永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第22話 王の訪問、少女の本音

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第22話 王の訪問、少女の本音


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 その日、イソファガス領にありえない来客があった。

 王都から続く街道に、王家の紋章を掲げた馬車。
 護衛は最小限。
 だが、誰が見ても分かる――本物の王の訪問だった。

「……あら?」

 庭で紅茶を飲んでいたキクコは、馬車を見た瞬間、察した。

「これは“公式”じゃないわね。完全に私用」

     ◆ ◆ ◆

 応接間に通された来訪者は、案の定だった。

 アルフェリット・ロワイヤル。
 若き国王は、王冠も正装も身に着けず、旅装のまま立っていた。

「突然で申し訳ない」

「本当にそう思ってる?」

「……半分くらい」

「減点」

 キクコは椅子に腰を下ろし、紅茶を注ぐ。

「それで?
 国がまた止まった?」

「いいや。今回は違う」

 アルフェリットは、静かに首を振った。

「国は……動いている。
 君が引いたあとも、ちゃんと」

 キクコは、ほんの少しだけ目を細めた。

「そう。それなら何より」

     ◆ ◆ ◆

「今日は」

 アルフェリットは、少しだけ言いづらそうに続けた。

「王としてではなく、
 “幼い頃、森で助けられた少年”として来た」

 キクコの手が、一瞬止まる。

「……その話、覚えてたの?」

「忘れるわけがない」

 彼は苦笑した。

「泣いて、道に迷って、
 死ぬと思ったところを助けてくれた」

「……あのときの坊やが、国王ね」

「そうだ」

     ◆ ◆ ◆

 沈黙。

 やがて、アルフェリットは深く頭を下げた。

「ありがとう」

 短い、だが重い言葉。

「王としてではない。
 一人の人間として」

 キクコは、しばらく黙っていたが、やがて肩をすくめた。

「……今さらね」

「分かっている」

 それでも、彼は顔を上げない。

「それでも、言わなければならなかった」

     ◆ ◆ ◆

「ねえ、アルフェリット」

 キクコは、静かに言った。

「あなた、私を“永遠の十七歳”だとは思ってないでしょう?」

 彼は、即答した。

「思っている」

「嘘」

 ぴしゃり。

「正確には、
 “十七歳に見える人”だと思ってる」

 キクコは、ふっと笑った。

「それでいいわ」

     ◆ ◆ ◆

「私はね」

 彼女は、紅茶を一口飲む。

「誰かの人生の“理由”になりたくないの」

「……」

「勇者の理由。
 王の理由。
 救世主の理由」

 視線を上げる。

「誰かが“私のために”動く人生は、
 その人の人生じゃなくなる」

 アルフェリットは、静かに頷いた。

「……分かった」

     ◆ ◆ ◆

「でも」

 彼は、顔を上げた。

「それでも、君の隣に立ちたいと思うことまで、
 否定しなくていいだろう?」

 キクコは、ため息をついた。

「ほんと、厄介な王様」

「自覚はある」

     ◆ ◆ ◆

 立ち上がり、帰り支度を始めるアルフェリット。

「今日は、それだけだ」

「わざわざ来て?」

「ええ」

 扉の前で、彼は振り返った。

「……答えは、急がない」

「ええ」

「君が選ぶまで、待つ」

     ◆ ◆ ◆

 馬車が去ったあと。

 キクコは、庭に戻り、椅子に腰を下ろした。

「……まったく」

 空を見上げる。

「どうして、みんな
 “平穏”をそんなに壊したがるのかしら」

 だが、胸の奥には、微かな温かさが残っていた。

     ◆ ◆ ◆

 その夜、日記にはこう書かれた。

――今日は、王が来た。
――肩書きなしの、ただの少年として。
――少しだけ、ずるい。

 永遠の十七歳は、
 静かにページを閉じた。

 物語は、確実に終着点へ向かって動き始めていた。
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