは無駄がなく、鋭い。
 だがそこには、かつての“勇者の義務”による重さはない。

「……やっぱり、動きが軽くなったわね」

 回廊から眺めていたキクコが、ぽつりと呟く。

「自覚はあります」

 ファイエルは木剣を下ろし、素直に答えた。

「今は、誰に命じられているわけでもありません。
 守りたいと思った場所に、剣を振るっているだけです」

「それでいいのよ」

 キクコは扇子を開き、ゆっくりと歩み寄る。

「あなたは“勇者”という役割を脱いだ。
 でも、そのほうがよほど厄介なの」

「……厄介、ですか?」

「ええ。
 命令に従う英雄は、管理できる。
 でも、自分の意思で動く英雄は、止められない」

 キクコの視線は、遠く王都の方角へ向けられていた。

「王太子は、そろそろ本気で焦り始めるわ」

     ◆ ◆ ◆

 案の定、その夜。

 王太子は密かに命じた。

「イソファガス領を監視しろ。
 特に、キクコ・イソファガスの動向を細かく報告せよ」

「……キクコ様、ですか?」

「そうだ。
 すべての裏に、あの女がいる」

 その言葉には、苛立ちと恐怖が混じっていた。

「永遠に若い女など、ただの奇妙な存在だと思っていた。
 だが……違う」

 王太子は低く呟く。

「勇者を育て、魔王を退け、
 今度は王権の外側から国を揺らしている」

     ◆ ◆ ◆

 同じ頃。

 イソファガス邸の書斎で、キクコは一通の書簡を受け取っていた。

「……来たわね」

 差出人は、王城内部の協力者。

『殿下、動き始めました。
 監視と締め付けが強化される見込みです』

 キクコは書簡を畳み、くすりと笑った。

「やっぱり、早かったわ」

 ガイウスが静かに問う。

「対抗策を?」

「ええ。でも、力でぶつかる気はない」

 キクコは椅子に深く腰掛け、足を組んだ。

「王太子は、“権力”で押さえつけようとする。
 なら私は、“信頼”で包囲する」

「……民の、ですか」

「その通り」

 扇子を閉じ、はっきりと言い切る。

「王太子がどれだけ命令を出しても、
 民が“聞きたくない”と思ったら、それはもう効かない」

     ◆ ◆ ◆

 数日後。

 王都近郊の町で、小さな騒動が起きた。
 王太子の命を受けた役人が、
 “王命に従わぬ剣士ファイエルの立ち入り禁止”を通告したのだ。

 だが、町の人々は道を開かなかった。

「この人は、俺たちを助けてくれた」
「王命じゃなくても、必要な人だ」
「追い返すなら、まず俺たちをどうにかしろ!」

 騒動は大きくなり、王城にも報が届く。

 王太子は、報告を聞いて言葉を失った。

「……民が、命令を拒否した?」

     ◆ ◆ ◆

 イソファガス邸。

 キクコはその知らせを聞き、紅茶を一口飲んでから微笑んだ。

「ほらね」

 永遠の十七歳は、静かに言う。

「これが“英雄を解任した結果”よ、王太子殿下」

 そして心の中で、こう付け加えた。

(次は……あなた自身の番ね)

 王太子がまだ気づいていないところで、
 王権の重心は、確実に動き始めていた。
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