永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第16話 王権の檻と、静かな反撃

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第16話 王権の檻と、静かな反撃


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 王城の執務室は、重苦しい空気に満ちていた。

 王太子は机の上に並べられた報告書を睨みつけ、歯噛みする。

「……またか」

 最近、同じ文言ばかりが目に入る。

――王命の執行が、各地で滞っております。
――民が協力を拒否しております。
――理由として、“イソファガス領の判断を待つ”との声が多数。

「いつからこの国は、領主の孫娘一人に振り回されるようになった!」

 怒声を上げる王太子に、宰相が低い声で答えた。

「殿下。
 それは“孫娘”ではございません」

 王太子の視線が鋭くなる。

「……どういう意味だ」

「キクコ・イソファガスという存在は、もはや一個人ではない。
 民にとっては“最後に頼れる判断基準”になっております」

「馬鹿な。
 法も王命もあるというのに!」

「ええ。しかし、法や王命が“民を守らなかった”時代を、
 彼女は一人で背負ってきたのです」

 宰相の言葉は、王太子の胸を逆撫でした。

「だからといって、放置はできん。
 あの女を“檻”に入れる」

     ◆ ◆ ◆

 その数日後。

 王都から正式な勅命が発せられた。

――キクコ・イソファガスを、
――“王国顧問候補”として王城に常駐させる。

 文面だけを見れば、栄誉ある抜擢。
 だが実態は、明確な囲い込みだった。

 イソファガス邸の応接間で、キクコはその勅書を一読し、扇子で口元を隠した。

「……なるほど。
 私を王城に縛りつけるつもりね」

 ガイウスが静かに言う。

「断るのは難しいかと」

「ええ。断れば、“王命拒否”の口実を与える」

 キクコは立ち上がり、窓の外を見た。

「でも、王城に行く=動けなくなる、と思ってるなら大間違いよ」

     ◆ ◆ ◆

 同じ頃、訓練場。

 ファイエルは剣を収め、報告を受けていた。

「……キクコ様が、王城へ?」

「はい。
 “顧問候補”として、正式に」

 彼の表情が一瞬、曇る。

「それは……」

「檻、だな」

 リヒターが低く呟いた。

「だが、あの方が素直に閉じ込められるとは思えん」

 ファイエルは、ゆっくりと拳を握った。

「……それでも、心配です」

「なら、備えろ」

 リヒターは真っ直ぐに言う。

「剣は、使うためだけにあるわけじゃない。
 “使わずに済ませるため”にも、必要だ」

     ◆ ◆ ◆

 王城。

 キクコは、久々に王宮の回廊を歩いていた。
 十年ぶり、いや、正確には“何度目か分からない”帰還。

「……変わらないわね」

 その呟きには、懐かしさよりも諦観が混じっていた。

 用意された部屋は豪奢だった。
 だが、扉の外には常に近衛兵が立つ。

「……分かりやすい」

 キクコは苦笑し、椅子に腰掛けた。

 その夜、彼女は静かにペンを取り、数通の手紙を書いた。

 宛先は――
 各地の領主、商会の長、教会関係者、そして一部の元将官。

     ◆ ◆ ◆

 数日後。

 王城の会議が、思わぬ形で混乱する。

「殿下!
 北部の交易が止まっております!」

「南部でも、徴税が滞っております!」

「教会が、“独自判断での救済活動”を始めたとのことです!」

 王太子は、愕然とした。

「なぜだ……
 なぜ、同時に?」

 宰相が静かに答える。

「……“相談相手”が不在だからです」

「相談相手?」

「ええ。
 皆、キクコ・イソファガスの判断を待っております」

     ◆ ◆ ◆

 その頃、キクコは自室で紅茶を飲んでいた。

「……ほらね」

 彼女は、報告書を読みながら呟く。

「私を閉じ込めたら、国が止まる。
 これは反逆でも陰謀でもない。
 ただの“現実”よ」

 扇子を閉じ、静かに目を細める。

(さあ、王太子殿下。
 次は、あなたが“お願いする番”)

 王権の檻は、音もなく軋み始めていた。
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