永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第20話 王の決断、少女の平穏

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第20話 王の決断、少女の平穏


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 王都は、久しぶりに“静かな騒ぎ”に包まれていた。

 噂は風よりも早い。
 だが今回は、いつもの下世話なものとは違う。

「新王が、何かを決めたらしい」
「でも、内容が一切漏れてこない」
「会議の後、誰も口を開かないんだと」

 ――それが、逆に不気味だった。

     ◆ ◆ ◆

 王城、執務室。

 アルフェリット・ロワイヤルは、一人で書簡を読み終え、ゆっくりと目を閉じた。

 そこに書かれていたのは、
 王家資料庫・最奥に保管された“例の記録”の要約。

 直接的な表現は避けられている。
 だが、王として理解するには十分だった。

(……そういうことか)

 彼は、静かに息を吐く。

(キクコは、最初から――
 王座を避けるためじゃない
 “国を守るため”に動いていた)

 拳を握る。

(それを、十七歳の少女が、三百年も)

     ◆ ◆ ◆

 扉を叩く音。

「入れ」

 現れたのは、王弟殿下だった。

「……顔を見れば分かる。
 知ったな?」

「ええ」

 短い返答。

 王弟は、深く頷いた。

「ならば、どうする」

 アルフェリットは立ち上がり、窓辺へ向かう。

「――何もしません」

 王弟は、驚いたように目を見開いた。

「何もしない、だと?」

「正確には、
 “何も変えない”」

 アルフェリットは、はっきりと言った。

「キクコは、キクコのままでいい。
 イソファガス家の“孫娘”。
 十七歳の、少し変わった令嬢」

「……それで、よいのか?」

「それが、彼女の望みです」

     ◆ ◆ ◆

 王弟は、ゆっくりと笑った。

「なるほど。
 ようやく、王らしい判断をしたな」

「王としてではありません」

 アルフェリットは振り返る。

「一人の人間として、です」

     ◆ ◆ ◆

 その日の夕刻。

 王都から、正式な布告が各地へと送られた。

――イソファガス家の地位と権限は現状維持
――キクコ・イソファガスは、王国功労者としてのみ記録
――これ以上の詮索、調査を禁ずる

 理由は、書かれていない。
 だが、命令は絶対だった。

     ◆ ◆ ◆

 数日後。

 イソファガス領。

 庭の木陰で、キクコは紅茶を飲んでいた。

 そこへ、一通の書簡が届けられる。

「……あら?」

 差出人を見て、彼女は小さく笑った。

「……やっと、わかったみたいね」

 内容は短い。

『これ以上、貴女の平穏を乱しません。
 それが、王としての私の答えです』

 署名は、
 アルフェリット・ロワイヤル。

     ◆ ◆ ◆

「ふふ……」

 キクコは、紅茶を一口。

「遅いわよ、坊や」

 だが、その声には苛立ちはなかった。

 ただ、少しの安堵。

     ◆ ◆ ◆

 夕暮れ。

 剣の稽古を終えたファイエルとレオンが、息を整えている。

「師匠」

「なに?」

「……最近、少し機嫌がいいですね」

「そう?」

「はい」

 キクコは、空を見上げた。

「たぶんね。
 やっと“何もしなくていい日”が来たの」

「それって……」

「平穏ってことよ」

     ◆ ◆ ◆

 夜。

 書斎で一人、キクコは日記を閉じた。

 そこには、今日の日付と、短い一文。

――今日も、何も起きなかった。
――とても、良い一日。

 永遠の十七歳は、
 静かに灯りを消した。

 彼女が守り続けた平穏は、
 ようやく“誰かに託され始めていた”。

 物語は、次の章へ進む。
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